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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
108/257

第108部 ソフィア編 投げられた大金貨は贋作の大金貨?!


 1244年12月17日 ドイツ・ブランデンブルク

         


*)投げられた大金貨!


「どういう事かしら、私に説明してください。」


「へステアさんは知らないですね、リンテルンのシャウムブルク城で戦った時の魔女の残党かすです。アンナとカレーニナの……たぶん、上のクラスの幹部らの魔女でしょうね。ゾフィとリリーの区別が出来ていましたから。」


「でも、敵だったのでしょう?」

「そうね、でも今の私はアンナとカレーニナの上司ですので、このまま考えると私は最高司令官です、ね!!??」


「まぁソフィア指令官様……ですか。……はぁ……。??」


「お姉さま……。」……「おおかみさま、……。」「おいぬさま、……。」

「リリーが呼んでいます。……リリーどうしました?」

「はいオレグお兄さまの情報が入りましたので、先にお知らせします。」


「まぁ、それはどのよな??   …… ええっ! それは本当ですか??」


「まぁシビルが、……オほほほ・・・。リリーめ! 一度絞めたろか!!」


 お犬さまと呼ばれたソフィアが、大きい声で笑い出した。


 へステアは、妙に寒気を感じて、


「ソフィアさん、どうされました?」

「えぇとても愉快な事が起きたわ。シビルらの魔女軍団がデンマークの賊ヴァイキングをへちゃきゅちゃにして船を沈めたそうよ。愉快だわ!」


「まぁそれはそれは?……、でもそのしっぺ返しは? 無いのかしら??」

「へステア、そうだわね。……リリー何かあるの??」


「うん、大きいタクラミが進行しているみたい。そこは戻って話すから待ってて!!」

「うん分かったわ。よろしくね!」

「OK,姉ーちゃん。任せて!」

「まぁリリーったら。どこで覚えた言葉かしら。絞めるべきね問題だわ。」


 へステアは愉快な姉妹だと言ってくすくすと笑って、どことなく悪寒も飛んでいったように暖かく感じた。


「ソフィアさま、ご夕食の時間となりま……た……が、?」

「はい、すぐに行きます。」

「でも、ご案内いたしませんと、その、私の仕事ですから……。」

「そうですわね、」

「ハーフェルですよ、もうお忘れですか?」


「あ、いいえ、すみません。」

「他のお二人は、隣室でしょうか?」

「はいそうです。着替えを済ませるまで避難しております。」

「避難ですか、殿方を叱るのはほどほどになされて下さい。いつも頼りになるのは男の腕なのですよ。オレグさまは、きっと素晴らしいご主人なのですね。」


「はい、ジャジャ犬を手なずける事が出来る、唯一の人間ですのも。」


 そう言いながらリリーとゾフィが入室して来た。遅れてシーンプとギーシャが入ってきた。


「ヒュ~ン、ガシャーン。」

「まだお着替え中ですね、失礼しました~。」

「バタ~ン。」


「だから、殿方はいたわりませんといけませんわ。」


 避難する男二人に花瓶が投げられていた。


「お掃除をする私の事も、少しはお考え下さい。」


「はい、これ!」


 箒と雑巾をソフィアに手渡して、にっこりとほほ笑むハーフェル。


「これって、この私に掃除をしなさいと?」


「当然でしょう。私の言う事を聞かないからですよ。……、私、間違っていますか?」


 ソフィア以外の一同は、


「全然!!」x5 「ガシャ~ン!!」


 ドアから覗く男に再度花瓶が投げられる。


「マティルダさまとハイルヴィヒ奥様はもうお待ちでしょうから、私がお着替えのお手伝いをいたします。」


「きゃ~!!」

「問答無用……ですわ、ソフィアさま。……それっ。」


 背中のホックをはずしたハーフェルは、ソフィアの短いスカートの裾を握り思いっきり上に上げたのだ。ソフィアは堪らずに悲鳴をあげた。

 

