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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
107/257

第107部 ソフィア編 魔女・マティルダの手中に??


 1244年11月6日 ドイツ ルブシュ



*)そこの窓から出される物とは、……である


「えぇ~と、」

「はい爺とお呼び下さい。そうですね、メイドを呼びますのでお待ち下さい。お部屋へ案内させます。」

「お願いします。それと夕食は抜きで構いません。このように食べ過ぎております。」

「ほほう、もうすぐ臨月でしょうか。とても大きいですね! マティルダさまには私からお伝えいたします。どうぞ旅の疲れを癒されて下さい。」


 女たちは酔いが覚めるのが早かった。受け答えがちゃんとできている。


 控室に戻って待機を命じられていた。


「お部屋の準備がまだ出来ておりません。もう暫くこちらでお休みください。」

「えぇよろしくお願いします。」


 と答えたのはリリーだった。


「お姉さま、口が大きいですわ。」

「ソフィア姉さん、耳がとんがっているぜ! 大丈夫か。」

「うん、これはまだご馳走を食べたいから、この耳は広間の声を聞くためにだよ。心配しないで。」

「ここにはお姉の素性を知らない人間が三人も居るのだぜ。もっと気を使えよな! おたんこなす!!」


 まだ酔っぱらっているソフィアだった。


「まぁ綺麗な皮のマフラーですこと! キツネのしっぽですか?」

「あらあらいやだ~。こ、これはタヌキの毛皮ですわ、アハ、はは、ハ~。」


 へステアもまだ酔っているからごまかしが出来たが、


「お姉さま、我は酔い覚ましのタライをここに召喚す!」

「ばこ~ん!」「いてて!!」


 ソフィアの頭にタライが落とされた。


「もう~リリー勘弁して。これは本当に痛いのですよ。」


 そう言いながらソフィアはお腹に隠した肉の塊りを取り出して齧りついた。


「ついに肉の塊りが生まれたか。厚かましいお姉さまだこと!」


 *ローズマリーの赤ちゃんとは人が人以外のモノを産む事を言う。爺が言った意味は、ソフィアのお腹が大きい=何か隠してありませんか? と言うような意味だ。



 この城では何事も起きないと良いのだが、と心配するソフィア。三室に通された六人は、ソフィア、リリー、ゾフィ。ギーシャとへステア。それに独り身のシーンプに分けて部屋が充がわれる。


「さ~みなさま、明日の朝までゆっくりとお休みください。」

「は~い!」x6


 メイドに案内されて各部屋へと消えていく面々。どの部屋も大きくはないが、とても綺麗に清掃されていた。部屋の窓は小さいのが二つ。ドアは一つだが、


「あれれれ? ここのドアは鉄でできているわ。」


 そう思った時は既に遅し。ドアには施錠された後だった。木箱が置いてあって中には干し肉ソーセージや黒パン、ビールが収められていた。


「そっか~ここに閉じ込められたのね。」

「でも私とリリーお姉さまには関係ないわ。そこの窓から出れますもの。」

「あんたたちは妖精だものね、夜になったら偵察をお願いね。」

「いいよ任せて頂戴。」


 そう言いながら寝てしまった三人は朝まで起きなかった。これは他の三人も同じだった。


 そこの窓から出される物とは***である。妖精の二人は、


「わ~ここから出なくて良かったわ! 同じ汚物になるところだったわ。」




 1244年12月7日 ドイツ ルブシュ


*)魔女シビルマティルダの手中に??


 片頭痛のするソフィア、リリー、ゾフィ。二日酔いのギーシャとへステア。シーンプは??


