第110部 ソフィア編 デーヴィッドとシーンプと
1244年12月17日 ポーランド・グダニスク
*)ゾフィとシーンプと新婚さん
喜ばしい事に三人は勘定の事を忘れて飲んでいる。エルザは開店初日から大儲けになり喜んだ。また初日だからという事で食材は少な目にしていたから、売り切れになりやむなく水を差した。
エルザは勿論どんぶり勘定なのだろう、一人に付き金貨一枚を請求する。
「飲み代は金貨四枚だよ。明日からしっかり働きな!」
「えぇ~そんな~あんまりだ~!!」
優しいエルザの口調が厳しく響く。すっかりパブの女将さんになったような一声だった。つい先月まで館で働いていたから給金の心配は無かったのだから。ここグダニスクに来てからは自分らで金を稼ぐ必要が出て来た。大黒柱といえば、ライ麦を売りにいっても持ち帰るのは金ではなくて、そう、ライ麦その物だ。いつもいつもため息と共に夫は帰ってくるのだった。当然、蓄えは底をついている。
「当然だろう。明日からの賄いにもお金がかかるんだよ。男は倉庫ね、女のあんたはパブだね。」
三人はぶつぶつと、小言を言うがそれをゾフィが許さなかった。
「マクシムさんが、帰って来るまでの辛抱ですわ。皆さん、頑張りましょう。」
ギーシャはデーヴィッドにマクシムの寄港予定を尋ねたら、
「マクシムさんたちは航海へ出たばかりだ。」
戻ってくるのは1月初めになるという。デーヴィッドとエルザは格安の労働力を得て喜んだ。
シーンプは、
「ちぇ! オレグさんとそっくりだ……。」
この夫婦はオレグに毒されていたのだった。リリーは翌朝にお肉とビールをしこたまお腹に詰め込み、ニコニコしながらブランデンブルグへ帰っていった。
「ゾフィ、あんたは男なの?」
「うん女だよ。それがなにか???」
「ねぇデーヴィッド。ゾフィはどうしようか。」
「あぁ、あれの仕事はな……、どうしよ……。」
悪酔いしている連中は二階の宿部屋に押し込まれた。幸いにもリリーの部屋はリリー独りにされていた。
*)あなた達の仕事は、銀貨、銅貨の回収です
翌日になりシーンプとギーシャ、ゾフィは倉庫に案内された。
オレグの倉庫に入ったシーンプは驚いた。
「すんげ~こんなにライ麦と小麦が備蓄されている!」
「シーンプさん、麦だけではありませんよ、パンの材料の麦粉も多数保管していますよ。でもこれは全部、私共の商品ですよ。(どうだ!!)」
「ほぇ??」
シーンプは倉庫の外に出て看板を見た。すると、
「あっ!! デーヴィッド商会、という看板を掲げてある!!」
「他には木の器、お皿があります。これはぜひにイングランドへお持ち帰りにされませんか?」
「はい喜んで買わせて頂きます。ですが暫くはポーランドやデンマークに滞在しますので、私の用件が済みましたら寄らせて頂きますね。」
「なにとぞ、デーヴィッド商会をよしなに!!」
「えぇもちろんですとも。」
「ではシーンプさんたちには、これらのライ麦の販売をお願いします。」
「私が買ったらダメなのですか??」
「はいお売り出来ません。ぜひともに!!……と言われるのでしたらそうですね~銀貨で三十万枚と銅貨で五十万枚になります。」
「おおそんな、それでは支払いが出来ません。」
「そうでしょうとも、トチェフに貨幣制度を導入する為に、たくさんの硬貨が欲しいのです。」
「金貨は??」
「金貨は農民には高すぎて使えません。金貨は、い・り・ま・せ・ん!!」
「ですね。だからですか小さく小分けして販売されるのは……。」
「はい、さようでございます。なにか手っ取り早く販売が出来ればいいのですが、他に販売する方法を思い浮かばないのですよ。」