「で~ん!!」と、ソフィアから思わずしっぽが出て来た。


「ソフィアさまは冷え症なのですか、尻尾? の腹巻の毛皮とは、初めてです。」

「はい寒い冬は苦手なのでして……。」


「お姉さま、まだ悪寒が治りませんのですね。」

「うん、ごめんね、リリー。治まったらこの毛皮は返すからね。」

「当然です。私もお手伝いします。」

(お姉さまの分身が・・・・!!手に入る!!)と喜ぶリリーなのだが無理であろう。


 ソフィアはハーフェルから服を剥がされて、リリーからは頭から服に押し込められた。


「私と服、どっちが大事なのよ。失礼しちゃうわ。」

「服ですわ!」

「えぇとうぜん!! 服でしょう!」


「お姉!! 綺麗だぜ!!」

「まぁ、ゾフィ。ありがとう。リリーよりゾフィの方が綺麗だわ!!」

「でも性格が汚いですよ。序でに言葉遣いもね!」

「リリーそこまで悪い言い方は良くありません。個性豊か! と言うべきよ。」


馬子おおかみにも衣装だぜ!!」


「ヒュ~ン、ガシャーン。」

「ソフィアさま居残り確定です。他の皆様大広間にご案内いたします。」

「わ~いわ~い、ざま~ね~な!」

「ビュ~ン、ガッシャーン。」


 とてもすばしこいゾフィには、なにを投げても当たらない。


「ならば、これはどうよ! 絶対に命中するわ。」


「ドカ!! キャィ~ン!! イテ! イテテ!!?? これ、ありがとう。」


 投げられた大金貨だった。頭にはこぶが顔面には青あざが出来上がった。顔面を張って受け止めたゾフィ。だがすぐにリリーにより奪われる。


「これはオレグ兄さまの大金貨だからね!」

「へいヘイ、さようで……残念だ!!」


 ハーフェルはにこやかに嗤った。床の影の頭には二本の角が在る??


「うふふふ……!!」

(まぁ、偽の大金貨が!! これは愉快だわ!?!)


 嗤いを堪える事が出来ない。それは他者をさげすんだりする事の嗤いだ!



 広間に案内される。




*)マクシムの海戦の報告が!



 マティルダは閉口していた。広間の食堂ではハイルヴィヒお母様とその家臣が、デンマークとハンザ商人の海戦の状況の報告が話題になっていた。


 マティルダはハンザ商人のオレグの家族がここに居るから、なおの事聞きたくも無い話題だった。マティルダは、マクシムにオレグの腹心の部下が手伝っている事を知っている。そのオレグの腹心の部下に次々とデンマークの船が沈められたのだ。


 マティルダからしても、今のデンマークは自国なのだから。これは海賊稼業のデンマークが悪いに決まっているからかこころは傷まないが、なぜはオレグを応援しようとも思わなかった。


「ハイルヴィヒお母様、もうその話題はよして下さい。まもなくお客様がお見えになりますわ。」

「マティルダ、そうだったわね。でも、デンマークの船が沈められたと聞いて少し悲しくなっただけよ。」

「まぁお母さま、そうでしたの。でも私の国の為に涙を流される必要はありません。どうかお気を沈めて下さい。」


「まぁマティルダ。気を沈めろ! とは、なんと言う言葉かしら。娘でも許せません。」


 マティルダへの攻撃が始まるかと思えた。


「お二人とも気を静めて下さい。爺も母娘おやこ喧嘩は見たくもありません。」


 爺の横には子供のデアとハーフェルが立っている。沈めると静めるの違いだがドイツ語では違っているのが当然だ。


「すぐにお通しなさい。」


 マティルダは強い口調で命令した。


「はいお嬢さま。」


 と爺が返事をする。ハーフェルはドアを開けて六人を招き入れる。


「みなさんよく来て頂きました。マティルダを助けて頂いた、とのこと。嬉しく思います。」

「はいお母さま。この六人と他の方から魔女のキルケーから助けて頂きました。こうしてここに居られるのは皆さまのお蔭でございます。」


「それはそれは。あのキルケーから……、それは難儀しましたね。」


「あれは女好きのオットーⅢ世さまが悪いんです。この私を綺麗だからと攫ってしまわれたからです。」

 

