第109部 ソフィア編 ソーセージと法律は、作られる過程を知らない方が面白い!!
*)ソーセージと法律は、作られる過程を知らない方が面白い
とは、ドイツのことわざをもじったものだ。ソーセージを作る時、肉や血の他にセージやハーブ等の香辛料、塩を混ぜて腸詰にして作る。混ぜ物は個人の好みにより自由に作られる。これに麦角を混ぜれば人も殺せる。ヒ素を少し混ぜれば?
キツネの手袋、別名ジキタリスという園芸の草花が道の駅で売られていた。これも立派な毒草だ。ドクダミには毒は無いが……。
今日本では、
「緊急事態宣言」を可能にする新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案が考えられている。首相も外郭団体を作って菅さんを追いやってからこの法案を実行するかも知れない。法律の名の元に、会社等に色んな命令を出す事が可能になるそうだ。
法律とはそういうものだろう。法案の立案とかは知らないほうがいい”というのが、このドイツの諺だ。
さて、シーンプやソフィアが考えるデンマーク攻略とは、皆さんはまだ知らない方が面白いに決まっている。今日のニュースでそう思ったから書いてみただけですが……。
1244年12月18日 ドイツ・ブランデンブルク
*)新しい旅立ち、ゾフィとシーンプ
翌朝になりソフィアは、
「リリーお願い。」
「はいお姉さま。マティルダさまにお別れを告げるのですね。」
「私ではきっと喧嘩になるかも知れませんもの。よろしくね。」
「でしょうね、ハイルヴィヒお母様に両替をお願いしますからと、使えない大金貨を持たせて、その後は知らないわ! と言うマティルダだからね。腹を立てれば喧嘩にもなるでしょう。」
「えぇそうよ。今はこの怒れる気持ちを腹に収めているところなの。堰を切ったように流れ出る事になったら私も命に係わるからね。」
「お姉さまがお怒りになったら国が滅びますからね。」
「リリー、いくらなんでもそんなに強くはありませんよ。地方は? どうだか知りませんが……。」
「ほらお姉さま。ブランデンブルグは一地方の名前ですわよ。」
「わ~リリー、マティルダが聞いたらとても怒るわよ。」
「そうかしら、私なら大国も沈めて見せますわよ。」
「お~怖!!」
「でも、そこまで魔力が続きませんもの、街一つがせいぜいです。」
「だったら、この城を潰して行きましょうか。」
「それには賛成しますが、後々の仕事に差支えがありましょうから止めておきます。」
「そうねそれが利口だわ。今に思い知らせてやるわ。」
「お~怖!!」
と今度はリリーが言った。微妙なところで意味不明な言葉がかみ合っている。ソフィアが言う今とは、本当に今すぐにでも、という意味なのだ。リリーが感じ取った今とは、そのうちに、という時期が判らない未来の事だった。
「お姉さま、気が静まりましたか?」
「えぇそうね、リリーのお蔭で奇が少し収まりました。」
「お姉さまは、変な奇の方の文字が似合いますから、妹の私も心配です。今からマティルダさまに会って挨拶してまいります。」
「ゾフィ、メイドに変身して私をマティルダさまの居室へ案内しなさい。」
「はいお姉さま。喜んで~!」
薄ら笑いでゾフィが返事した。(これはこれで見ものになるわ!)と思うゾフィだった。
「うふふふ……。」
「なにを笑っているのです。ゾフィはシーンプと旅支度をなさい。」
とゾフィに命令するのだが、二人からの命令は同時に行動出来ない。
「そんな、お姉さま二人に命令されても困ります。先にリリーお姉さまの用件を叶えますから、……でしょう?」
そう言いながらリリーとゾフィが出て行った。半日過ぎて戻ったリリーは、