「オレグさんには相談されましたか?」
「いいえ、私は何も言いませんでしたし、オレグさんからは何も言われませんでした。ここに来た時には考えも及びませんでした……とても残念です。」
「デーヴィッドさん、もしかしましたら、オレグさんに何か言いませんでしたか? その……例えば荷物を運べとか・・?」
「あっ! そうです。大量のライ麦を蔵入れする時に言いました。あ~~失敗しました。荷物を入れろと言いましたよ……確かに言いました。」
「ではオレグさんは素直にライ麦を運んでくれたのですか?」
「はい、あの隅のライ麦粉がそうです。それがなにか……?」
「デーヴィッドさん、そのライ麦粉を見てみましょうか。」
「はぁ、それが……意味があると??」
シーンプはデーヴィッドの後について行き、オレグが担ったライ麦粉を見た。
「これです。ここからここまで、おおよそ五十袋でしょうか。私はオレグさんがどうして離れた所に袋を下すのか意味が理解出来ませんでした。」
「これはライ麦粉の特上品でしょう。ほらここに書いてありますよ、この麦粉はパブやパン屋に販売するようにと、ね。」
「ああぁ、本当だ。」
「だとしたら他の麦粉は良品ですね、個人へ販売する物です。この特上品は私が全部売って来ましょう。ただし、金貨と銀貨がその代金になりますね。それだけはこの私にもどうする事もできませんのでお許し下さい。」
「はいその分高く売れるのでしたらまったく構いません、じゃかすかと全部売って下さい、よろしくお願いします。」
「ではデーヴィッドさん、グダニスクのパン屋さんの場所を教えて下さい。」
「あ、いえ、いや、私は知りません。」
「あんたは商人ですか、それとも執事のままですか……。」
「す、すみません、何も情報を調べていません……。」
「か~ぁ~ぁ~ぁ~ぁ~、貴方は落第です、商人には向きません。至急エルザさんと交代されて下さい。」
「それを言いましたら、女房にどやされます。勘弁して下さいませ……。」
「ではデーヴィッドさん。ひとまず倉庫は閉めてですね、このグダニスクの市場調査に行きましょうか。手ぶらでは損ですので穀物は一通り積んで荷車を曳いて行きますよ。準備されて下さい。」
「はい大八車でよろしいですね。」
「馬が居ませんので仕方がありませんね。馬の代わりは私共になりますね。」
「はいお願いします。」
「では銀貨銅貨を稼ぎに行きましょう。」
*)グダニスクの市場探査
デーヴィッドは今まで領主のエリアスに仕えてきたから人の言う事を聞くのに慣れてしまっている。自分から考えようとはしないのだ。ここが宮仕えの不毛なところだ。
なんでもかんでも前例通りに事を進めようとする。自ずから思考停止状態なのだ。可もなく不可もなく、が、役人の思考回路。また人に仕える人も同じ傾向にある。上に立つものが不毛ならば、下で仕える男もまた後々に毛が抜けた不毛な頭となるのが落ちだ!!
その点、商人は自分自身で考えて行動しなければならないし、臨機応変に素早く事を進めなくてはならない。シーンプから見る役人は、役立たずに見えるというから恐れ入る。
何をするにも街を歩くにも、常に頭のアンテナは立てておかねばならない。特に小説を書く人にはとても重要な事だ。布団の枕元にも紙と鉛筆は置いておく必要がある。時々夢でも文章を書いている夢を見るものだ。覚えておく事は不可能だ、すぐに夢となって消えていく。夢の中の夢だありえないかも?
商人とは己の知識が最大の武器となる。知識の無い人は永遠に独立は出来ないものだ。一生、人に使われるしかない一人では生きていけないのだ。自分の首も人任せではカナワナイ。
そう……思いませんか??