「あのオットーⅢ世さまが……、まぁ、なんとした事か!」

「キルケーとオットーⅢ世さまの出会いはなんでしたのでしょう。」


「たしか、ポーランドのブィドゴシュチュに綺麗な女の人が居るから、きっとその女性をも攫いに行ったのが事の始まりでしょうか。」

「お殿バカ様の女好きには辟易いたしますわ。早く私のような綺麗どこを嫁にもらえばいいのに。」


「まぁお母さま。それは言い過ぎでしょうか。オットーⅢ世さまは、もしかしましたら女性の祟りで一生独身かも知れませんわ。」

「いいえ気が振れて、いや気が触れているからですよ。」

「浮気性だけではないのですね。」

「はい弟のヨハンⅠ世さまがしっかりと対貴族の国政と、国民の内政を司っておられますから、オットーさまはただ単に戦争バカなのかもしれませんよ。」


「では外交はどうなのでしょう!」

「当然、し~ちゃかめ~ちゃかですわ。」

「まぁ、そうでしょうね!」

「オ ホホホ・・・・。」


 マティルダと母のハイルヴィヒの戯言たわごとが続く。これにはさすがに爺も困惑した。マティルダが帰って来てから未だに与太話が続いている。


「これが王妃と妃か! お話相手も無かった、寂しいハイルヴィヒさま!!」


 爺は残念そうに王妃を見てハンカチで鼻をかんだ。目に涙が滲んでもいたが、


「デア、ハーフェル。構いません。始めましょう。」


 家臣らも同じ思いだった。爺は勝手に食事の肉やビールの配膳を命令した。母娘おやこは好き放題に話しを続けている。


 酒がまわり始める。ここで家臣の二人が、


「あのデンマーク国はどうするのだい。」

「お前は知らないのか。国中の船を全部集めてさ、あのハンザ商人に当らせるらしいぜ。国中の船だ二百艘は在るだろう。」


 もっともこの家臣はオランダやデンマークを襲った嵐で、船が半分以上沈んだ事は知らない。デンマークの大きい船は五十艘程度が残っているだけだった。



 その横で二人の話を聞いていた家臣は、


「お前は昔の事を言っている。今のデンマークの船はな、せいぜい八十艘にも満たないさ。前のスッゲ~嵐で大半が沈んだらしいぜ。それに加えてハンザ野郎に残りの多数の船が沈められたから、国王も沽券に関わるからと船団を組んで、そのハンザ野郎を沈める気らしいぜ。なんでも海軍の将軍さまが直々に勅命を受けたそうだ。」


「あのスリーピング・ジェネラル(Schlafen・Armee)さまか!」 

「あぁ眠れる・獅子! さまだよ。」


 これらの話は当然にソフィアたちにも聞こえてくる。ソフィアたちは小さい声で会話をして、これらの家臣の会話に聞き入るのだった。眠れる将軍とは一体どれほどの力を持っているのか! と思ってしまった。


「これは、マクシムさんに伝える必要がありますね。」

「シーンプさん、そのようですね。襲撃の時期が判りません。尋ねますか。」

「もちろんです。打てる手が有りますなら打つ必要はありますよ。ここは任せて下さい。」


「グーテン、イーブニン!!」


 と、バカな挨拶で始めたシーンプ。


「ナール(Narr)!!」


 家臣は当然イングランドのシーンプにはその意味が解せないと思っている。


「先ほどのお話は本当でしょうね。」

「あぁ本当だよ。イングランドのお前には関係ないから教えたる。次の海戦はNonfenノンフェンだぜ!」*19


「ありがとうございます。」


「あいつナール(Narr・バカ)だから今の言葉は判るまい。」


 と思った家臣。だがシーンプはヨーロッパで、仕事に架ける橋のごとく世界を股に掛けているハンザ商人だ。フランス語だけではない、多数の言語を繰ることが出来る男だ。グーテン・イーブニンとは相手の惑わす造語に使っている。