「ソフィアお姉さま、私、私……。」
「えぇ何も言いません。怒ったりしませんよ。リリー大役ありがとう。」
「いいえお姉さま、この家紋付の証書を頂きましたの。褒めて下さい。」
「まぁ……これは大金貨の保証書ですの? よ、よくやりましたね。」
ソフィアは鳥肌になりながらそこに書かれた文字を読んでいる。
「リリー、この紙に魔法は掛かっていませんか?」
「えぇ心配いり………ま…せん。文字が消えるまでは、後十日は掛かりそうです。」
「やはりそうですか、十日間しか余裕がないのですね。ハーメルンまで飛べますか?」
「そうですね、先にゾフィとシーンプをグダニスクへ送ります。あ、新婚の二人も添えておきます。お姉さまとはその後で飛んでみます。」
「作戦が少し変りますが急ぐ必要がありますから仕方がありませんね。」
「はいお姉さま。今日は戻れませんのでお独りで自重されて下さい。くれぐれもお部屋から出ないで下さいまし。」
「えぇリリーの忠告ですもの、大人しく寝ておきます。」
「ではゾフィ、魔力を私に寄こしなさい。」
「え~イヤだよ。お姉ちゃん一人で出来るでしょう。」
「そうね、途中でゾフィを落とすかもしれないわよ。言う事を聞きなさい。」
「ソフィア姉さままでも……。」
「だって三人も抱えて跳ぶのですもの。魔力が足りません。」
「ですからゾフィ。リリーに協力しなさい。」
「へ~い……。」
「我はここに、シーンプ、ギーシャ、へステアを召喚す。」
「ギャ、キャ、きゃい~ん!」
と三人が現れた。すぐさまリリーは、
「我ら四人、グダニスクへ飛ばん!!」
と意味のない事を言いながらリリーはゲートを開いた。ソフィアはもれなく三人の尻を蹴とばし……て。
「行ってらっしゃ~い!!」
「きゃい~=い~ん。」x3……+1
「むふふふ、邪魔者は出て行ったわ、むふふふ!!……。」
ソフィアのとっての今! が訪れようとしていた。
「夜が待ち遠しいわ!!」
*)オオカミは月夜によく映える
ソフィアは服を脱いで裸になる。服は唐草模様の袱紗に丁寧に包み、
「今宵は満月よ、散歩よ、戦争よ!!」
三mの大きさのオオカミに変身した。風呂敷はソフィアの大きさに比べたら袱紗ほどしかないのだろう。首に風呂敷姿? のソフィアが誕生したのだ。
「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~」「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~」
「オオカミだ! みんな逃げて~! に げ て~~!!」
「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~!」
「あら、マティルダは魔女ではなかったのね。いの一番に逃げたのですもの。可笑しかったわ!!」
城から全員を追い出して、
「さぁ、金貨は何処に仕舞ってあるかしら……。」
「ここにあるのね。風呂敷では足りないわ………。服を置いて金貨と入れ替えるのがいいかしら。……でも服を残したら証拠になるから出来ないわね。」
「でも少ない。これでは大金貨分の七千枚も無いわ。……そうだったのね。金貨の持ち合わせが少なかったからマティルダさんは断っていたのだわ。」
「さ、この城にはもう用はないから、私も逃げよ~っと。」
「きゃ~、オオカミよ~。襲われる~~~。」
ソフィアは大声を出しながら大きい荷物を軽々と抱きかかえて城から出て行った。
*)叱るリリーと詫びるソフィア。後に呆れるリリー
ただのお話です。軽い方が面白くていいでしょう?