皆さんも己の首の行く末を考えて欲しい。 これはとても重要な事です。人生の意地悪な試験には必ずそれも何度でも出題されます。
これが人生の岐路です。
オレグやシーンプは目にした物で売れそうな物は全て売るという強者だ。この時代では水さえも売る事が出来るのだ。
「シーンプさん準備が出来ました。シーンプさん?……?」
「あぁすみません、考え事をしていました。」
「どうせつまらない御託を並べていたのでしょう?」
「ははお恥ずかしい限りです。私も忙しい時期は過ぎましたので、これからはラノベを書いて過ごそうか思っていたところです。」
「今はコロナの時です。物が在っても売れないのですから、どうにもこうにも行く手が見えません。ラノベで飯が食えるのですか? あ、あん??」
「むむむ……り。」
「ほらそうでしょう。」
シーンプは返す言葉も浮かばない。だからデーヴィッドをいじめる事にした。
「デーヴィッドさんはまだ先を見てはいないでしょうか? 私が言うまで気づかないのですから、世も終わりです。」
「そんな~。シーンプさん私は、デーヴィッド商会の看板を上げたばかりです。これからが人生なのです。水を差すような事は言わないで下さい。」
「はいはい、それはすみません。ゾフィさんとギーシャさんも連れて行きますので、よろしいでしょうか。」
「それは馬です。」
「デーヴィッドさん、その考え方はよろしくありません。ワンマンの独裁者の思考です。これではすぐにデーヴィッド商会も潰れてしまいます。よ。」
「そうなんですか、ではどうしろと?」
「ど*しろうと? それは、その馬にも考えさせなければなりません。」
シーンプは故意に(*う)の文字を抜いて言ったのだが、デーヴィッドは気がつかないでいた。
「はぁ、さようですか、して?」
「デーヴィッドさんは商人でしょうが、ならば、指示待ちしないで自分で考えなさいよ。」(大概で考えろ!!)と思うシーンプ。
倉庫を出て街中に入った。先の方には商店がまばらでは在るが、在るのだ。
「デーヴィッドさんあの店に行きましょう。あれはパン屋さんでしょう?」
とゾフィが言うのだった。
「あっ、そうですね。突入しましょう。そして上級の麦粉を売りましょう。」
やれやれ! と思うシーンプだった。(ここは気づくまで黙っていよう)とこころで呟いている。
「ゾフィさん見本の麦粉を持って下さい。私が声を掛けてます。」
「はい、にっこりとほほ笑んで持って付いてきますわ。」
セールス・スマイルの気色悪いゾフィの笑顔。
「ちわ~デーヴィッド商会です。麦粉を勧めに来ました。」
「おうそれはいい。見せて下さい。」
「はい喜んで~……、ゾフィお見せしなさい。」
「わぉ、これは肌理の細かい麦粉ですね~なんぼかね。」
「はいこの袋で金貨2枚です。」
「おう、帰んな。他に行けや。!!」
「?……どうしてですか、こんな上等な麦粉は他には在りませんよ?」
「おう、そうだろよ。俺が見ても高級品に見えるぜ。だがよ、このパン屋には向かないよ。判ったらとっとと帰んな!」
「えぇ~~~。??」
意味が解らないデーヴィッドを差し置いてシーンプは、
「パン屋のご主人。ここは許して下さい。昨日から商人に転向した人間です、場違いな商品を勧めてしまいました。こちらには、やや劣りますがこれらの麦粉をお勧めいたします。この特大の袋で初値として銀貨十五枚になります。どうです?」
「ほらギーシャ。見本を出しなさい。」
「あ、……はいシーンプさん。……目が粗いのですが美味く焼ける程度までライ麦を搗きこんでおります。こちらでしたらとても美味しい黒パンが焼けます。パンの金額も一割上げても売れますよ。特にご婦人には勧めて下さい。飛ぶように売れる事、間違いありません。」
「おうそうかい。この粗さで銀貨十五枚だね。………よし、今日は買ってやろう。その代り……。」