「ソフィアさん判りました。一月の十九日です。ただしこれはマクシムさんが海峡を通過する日とは限りません。開戦の準備が出来る日付ですね。」

「そうですか……尽力ありがとうございます。」


「でしたら、この私がグダニスクへ知らせるには、十分な日数でもありますよ?」

「あっ! そうですわね。……これは教えない方はありません。金貨100枚にも値しますわ!」


 と聞いて食指が動いたシーンプ。


「でしたらゾフィを付けます。すぐに出立しませんか???」

「はい~喜んで~!!」

「ゾフィ……。」

「おう任せろや。シーンプさんよ。俺は大飯ぐらいだが、大丈夫か?」

「はい任せて下さい、無駄飯食らいのゾフィさん。」

「ケッ!! まぁいいや。言わせておくよ、ダメ人間。」

「おう言ってくれるじゃないか。この男女。」

「俺は女男だ! 間違えるな。」

「へいへい、よろしくお願いします。金貨十枚で雇います。」

「おうそうかい。あんたいい人間だね。」

「どうでも、とは付けないのですね。」


(どうでもいい人間?)「あ、そうだね。付けないよ。」


 今度はソフィアが、


「ねぇ大臣さま。オランダはどの様になっているのでしょうか?」


「あぁ大きな高波・高潮で国中が悲惨なめに遭っているらしいよ。港は勿論、大地も海に流されて沈んだという事だよ。そんな事聞いてどうすんだい。」


「もちろん商売のためです。ここで救援物資をたくさん買い込んで売りに行きます。当然でしょう。」

「誰が買うのさ。街が流されているのだぜ??」


「もちろん国王さまにですよ。私たちで港を造って差し上げます。月々のリース料が金貨十枚で十分でしょう。」


「お前たちもおめでたい性格してるな。港とか造れないだろう。」

「大丈夫ですよ。……むふふふ……。」


「お姉さま、すぐにこの大金貨を金貨に換えて行きましょうよ。きっとオレグ兄さまもそうするでしょうし、ね!!」


「すぐに行きたいけれども問題があるのよ。ここブランデンブルグでも相撲を取る必要があるのよね。」

「お姉さま、それはいったい……。」


「そうね、リリーが持っている大金貨を両替出来ない事よ。その金貨はきっと偽物よ。」




*)偽の大金貨所持者はお尋ね者!!


「じゃぁすぐにマティルダからお母様へお願いして頂かないといけません。ですが、それが出来ないのですか??」

「当然でしょう、贋金持ちは大重罪ですよ。ばれたら即刻打ち首よ!」

「まぁマティルダさまが、……まさか!」


「こんな事は日常でしょう。他国へ侵攻して本物の大金貨を使いますか? 答えは『ノー』の一文字ですよ。贋金を使うに決まっています。」


 これらの事を聞いて血の気が無くなるシーンプ。二人仲良く食事をしている新婚の二人は桜色。


 蒼い顔のシーンプは、


「ここでも戦争を起こすのですか?……、そんな~! 大金貨・七十枚!!」

「ええ当然です。金貨で七千枚分。きっちりと支払って頂きます!!」


「えぇそうよ、リリー今日から戦いよ! これは大戦争よ!!」


 増々血の気が引くシーンプに助け舟が、


「シーンプさん、おいらは直ぐにグダニスクへ旅立つのだぜ。そんな事は関係ないさね。違うか?」

「そうよ、ここは私たち姉妹の戦争です。マティルダさまには気が引けて悪いですが、ブランデンブルグから金貨八千枚は頂きます。」


(おい、金貨が増えていないか??)と心配するシーンプだった。


「これはマティルダによる、私たちへの挑戦だわ。出来ないと、引き下がる訳にはいきません。受けて立ちます。」


 マティルダは母との会話の間に、ちょこちょことソフィアたちに視線を流していた。見れば目元に皺を寄せて嗤っているように見える。


「あのマティルダも、偽物だわ!!」

「ええっ!!」x5

「じゃぁ、ハイルヴィヒ様はどうなんですか?」

「当然偽物ですよ。」


「いつマティルダさまは入れ替わったのでしょう。」

「お父様に会われた後でしょうね。でないと説明が出来ませんもの。」

「そんな~。」


 最後まで心配するシーンプと、最後まで楽しげなギーシャとへステアだった。



 これらの話し声が聞こえるはずは無い。だがマティルダは、


「これOX大臣。ブランデンブルグに偽の大金貨が持ち込まれたという街の噂がありますので、明日から至急調べなさい。今日は建国記念日ですね。今日を狙っての犯行かもしれません。」