「皆さま、おはようございます。もうお昼でございます。」


 と、メイドから起こされた。乱れた顔と髪の毛、過去最高のサービスショットになっただろうか。


「うひゃ~お姉!! とてもひどい顔だぜ!」

「あんただって見られる顔じゃないわ。造り変えなさい。」

「あぁそうかい。……これでどうだ。可愛いだろう。」

「まぁお姉さまに……。」


 瞬時に変身できる妖精に対してソフィアは、髪にネジが巻きついたような、いや風に揺れる案山子に多数のカツラを被せたような揺れる髪になっていた。


「きゃっ、はっは~。お姉さま、ヒド~イ!!」x2

「ふん、あんたたちは何様のつもりよ。噛みつくわよ。」


「お姉さま、先にタライが必要ですわ。」


 そう言ってリリーは満水のタライを召喚してソフィアに落とした。


「きゃー!!」……「冷たいわ~!」

「そうですわね、お湯が良かったですね……ごめんなさい。」


 リリーは笑いながら手早くソフィアの身だしなみを整える。


「リリー向こうの三人にはお湯のタライを落としてあげて。」

「はいお姉さま。序でにタオルも出しておきます。」


「お姉さま、その姿……とても素敵ですわ!」


 リリーがそう言う時は決まっている。大きなタライに入っているオオカミの姿があった。コッケイ、コッケイ、と大笑いをするゾフィには怒りもしないで、


「おかしいわね。人間の姿に戻れないわよ。リリー私を境界に匿って頂戴。」

「はい……でもどうしてでしょうか。」


(お兄さまの魔力が切れたのかしら?)と思ったリリーは一抹の不安を覚えた。またリリーは最近オレグ兄さまの声が聞こえない事に気づいた。


「ここはお姉さまに心配をさせるには忍びないわ、黙っていよう。」


とソフィアを境界に押し込んだ後に呟いた。


 ゾフィは、


「やっぱりそうなのか!」

「そうね私たちは魔女シビルのマティルダの手中に落ちているのよ。」


 ソフィアの肉には人一倍の毒が盛られていた。これで動けなくなるほどの量だったのだが、……いや、そのはずだった。


 昨日と同じ中広間では爺と共にマティルダが待っていた。


「みなさま、夜は良く眠れたでしょう。お父様はもうお出かけですのでここには居りません。それとリリーさん、反物の代金はここに預かっております。大金貨で七十枚、金貨で七千枚分ございます。」


 オレグは常々「大金貨は他国へ行けば利用出来ないから貰うな」と口を酸っぱくして言っている。金貨十五枚分で造られる大金貨だから、金貨の十五枚の金額にしかならないのだという。国が保証するから価値のある大金貨だ、これを他国やハンザ同盟に持ち込んでも金貨十五枚の価値しかないのは当然だ。


「マティルダさま、金貨で七千枚は頂けませんのでしょうか。」

「はい、ここは軍事要塞ですので大量の金貨は出せません。ですから故国へ行きまして母にお願いするしかありません。なに大丈夫でございます。絹の反物は母に届けますのでここに置いていく訳ではありませんわ。」


「では明日にはブランデンブルグへまいりましょうか。」

「そうなりますわね、他の方もよろしいでしょうか?」


 皆は問題は無さそうに思えたが、


 ギーシャは、


「私どもはオットーⅢ世さまに納税に来たのですから、どうしたらよろしいでしょうか。」

「金貨一千五百枚でしたね、構いません使い込んでデンマークまで行きましょう。そして、オットーⅢ世に手渡しすればよろしいでしょう。」


「ええ!! そんな。もう帰りたいのですが出来ませんか?」

「マティルダさま……、」

「リリーさん、ここには父が居ませんので税金の領収証が出せません。という事は?」

「さ、ギーシャさん、行きますわよ、戦争よ!!」

「そんな~それはあんまりです……。」

「へステア、新婚旅行の続きですわ。」

「はい喜んで~!!」

「へステアさんお前もか~!!」

「てへ!」


 シーンプとゾフィは一言も発してはいない。


「ソフィアさん、それにギーシャ。ブランデンブルグへ行きますわよ。」

「えぇ、そういたしましょう。」


 ゾフィが初めて声を出した。




 1244年12月8日 ドイツ ルブシュ


*)ブランデンブルグへの道のり


 みんなが城をでてみると風景が変わっていた。すっかり冬の景色になっていたが、誰も気付いてはいなかった。座敷牢には一か月の間監禁されていた。冷たく吹きすさぶ季節風にはほっぺも赤くなるはずだが、また十二月の空の色にも鉛色の雲が垂れこんでいたのだが。


 マティルダには、ソフィアは気分が悪いので私の境界に押し込んでいるとリリーは説明した。


「あらあら、食べ過ぎでしたのね。」

「はい一人で肉を抱え込んでおりました。とても美味しかったのでしょか。ほんと子供みたいでしたわ。」

「まぁまぁ、うふふふf・・・。」  


 リリーはこのマティルダを信用できなくなった。以後注意して行動を共にする事とした。ゾフィには言わなくても伝わっている。


「お姉さま、私も注意してかかります。」


と言うのだった。  


 ブランデンブルグまでは百kほどの道のりだろうか。ここルブシュからベルリンまでが約六十kかとも思われる。


 不思議な事にベルリンからブランデンブルグまでは運河で繋がっていたのだ。大きい河が在る。みずうみが連なっているような感じだ。途中の関を切り開いて水が流れるようにしたとも思えるような運河だ。天然のダムだと言える。