「はい、この見本は差し上げます。」
「どうか、従来品と試食されて下さい。美味しいの一言ですよ。」
「おうそうかい。少し待ってろ。金を持ってくる。」
「一、二、……十四、十五。枚だ、また来てくれ。良かったら買うかもしれね~。」
「はいありがとうございます。今後もデーヴィッド商会をお引き立て下さい。」
シーンプは得意げにパン屋から出て来た。デーヴィッドはそれを捕まえて、
「なぁシーンプさん、どうしてだ、教えて下さい。」
「デーヴィッドさん、大概で自分の頭で考えて下さい。」
「んもう~!!」
「ゾフィさん貴族街はどっちだい。貴族の方のパン屋に行きたい。」
「ならばここを右に進めばいいよ。領主や商人の家が在るからさ。」
「ゾフィ今度は最上級品を売るよ。金貨三枚だ。見本は出来ているか。」
「あぁ出来てる……、はい用意していますわ、おほほほ……。」
「シーンプさん、さっきは金貨二枚で売れませんでした。それを、金貨三枚で買うはずはありません。」
「デーヴィッドさん、それはどうでしょうか。見てて下さい。」
「ほらあそこに在るぜ……、いえ、在りますよ。」
「よっしゃ、ここには麦粉を三袋、金貨九枚ですね。」
「ゾフィさん、突撃~!」
「ラジャ~……。」
「ちわ~デーヴィッド商会です。ライ麦の目の細かい麦粉の販売に来ました。この柔らかい麦粉です。美味しい黒パンが焼けますよ。」
「むむ。こ、これは素晴らしい。幾らだ。」
「はいこの大きい袋で金貨三枚です。どうです、お安いでしょう。」
「む、むむ・・。」
「若いご婦人に勧められましたよろしいでしょう。一度食べさせれば、後は…」
「後は……。??」
「毎日買いに来るでしょう。」
「よし買った。ちょうど切れるところだったさ。……金貨十五枚だ、五袋を買うぜ。」
「はいありがとうございます。今後もデーヴィッド商会をお引き立て下さい。」
「お、おおおぉぉ・・・・。」
デーヴィッドは目を大きく開いて白黒させて驚くのだった。ここは金持ちを相手にするパン屋だ、店も綺麗で清潔に見える。
「そうか、ここは高く売れて、さっきの貧民のパン屋には低級品しか売れないのか~、そうか、そうなのか……。」
ようやく理解が出来たデーヴィッドだった。
「エルザもきっと驚くぞ!」
その頃エルザは、
「うちの宿六は麦粉を売ってるだろうかね~、ま~たぼうずで帰ってくるよね。」
「エルザさん、毎日ですか??」
「はい今まで売れたのが三回ありました。あれは奇跡だったような~。」
「なに大丈夫ですよ。私の主人がついていますもの。」
「あんたの主人はシーンプさんかえ?」
「まぁ失礼しやうわ。ギーシャです。」
以後のデーヴィッドは多少もたついたが、次々と商談をまとめてきた。十日後からは倉庫に店番を置くほどまでに繁盛するようになった。
「デーヴィッドさん、評判が上がればセールスに行く必要は無くなります。ここで待っているだけで売れるようになりますよ。」
「それはいい……とてもいい!!」
倉庫兼店の入り口の右側に木の食器を置いていた。これはキリスト教の教えに反するものだが一枚、二枚と皿や器が売れ出した。
「なにも説明せずなにも勧めず。ただ使っているところを見せるだけ。」
とシーンプは説明した。
「デーヴィッドさん、私がイングランドに買って帰る食器は残りますか!」
「たぶん無理だろうね~。」
そこに息を切らせて若い女が飛び込んできた。
「デーヴィッドさん、ビールを運んできました。明後日は新年です。じゃかじゃか売って下さい。」
「これはエレナさん。いつも配達ありがとうございます。」
ソワレとエレナ、それと村の男の五人がビールと肉類を運んできた。
「今からせいもん払いたい。はよう準備すっぞ!」
すぐに人の波が押し寄せてきた。
「肉~野菜~ビール~ベーコン~ソーセージー~。」