「マティルダさま、それは事実でしょうか。これは噂になる事は無いはずです。」

「ハイルヴィヒお母様、こやつも首にしてよろしいでしょうか? 私が言った言葉が理解出来ないようです。これでは私の気持ちが沈んでしまいます。」


「これOX大臣。これよりXX大臣に任命します。ここからすぐに出て行きなさい。」

「そんな奥様、この私という男を追い出すのですか。」

「もっと若いOXを見つけました。もうお前は必要ありません。」


「マティルダ、教えてくれてありがとう。」

「いいえお母さま。あの男が嫌いなだけです。偽の大金貨を造らせた本人とはつい先ほどまでは知りませんでした。」


「そうでしたか、この母も気付けませんでしたよ。」


 この二人の白々しい会話は大きな火種が隠れていた。


 街では使う事が出来ない大金貨だ。金貨百枚分の大金貨とは、利用できるのは貿易以外にはあるはずもない。ブランデンブルグが認めない限りは、全部が全部偽金になるという、大変ありがたい通貨なのだった。


 人を見て価値が決まる大金貨。オレグが言う意味がようやく理解できた。


「お姉さま、これは……。」

「えぇそうよ。持っている大金貨は本物です。ですが国とか大臣がこれは本物と言わない限りは偽物ですよリリー。」


「ガーン!!」


 脳天を打ち砕かれたような衝撃が走ったリリーは、


「そのマティルダさまは、なんと言われるでしょうか。」


「マティルダさまは他国のお妃さまです。ブランデンブルク・アン・デア・ハーフェルとは関係ありません。ここは再度絹の反物を見せて商談を進めましょうか。」

「そうですわ、お姉さま。」

「さ、リリー。ビールを飲んで!……、女は股に力の二文字を入れるのです。」

「努力ですね!!」

「そうです、こんなことは男には出来ない事ですから??」

「?……?? お姉さまに赤ん坊が出来たのかしら??」」



 ソフィアはマティルダに大金貨の件で話に行くのだが、


「マティルダさま、少しお話がございますが……、よろしいでしょうか。」

「はい反物の件ですね。もう売買は済みました。ここは大人しく絹の反物を置いて行きなさい。」

「それは出来ません。大金貨で七十枚、金貨で七千枚分ございます。」


 押し問答を繰り返すが、マティルダはうん、と言わなかった。この流れを見つめていたシーンプは、


「ソフィアさんここは引き下がりましょう。贋金を持っていると難癖をつけられる恐れがございます。」


「だって、これではトチェフのグラマリナさまに足向けが出来ません。」

「それは、棺桶に入る事よりも重要ですか?? 違いますか? あ、ああん??」

「棺桶??! はいそうですね違いありません。この私も殺される訳にはいきませんからここは引き下がります。」


「ソフィアさま、私にいい考えがございます。私に任せて下さい。」


 それはどういう事か、とシーンプに尋ねてもニコニコして、


「とても面白い事ですよ。残りの反物を持って逃げましょう。」


「はぁ、はい。そういたします。」


 シーンプの作戦とは、なんだろうか。……?