 全長が六千七百キロメートル。湖沼は三千五百が連なっていると紹介されている。この地方は水の都と言っていいのだろう。


 ブランデンブルクは正式名が「ブランデンブルク・アン・デア・ハーフェル」という。ただ単にブランデンブルクと検索したらベルリンの周りを指している。違うのだ、私はこの違いが随分と長く気付かなかった。ウィキペディアを見てもブランデンブルク・アン・デア・ハーフェルについては何も書いてない。


 ここからは既にブランデンブルグの領地だ。ポーランドですれ違うよりは安心出来るだろう。なにより安心できるのは、ドイツ騎士団が遠征に出ている”という一言だ。ドイツ騎士団が次に狙うのがポーランドだからだ。


 1242年の氷上の戦いで敗れたドイツ騎士団は、1249年までここプロイセンに滞在して戦争を続けていた。プロイセン地方とはオレグらが居るポーランドの東側から、リトアニア地方までの土地である。今のポーランド国とその東の地方と考えていい。狭義にはトチェフと友好を結んでいるマルボルクも入って

いる。

 ドイツ騎士団とブランデンブルクと共同でそのプロイセンを侵攻している最中なのだ。だからオットーⅢ世はデンマークには居ない。だがソフィア達にはデンマークに居ると教え込まれている。この意味はまだ解らない。

 ドイツ騎士団は戦争オンリーではなく、地方に教会を建立して侵略する戦法なのかも知れない。要所要所に城や教会を建てているのだ。


 1228年に神聖ローマ皇帝のフリードリヒⅡ世により、プロイセンはドイツ騎士団に、占有させる偽の協定が交わされた。でもプロイセンは実力で阻止するのだった。第二次の1260年~1274年プロイセンの侵攻へと続いていく。


 ドイツ騎士団の侵攻は続く、とだけ覚えておいて下さい。



 ソフィアは以前対峙したドイツ騎士団が戦死してくれたらいいのにと思っている。他人には厳しく己には優しい、弱い人間がTOPに座るのが常だ。矢も届かない安全な場所で昼寝をしているだろうから、誰か寝首を掻いてくれないかとも思う。次に相対峙あいたいじした時にはいの一番で本部を襲撃するつもりでいる。だってトチェフには兵隊が居ないからだ。



 日本に居てはドイツやポーランドの事は判らない。どういう産業で飯を食っているのかが、大いに興味があるのだが。第一にどのような多品種の野菜が栽培されいるのかは、まったく分からない。航空写真では一面の畑が在るのは判るが、本当にそれまでである。観光の教会や聖堂とうには興味は無い。これでは、次の二部目の作品が書けないないだろう。


 だから上記の内容でベルリンはスルーさせて頂く。


「見て見てギーシャ。すてきな教会よ。次に結婚する時は、私はあのような教会で式を挙げてみたいな。」

「見て見てギーシャ。すてきな聖堂よ。次の新婚旅行はあのような聖堂を巡礼したいな~!」


 苦虫を食べているような表情で干し肉を齧るギーシャだった。


 シーンプはギーシャに言うと、


「ほんと素直でいいお嫁さんですね、羨ましいです!」

「はい、自慢の嫁です。」


 とのろけの返事が返ってくる。とても優しい亭主だ。




 1244年12月12日 ドイツ 湖上の遊覧


「みなさん、ここからはドンコ船でブランデンブルク・アン・デア・ハーフェルへまいります。」

「マティルダさま、そのこころは?」

「矢切の渡し”と解く。矢が飛んでこないので安心です。」


 川幅がとてつもなく広い。大砲でも届かない程に。


「ですがとても狭い所が点在しますのでこの限りではありません。」


 マティルダはここ、ブランデンブルグの姫様だ。その国の姫を襲う野盗が居るとも思えない。この疑問を素直にマティルダへ尋ねようと思ったシーンプは、


「マティルダさま、ここには野盗が出るのでしょうか?」

「いいえ湖の上には道がありません。湖上を船で行く方が早いのです。」

「あぁな~るほど。さようでございますね。」


 質問の答えになっていない返事で誤魔化すマティルダ。


 小さな池でも在れば迂回せざるをえないのだ。ましてやどでかい湖沼が連なるからには、最短道路とかは存在するはずはないのだ。確かに湖上を進むのが一番早いに決まっている。


(うふふふ……そんなわけが有ろうはずはありません。河がうねっていますから、道の方が早いですわ!!)