「下さい、ください~。」
「それは私が先よ。」
「なによ、先に掴んだ方が勝ちなのよ。……あんた、嫌いよ!!」
「………………。」
「これからはデーヴィッド商会も安泰だね~。」
1245年1月10日 ポーランド・グダニスク
*)マクシムとの会合
デーヴィッド商会はグダニスク中のパブから、特に港に近いパブからだが、多数の注文が入るようになっていた。肉やビールがたくさん売れている。
「あ~水夫さまさまだぜ。早くも追加しなくてはならないな。」
「あんた十日前に仕入れたばかりよ? もう少なくなったんだね。」
「あぁそうなんだ。なんでも西にはバーべキュウが出るらしくてな、船を出したくないらしい。」
「デーヴィッドさん、それならヴァイキングでしょう。デンマークが海賊をしていますから、船を奪われるからでしょうね。」
「シーンプさん海賊はいつもの事でしょう。今までとどこが違うのですか?」
「はい西側諸国に大きな災害が起きたと思われます。デンマークも被害に遭って物資や船が欲しいのでしょう。だから、今まで見逃していた船も襲撃するようになったのだと思います。」
「ほえ~あんた詳しいんだね。」
「当たり前です。私は二つの海を股にかけたハンザ商人ですから当然です。」
「そんな事よりも、早く麦粉とライ麦、肉、ビールの配達に行きますよ。」
「そうですね、ここはゾフィさんとギーシャさんでお願いします。」
「あたしゃパブの開店に行くよ。子共も腹空かせて待っているからね。」
エルザも子供を産んで育ててすっかり母親となっている。どっちだったか思い出せない。もう一歳半ほどになるから可愛い盛りだ。
「息子だよ、しっかりしてよ。それと早く名前もつけておくれ!」
「こんにちは~デーヴィッドさんはいらっしゃいますか~。食品の買い付けにまいり……。」
「あっ、あんた……は、マクシムさん……。」
「やぁ神父、いやシーンプさんですね……どうしてこちらに?」
「はい私はマクシムさんの帰りを待っていたのです。それよりも、今日は買い付けにですね。」
「はいデーヴィッド商会さんの食品がとても良いと聞きましたので、こうやって足を運びました。するとこのデーヴィッド商会とは?」
「はい、トチェフ村の産直販売ですよ。オレグさんの息の掛かった商品が多数並んでおります。」
「デーヴィッドさんは初めてでしょう、こちらが噂していましたマクシムさんです。」
「はい、お噂はカネがね聞いておりました。」
「むむむ……、金がね~?? 失礼な!!」
「いいえ、かねがね、です。聞き間違えないで下さい。」
デーヴィッドもだいぶんと商人らしくなっていた。マクシムの事は聞いた事もないのだ。名前しか知らない。なのに噂はかねがね? 白々しい嘘もつけるようになっている。
「はは冗談です、マクシムと言います。よろしくです。」
「こちらこそ、デーヴィッドと言います。よろしくお願いします。」
「こちらの食品がとても良いと評判を聞きましたので、買い付けにきました。肉やパン、ビール等を、……そうですね~1万食分を売って欲しいのですが? 可能でしょうか。」
「あいにくと、ほとんどが売り切れ状態です。いつまでにご用意すればよろしいのでしょうか。」
「はい、次の出港までには必要ですね。オレグさんが居ればすぐに届くはずですが、……出来ますか?」
「ではマクシムさん、船を出して頂けませんか? それもシビルさん達を付けて下さい。トチェフへ行きまして載せてまいります。」
シーンプは(およよ!デーヴィッドはすっかり商人になっている、)と思った。マクシムの一万食と聞いても動じなかったのだから。
「マクシムさん、ちゃんと計算して下さいよ。三万食になりませんか……?」
シーンプが直ぐに計算を始めた。船・六十五艘、人員六百五十~七百人。延日数が十五日としたら700x15x3=31500になった。