 当然両替に応じないマティルダにも作戦があるのだった。



*)シーンプの底力


「ソフィアさん、この大金貨がオランダ国相手に使えるか試してみましょう。使えない時は次の方法、手段へ移行いたします。」

「えぇ、ここはシーンプさんにお任せいたします。」


 この夜は新婚の二人を除いて遅くまで対策会議が行われた。新婚の二人は、


「あんたたち、二人で観光に行ってきなさい。」

「は~い喜んで~!」


「ソフィアさん。あの二人は蚊帳の外でいいのでしょうか。ここは正直に作戦に組み込んだよろしいのではないでしょうか。」

「これも作戦です。二人には遊びに行ってもらいます。」

「はぁ、さようですか、ならばよろしいです。」


「この大金貨を持って街で買い物をして頂きます。そして街に噂を流して頂きましょうか。……、ここはゾフィにお願いするね。二人を守って頂戴。」

「あいよ、任された!」


「で、オランダで使えない時はデンマークでこの大金貨を使って買い物をします。」

「ふむふむ、それはいったいどのような??」

「それは、こうです。・・・・・・・・・・・、・・・・。・・・。」


「うん理解した。シーンプさんはゾフィと一緒にグダニスクへお願いします。オランダには私とリリーで十分でしょう。オレグには土産話が出来るわね。」

「はい、それはいいですね。私も嫁を欲しくなりました。リリーさんをお嫁に下さい。」

「それは出来ません。たった一人の妹ですからね。」

「では、リリーさんの幸せはどうなるのです。」


「リリー、あんたはどうしたいのよ。」

「うんオレグ兄さんが好きだもん。どこにも嫁には行かないわ!」

「えぇ~そんな~、私と結婚して下さいよ~。」


「却下!!」


 と無下に断るリリーだった。それを見て面白がるソフィア。いや、どちらかというと、どうもシーンプの作戦が面白いらしいのだった。


 リリーはソフィアをからかいたいのだろうか。


「お姉さま、ここで死なれたらどうです?」

「でも、リリーにはオレグを遣らないからね。」

「そんな~下さいよ~。」

「フン!! 墓場まで持って行くに決まっています。」

「お姉さまの意地悪! お姉の死体を墓場まで持って行くのは、お兄さまに決まっていますから、お独りで墓穴へどうぞ……。」


「キ~~~~!!」


 と奇声を発するソフィアだった。



 リリーとの会話を打ち切りソフィアはシーンプを見て、


「明日、二手に分かれて旅に出ます。」

「マティルダさまはどうするのです。ここに置いて行くのですか?」

「偽物でしょう、当然ここに置いて行きます。」


 だがハイルヴィヒもマティルダも、ともに本物だった。二人にはお互い同志で、別々の目的を遂行しようとしていたのだ。




*)リバーサイドフェスティバル


 ソフィアたちはハーフェルに連れられてお祭りに行った。


「お姉、足元は大丈夫か!」

「えぇ酔ってはいません。ゾフィ、私よりもソフィア姉さまの心配をお願いしたいわ。」

「あれは大丈夫だ。シーンプさんがついているからね。でもよ、あのイングランド野郎はリリー姉を好きだとばかり思っていたがよ、どうしてだ??」


「そうなのかしら、あら嫌だ。」

「金持ちのハンザ商人だ、お姉は嫁に行けよ。」

「それは無理よ人じゃないもん。」

「シーンプは人間だぜ。」

「知ってるわよ、人でないのは私よ。禁断の恋は出来ないわ。今はソフィア姉さまのハートを射止めて私を説得する味方にしたいだけだよ。」


「ふ~ん……。」


 ギーシャとへステアは誰からも無視されていた。


 まだ明るい道のりを湖の方へ下りて行く。


 これは、


「皆様、船でメイン会場までお送りいたします。」


 とハーフェルに言われていたからだ。ハーフェルからしたら、お客の案内よりも自分の仕事が優先されるから当然の事だった。


「ハーフェルさん、忙しいのにくっついてきてすみません。」

「いいえ、船に乗りさえすれば私はいいのですから、心配はありません。すべては兄のデアが進行を務めますので、私はこの雪を溶かさないようにするだけです。」


 ハーフェルから見せられた雪とは籠にはたくさんの丸められた雪が入れられていた。



「金貨は七十枚を適当に埋めていますのよ。そしてこの雪に銅貨を突き刺して投げ返すのです。」

「??……?」

「えぇ何も言わないで下さい。三十枚は私たちの懐ですもの。くれぐれも内密にお願いします。」

「へ~ぇ、そうなんだ!」

「デアお兄さまがお城の船の元締めですの。私は集まる銀貨を半分懐に収めるのが仕事ですのよ。」

「へ~ぇ、そうなんだ!」


「さぁ皆さま。船のへさきと横に立って下さい。そして民衆に愛嬌を振りまいて下さいまし。先の船着き場までですからすぐに着きます。」


「お兄さま、灯りをお願いします。」

「あいよ、今全部に点けるよ。」


 とろうそくに火を点けて回った。同時にお城の紋章がくっきりと浮かびあがった。