「一度でいいからこの運河を渡ってみたかったのです」とは言わなかった。



 湖沼はNの字のような形をしている。第一に水の上では寝れない季節だ。夜になる前におかに上がり宿屋に転がり込む必要がある。そういう意味では水上は二重に手間暇の必要な交通路だ。木材で筏を組んで大量の荷物を運ぶには最適なのですが、旅行者にはちっとも優しい交通手段ではありません。


 シーンプは面倒な行動でようやく上記の理由が理解できた。

(くそ~マティルダさまめ!!、一杯食わせやがったな!)




 1244年12月15日 ドイツ・ブランデンブルク


*)ブランデンブルク・アン・デア・ハーフェル


 ここの首都は大きな島に在るようだ。川が天然の防壁になるからだろうか。襲撃を受ける時は橋を死守すればいいのだ。川を船で渡る?? その方法はモンゴルのカーンも使っている。だからあまり意味が無い解釈だろう。


 さて、ブランデンブルク・アン・デア・ハーフェルの居城が判らないから、あらかたの場所を決めなくてはならない。


 一千三百年ころは東西に長い国だった。その首都は西の隣国から数キロほどしか離れてはいなかった。ただ単に水上交通の要所だったからだろうか。


 1157年に初代アルブレヒト熊公が、ブランデンブルク辺境伯として国造りをさせられたのだろう。


「おいお前。ここに都市を造りたいのだが、どこが良いだろうか。」

「はいこの川の向こうは大きな島でございます。」

「だからなんだと言うのだ。」

「はいこの島の森を焼き払えばよろしいのですよ。島ですのでヨーロッパ全土への延焼はありません。」

「ほほうそれは面白い。島の木々は切出して煉瓦製造の薪にしろ。枝葉は打ち捨てて全部その場で灰にしろ。肥料になる。」


「はい、直ちに森林の伐採と都市の建設を始めます。」


 多数の人民が集められて都市が完成したのだろう。ちまちましたオレグの比ではない、大掛かりの国営事業だった。神聖ローマ帝国の意向によるものだろう。こういう点ではキリスト教は良いのだが、後のキリスト教は腐敗して、産業の発展を妨げてきた。


 ここは大きな汚点である。宗教が腐敗するとはおかしな表現だが、島国日本から見れば理解出来ない。このころは発展途上だから宗教戦争が一番の汚点か。もしかしたら良いところだったのかも? 理解出来ない。



 十三世紀の中世ヨーロッパは農業改革で大きく人口が増えていく。発展していくのだった。十四世紀は中国から或るものが流入して人口は激減した。新型コロナの比ではない。恐るべし中国ですね。自国も半数までに減っているからどうしようもない。また大航海時代には逆に白人が元で多大な病死が発生する。あちこちの大陸へ伝播させたり、持ち帰ったり……。


「いや~鎖国の時代は良かったですね~!」


 ここまで費やしてもお城の場所が決まらない。二番目に大きい島の中央が良いか、島の西に大きな建物が在る。川の横だからここに決める。


「マティルダさま、ご機嫌ですね!」

「あらそうかしら。この先に陸が見えますでしょう? あの島の対辺にお城が在るのですよ。もうすぐですわ。」


 この時期の季節風は北西だ、向かい風で進まない。


「おらおらおら!! 力一杯に漕ぐのですよ。すぐにビール付の食事ですよ。」

「あらあらまぁまぁ。けっしてそのような事ありませんよ。」


 と漕ぎ手に水を差すマティルダだった。シーンプはまたしてもマティルダから裏切られたような気分を味わった。


「リリーさん、もうソフィアさんを出して下さいよ。もう私は疲れました。船から飛び降りたいです……。」

「それは出来ませんよ水面から30cmしか高く?? いや、むしろ船底は水面よりも低いでしょうか?」

「そうですね、降りるとは言えないでしょうか。」


「お姉さま、お姉さま。また出てきて下さいまし。」

(3分間だけですよ。過ぎればまた元に戻りますからね。)