リリーは翌朝、かなり遅い時間に帰ってきた。城に行くも賊だ、魔物だ! とお城は混乱していた。当然ソフィアの姿は無かった。
「これはどうした事でしょう。もしかしてもしかすると??」
「我、ここにソフィアお姉さまを召喚する、出でよ、お姉さま!」
「きゃっ! いや!!」
落ち葉と共にソフィアが降ってきた。
「お姉さま、これはいったいなんですの??」
「うん、昨晩魔物が出たのですよ。だから私も怖くなって逃げた……。」
「うそ言いなさい!! 魔物はオオカミでお姉さまの事でしょう。」
「だって……、ほら金貨がこれだけしかなくて。」
「お姉さま、あれほど自重しなさいと忠告しましたのに、子供ですか! 事もあろうか、城から抜け出して森で寝るとは、もう、叱る言葉もありませんわ。」
「森でも平気だよ、少し寒かったけれども……。」
「そこ反省するところではありません。もうお姉さま……。」
「ごめんなさい。もういたしません。」
「当たり前です。だから言いましたでしょうが、お姉さまは国でも滅ぼすと。」
「で、マティルダさんはどうされたのですか?」
「うん、本物だったよ、いの一番に逃げていましたもの。」
「それはお芝居です、ホント、おめでたいお姉さまです、呆れて言葉が見つかりませんわ。」
「マティルダさんが、お芝居??」
「そうでしょう、お姉さまの事はご存じでしたから。」
「あら知ってたの~。」
「あら知ってたの~、ではありませんわ。も~恥ずかしい!!」
「お姉さまの姿を見た者は居ますかしら?」
「いいえ誰も居ません。マティルダさんが……、あっ、そうなんだ。マティルダさんは皆に声を掛けて逃げていました。」
「もうお姉さま~。」・・・・・・「そのう、金貨は?」
「うん、三千枚ほどしかなかったわね。」
「そうでしょうね、火事場泥棒は二人でしたのね。」
「えぇ!!!二人??????」
「そうですわ、マティルダさんもその一人です。先に二万枚は持ち出しています。私が見た時は金庫には五万枚は在りました。」
「すると、ハイルヴィヒお母様も……。」
「ですね、賊は三人でしたのね。」
ブランデンブルク・アン・デア・ハーフェルの城が落ちた。
ホルシュタイン伯アドルフ4世は連絡を受けて、泣きながら帰郷したのだった。
ハイルヴィヒは、慌てふためく亭主のアドルフに、
「国王さま、魔物が出て金貨を全部持ち逃げされました。」
アドルフは、
「ハイルヴィヒとマティルダは無事だったか、あ~良かった。」
「アドルフさま、申し訳ありません。魔物が賊とは思いもよりませんでしたから、国庫が空になってしまいました。」
「ぬぬぬ……。」
「ですから、金貨が……。」
「もういっぺん、殺したろか! このう~~! 女~!」
ハイルヴィヒはマティルダの後ろに逃げて隠れる。
「お母さまは、一度殺されたのですか??」
「えぇ二度ほど殺されかけました。あ~恐ろし!!」
「まぁそうでしたの・それでそれで……。」
「うん、それでさ、……。」
与太話がまた始まったのだった。
「お前ら~!!」
「きゃぁ~~!!」
1244年12月17日 ポーランド・グダニスク
*)ゾフィとシーンプ。
「リリーさん長旅でお疲れでしょう。」
とリリーを労うシーンプ。それに対してゾフィは、
「いったいどこが長旅だい。すぐに着いただろう。」
「ゾフィ、私は明日の朝には戻らねばなりません。さぁ、もっと魔力を寄こしなさい。」
「ばこ~ん!」
と姉を労わらないゾフィをぶん殴る。
「いて~ぞ、このおたんこなす。」
リリーは境界の中に四人を押し込んでおけば良かったと、言っていた。魔力が強くなったので、中三回の休憩でおおよそ一千kをゲートで繋いで飛んだのだから、疲れも半端ないことだろう。
「お姉、あの新婚の二人はシビルに記憶を消して貰わないといけないね。」
「いいえ、ここは実力行使あるのみよ。ゾフィ思いっきりヤリナサイ。」
「おれ! 人殺しはいやだよ。お姉がやれよ!」
「他人を殴るのは……そう、とてもはしたないわ。」
「ケッ! 出来ないのか……。」
「そうね、出来ないわ。」
ギーシャとへステアには、あの二人の会話の様子が自分らの事だと、悟っている。
「へステア、死ぬ時は一緒だよ。覚悟はいいかい。」
「いいえ、まだギーシャの赤ちゃんを産みたいもの、死ねないわ!」
道々で与太話をしながら歩いていると一軒のパブが見えた。
「リリーさん、あそこにパブが在ります、行きましょう。」