「イテ!」 「イテテ!!」


 すぐに硬化が投げられて身体に当って痛かった。床には銀貨と銅貨が多数転がりだした。


 ハーフェルは銅貨を集めて雪のボールに素早く入れ込む。


「これ、適当に投げてくださいな。民衆の皆さんは顔で受けますのでとても面白い表情を見せますわ。」


 シーンプとギーシャ、へステアは喜んで投げ出した。


「金貨を投げてくれ~~!!」


 とあちこちから催促の声が聞えてきた。


「まだダメよ~!」


 と笑いながらハーフェルが大声で返事をしている。


「おいハーフェル。桟橋に着くぜ。金貨を出してくれないか。」

「はいお兄さま。今年のお肉は美味しいかしら。」

「だといいな。」


 デアはカチャカチャと金貨を数えだす。


「あぁ、確かに三十枚在るぜ、支払ってくる。」


 不思議な事を言うのだな、とリリーは眺めていた。金貨三十枚は民衆に配る肉の代金だったのだ。肉屋は、


「いつもありがとうございます。……確かに金貨二十四枚頂きました。お肉は全部で三百kになります。」

「いつも安くしてくれてありがとうよ。これはとっておけ!」

「へいへい、……銀貨二十枚ですね、今年は多いですね。」

「良かったな。」


「酒屋は来ているか。」

「はいはい、ここに居ります。」

「金貨六枚、確かに頂きました。ビールはいつもの会場に届けております。」

「あぁすまないな。銀貨だ、とっておけ!」


 デアは銅貨混じりの銀貨を渡していた。


「さ、みなさん、ここで降りて下さい。あとは会場の屋台でお楽しみ下さい。」


 デアとハーフェルとはここで別れる。


 たくさんの屋台に食べ物が並んでいる。主に豚肉料理だろうか。


「お姉さま、お食べになりませんの?」

「うん、もうお腹がいっぱいだもの。遠慮するわ。」


「後悔先に立たず、ですわね。」

「俺はまだ食べれるぜ!」

「ゾフィはそうでしょうね……。」

「お姉さま、それは……。」

「これがあればいいのよ。このワインは銀貨一枚だもの、きっと美味しいわよ。……、十杯下さい……。」


 そう言いながらソフィアは船で集めた銀貨・銅貨で支払いを済ませた。


「この肉は柔らかくて美味しいぜ。」

「それはシカかしら。良く焼いた肉でないと虫が居ますよ。」

「ゲ! ゲ! それを早く言えよ。もう生で食らったぜ。」

「ははは‥それなら大丈夫よ、馬の肉だわ。」


 少ししたら大きい声が聞こえてきた。


「おうおう。喧嘩だぜ……。」


 民衆が騒ぎ出した。


 そう、野郎どもが、ドラキン三姉妹の周りに集まりだした。


「よう姉ちゃん。ここで遊んでいきなよ。退屈しないぜ。」

「おいおい、なに黙っているんだい。返事しろや!」

「俺たちは泣く子も殺すドイツ騎士団だぜ……、どうだい驚いたか!」


「もう、ここで遊んでいますが、それがなにか……?」


 つっけんどんな返事を返すリリーだった。ソフィアは、


「ゾフィ野盗だよ。好きにしていいわよ。」

「だったら寒中水泳だね。行くよ!」

「あっ待って。お代を頂いておくわ。」

「まぁお姉さま、およしなさいよ。はしたないですわ。」

「おらおら金だしな! 食ってしまうよ。」

「ふん、なに様のつもりだ。バカにするな。」


「ほ~ら高い! たかい……。」

「ゲッ、ゲげ……。死ぬ……。」

「お前~離せ!」

「あんたもね、ほ~ら高い! たかい……。」

「ゲッ、ゲげ……。死ぬ……。」x5


「だったら出してよね……。まだ吊るして貰いたいかしら!」

「いいえ、これ……お納めください……、良い夜を!!」

「ゾフィもういいわよ。思いっきり蹴って頂戴!、」

「あいよ、お姉!!」

「ボコ! ドカッ!!」x4

「キャイ~~ン!!」x4

「さぁ、あんたも泳いできなさい!」

「きゃきゅ~ぃ~~ん!!」

「もう腹ごなしにもならないわね。」

「キャッホ~!! ドラキン、すげ~~!!」


 と、喝采が沸き起こる。


 祭り荒らしの野盗が川に沈んでしまった。一躍有名になってしまった三姉妹。次はお祭り会場の舞台に立たされた。


「さ、スクエアダンスよ!」


 三人で舞台いっぱいに飛んで跳ねての大活躍だった。野盗どもは川底から銅貨を拾って上がってきて、


「これでは大損だぜ!」

「親分、出直しましょう。次は全員で襲いましょうや!」


 翌朝、デアには、


「デアさま、門の前に賞金首が並んでいます!!」

「なんだい、うるさいな。」

「あいつらです……。」

「ゲゲ、こ、これは、どうした事だ!」



 ハーフェルには、


「ハーフェルさん、お腹が空き過ぎで眠れませんでしたわ。」

「あらあら、運動のし過ぎですね、今朝はお肉がたくさんですよ、全部食べて下さいね。」



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