「ゲゲ、三倍ですね、マクシム商会で船員に売り付けますので、四万食で注文いたします。」
「代金は四万x銅貨二十五枚=*****です。よろしくお願いします。」
「あぁ構わないよ。それとも銀貨を半分混ぜようか?」
「はいそれでしたら大歓迎いたします。」
「シーンプさんの話は船で聞くよ。すぐにトチェフへ行こうか!」
「は、はい、お供いたします。」
「デーヴィッドさんはここに残って商売をしてくれ。俺とこのマクシムさんとでいくからいいよ。」
「では発注書を書きますので、代金はオレグさまにお支払いをお願いします。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。マクシムさんは大量の硬貨をお持ちなのでしょうか?」
「シーンプさん、なにも問題はありません。現金もたくさん持っていますよ。今だけですが……。」
「ほほうそれは素晴らしい。大きい商談になったのですね、オランダ近辺は大災害なのですか。」
「はいさようでございます。」
「ではマクシムさん。オレグさんが喜ぶように他にもたくさん仕入れて下さいよ、出来ますでしょう?」
「はいもちろん予定しております。麻の着物に建築金物、板材に鍋に、そからまだありますがすべてオレグさんはもう揃えて待っている事でしょうか。」
「ゲゲ、いくらオレグさんでもそのような先見の明はありませんでしょう。」
「はてさて、それは行けば判りますよ。馬で知らせても構いません。一日早く知ったところで三万食とか揃える事は出来ませんよ。違いますか?」
「はい……ごもっともでございます。」
「あなたもハンザ商人と名乗ってあるそうですね、でしたらお分かりにならなければなりませんよ。」
「うぐ~、元イングランド商人と今後は名乗ります。」
「はいそうなさってください。神父さま!」
「うぐ~どうしてそれを……。」
「偽名とは早くから見抜いておりました。実名は判りませんがね!」
「そうでしたか、私もまだまだですね。反省いたします。」
デーヴィッドはこの二人の会話についていけなかった。
「次元が違うな~言う事が判らないよ。」
(いつも低次元です……はい。)
1245年1月11日 ポーランド・トチェフ
翌日の朝、シビルと魔女らが招集されていた。船は別の傭船を使う。大船団の船はライ麦などの積み込みで忙しいのだ。水夫もかけもちらしい。そのような賑わう船を恨めしそうに眺める船長にマクシムは声を掛けていた。
「マクシムさん、あの人たちのガス抜きですか。」
「はい仕事は割り振ってやりませんと、いけませんよ。エコ贔屓はいけません。」
「はいそうでしょうか。私からしましたら特定に決めたが、エコのように思いますが。」
「確かにシーンプさんが言われるとおり、特定に決めたが安いですよ。でもね、いざ鎌倉! の時は、声を掛けても金を積んでも動かない時もあるのです。どちらが良いと思いますか?」
「はいそのようですね。この時期がそうですね。傭船にとても苦労されたとか聞きました。」
「そうですよ。昨年私は五艘をデンマークに略奪されましたから、ヒシヒシと肌で感じましたよ。これからはコギらずにまっとうに生きようと思いましたね。これは本当ですよ。」
「そうですか、今後は私も実行いたします。」
「旦那、出港の準備が出来ました。」
「おう、せかせてすまないな。すぐに乗船する。船を出してくれ。」
「旦那の船の人足はへたってますが、なにか?」
「はい、とても重い荷物を積ませましたので、すみません、曳航して頂けませんでしょうか。シビルに伝えて欲しいです。」
「私は構いません。シビルさんに言えばよろしいのですか?」
「はいそれだけでよろしいです。」
「では乗船の後にお話は伺いましょうか。」
「金貨百枚に値する情報です。」
「ほっん~ぇ~ぇ~!!!」