「そうね行きましょうか。なんだか懐かしい匂いがするわ。」
開け放たれた窓からは、美味しい串焼きの匂いが漂ってきたからもう堪らない。
「寒いわ、早く入りましょう。」
「らっしゃい!!?? あら、あなたたちは??」
「ややエルザ、エルザさんじゃないか。もう、顔も忘れていたよ。」
「シーンプさんだったわね。いつ、ここへ?」
「エルザさんこんにちは。お久しぶりね!」
「リリーさんが、二人?」
「はい妹のゾフィです。今後は妹として活躍するはずですわ。でもどうして?」
「えぇオレグさんの倉庫に回されてしまいました。ここでライ麦の番をして昼からこのパブを経営しています。」
「だったらボブ船長が帰って来るまででいいですから、明日からこの四人を使って下さい。メイドでもバーテンでも皿洗いでも、水汲みでも構いませんので、お願いします。」
「えぇ、でもお給金は少ないですよ。」
「構いません、逆に養育費にお肉を三百k置いていきます。」
「まぁ嬉しいわ~。二階には誰を泊めようかしら。」
「それなら用心棒にゾフィがいいわ。他は倉庫でいいのよ。」
「リリーさ~んそれはあんまりです。少しは私たちの事を考えてください。」
「リリーさん、私たち二人はどこでもよろしいです。」
「うんへステアさん、ありがとう。そうさせて頂くわね。」
マクシムがオランダから帰って来るまでここに居候する事に決まった。
デーヴィッドが、
「今日は閉店して宴会を始めようか。」
「ちょっとそこまでしなくても……。」
「新規開店したばかりだ。客は居ませんよ。だから料金は倍増しです!」
「……う、……うんいいわ。払うわ……。」
気が遠くなったリリーが倒れてしまった。ゾフィは、
「けっ! だらしね~な。」
他の者は心配して駆け寄った。
「ただのガス欠さ! ビールと肉を口に押し込んでくれないか。」
「ゾフィさん、そのような手荒な事でいいのかしら。」
「いいのいいのよ。それで十分よ。へステアさん看病をお願い。私は近くでカンフル剤を買ってきますから。」
ゾフィはそう言ってパブから出て行った。リリーはここグダニスクで宿泊出来る宿が見つかって安心して気が緩んだだけだった。
ゾフィは大きいバラの花束を抱えて戻ってきた。
「ほらリリー姉! 誕生日のお祝いだぜ、喜べ!」
「うんありがとう、とても嬉しいわ。でもゾフィ。私の誕生日はね。」
「そんなもの知らね~よ。」
「そうでしょうね、いつが誕生日かしらね。……私も知らないわ。」
「今日は十二月十七日よ。この日に決めなさい。」
「いや、まだ十一月だろう?」
「ゾフィ、今は十二月なのよ。魔女のマティルダにしてやられたのよね。座敷牢に閉じ込められたでしょう。あの時にひと月も眠らされたようよ。まいってしまうわ。」
「そうか、俺は気づかなかったぜ。」
「あんたも良く眠っていたものね。」
「あの三人には話したのかい?」
「いいえまだよ。疲れたからもう寝るね。三人には機会を見て話して頂戴。」
お二階へどうぞ、とエルザはリリーを案内した。ゾフィも後をついていく。エルザが出てくるまで入口で立ち止まりエルザと入れ替わりに入室した。
リリーはバラの花束を抱いて休んでいた。
「お姉、やすき眠りを! いい夢を見るんだよ。」
「俺は昨晩、阿蘇山が噴火した夢をみたぜ。……死を悟ったね!」
とゾフィは言いながら階下へ下りていった。
私は海の向こうで高く上る、どす黒い噴煙を見た事がある。桜島はたき火であれは家の火災か! と比喩出来そうだった。自分は噴煙をよく見る方なのだろうか。新燃岳も阿蘇も桜島も口之永良部島も見ている。これは日本で唯一私だけだと思う。南北に三百kは離れていて、噴火日時もずれているから。
三人は勘定の事は忘れて飲んでいる。ここはぼったくりのパブになった。
エルザは、
「飲み代は金貨四枚だよ。明日からしっかり働きな!」
「えぇ~そんな~あんまりだ~!!」
「当然だろう。今日からの賄いにもお金がかかるんだよ。男は倉庫ね、女のあんたはパブだね。」
マクシムたちは航海へ出たばかりだ。戻ってくるのは一月になるという。デーヴィッドとエルザは格安の労働力を得て喜んだ。
シーンプは、
「ちぇ! オレグさんとそっくりだ……。」
この夫婦はオレグに毒されていたのだった。リリーは翌朝にお肉とビールをしこたまお腹に詰め込み、ニコニコしながらブランデンブルグへ帰っていった。この四人とソフィアとリリーは何処で再会出来るのだろうか。