「はいはい承知しております。もうすぐ終点ですよ。」


「ぴょこ~ん!」とソフィアが現れた。




 1244年12月17日 ドイツ・ブランデンブルク



*)ブランデンブルグ城


「これはこれはマティルダさま。長旅ご苦労さまでした。ハイルヴィヒお母様には到着する旨をお伝えしております。」

「爺、早かったのですね。」


「えぇ~爺! さま~??」x5

「はい爺でございますが、なにか?」

「どうして後から発たれて早く着いたのでしょうか?」

「いえいえ、逆にどうして遅れて着かれたのでしょうか。」


 シーンプと爺が漫才を始めるも、


「二人ともめなさい。はしたないですわ。ハイルヴィヒお母様に案内して下さいな。」

「はい、直ちに。」


 爺には息子の執事=デアと娘のメイド=ハーフェルが一緒にいる。爺はソフィアたちが一か月の間、魔法で眠らされていたとは知らない。上の二人のやり取りを中止させたのは、ばれるのを心配しての事だった。



「ハーフェル、お付の者を控室に案内しなさい。」

「はいお父様。」


「デア、後は任せましたよ。」

「はい。」


 マティルダは爺と一緒に城の館の方へと消えていった。


「さ、皆さまは控室へご案内いたします。こちらへどうぞ。」


 メイドのハーフェルが声を掛けた。すぐさまデアは他のメイドに、


「お前たち、お荷物を運んであげなさい。」

「はいデアさま。」x5


「ギャフン!!」

「あらあら無理されないで下さい。それはとても重たい反物ですわ!」


そう言いながらリリーは箱を軽々と持ち上げる。背中の箱がリリーにより持ち上げられたメイドは、


「ゾフィさま、ありがとうございます。」

「あなた! 誰なの?? 私たちが判るのね?」


「はい、さようでございます。」

「……、……。」


 リリーとゾフィは顔を見合わせた。三人の間にメイドのハーフェルが割って入った。




*)リバーサイドフェスティバル


「今日はお祭りです。夕食は四時になります。」

「お祭りですか? いったいどのような……。」

「はい、ここは運河で栄える街でございます。……、お分かりですよね?」

「いいえ、ただの思い付きかと思いましたが違いますか?」


「この時期のお祭りですよ。??」


 メイドのハーフェルは、リリーたちを確かめるような質問を返した。この問いにシーンプが答える。


「はい建国記念日でしょうか。序でにカーニヴァルも行われるとか?」

「そうですね、イングランドではカーニヴァルでしょうが、ここドイツではファストナハト、と言います。」


「どのようなお祭りでしょうか。」

「運河を大小の船が綺麗に飾られて往復するのです。対岸にも街がございますので、往復するのですよ。川岸の私たちは綺麗な船に銅貨や銀貨を投げ入れます。最後は投げ入れられた金額の分だけのお肉やソーセージ、ビールなどがおかに上げられて宴会・饗宴が行われるのです。」


「まぁ楽しそう!!」

「はいとても賑やかで楽しいですわ。」

「夜に行われるのは船に灯りが灯されるからでしょうか?」


「どのようなボロイ船でも夜の明かりでとても綺麗になりますからね。筏でも装飾が出来るのです。」


「ぜひ案内をお願いします。」

「それはよろしいのですが……、」


「みんな、俺たちで行こうぜ。きっとハーフェルさんたちは、船に乗ってお肉を提供するだけだぜ。」

「ゾフィ口が悪いですよ。……ハーフェルさん、お城の方は船に乗るだけなのですか?」


「いいえ、川に沿った道には屋台を出します。ですから皆さまは自由に散策された方が面白いです。一番の出し物は雪女です。」


「およよ!!」 (ここにも魔女が居るのね。)と、リリーはこころで呟く。


「メイドの貴女、いったいどのような?」

「はい山から持って来た雪を船に積みまして、小さい雪の塊りを作って投げるだけです。」

「十一月でも、ここには雪が降るのですか?」


 と、リリーが質問した。


「もう十二月も終わりになります。深山では雪もたくさん積もっています。」


 リリーは十二月? 十一月? 聞き間違えたかと思った。だが、これは日本語ならば良かった。ドイツ語ではデセィンバー?とノブ?だ。間違うはずはない。

(これは大きな問題だわ。後で相談しましょう。)と、心に留め置いた。


 そんな事には気付かないゾフィ。


「あぁそれはとても素晴らしいわ! 投げ入れられた銀貨・銅貨を雪で包んでまた投げ返すのですね?」

「それだけではありませんの。そう、金貨を百枚包みますのよ! それはもう、皆さん顔で雪を受けるのがとても得意ですわ~。」


「きゃ~それはとてもいい考えだわ。オレグにもまねをするように勧めるわ。」

「お姉さま、オレグ兄さまはそのようなお金の使い方はいたしませんわ。」

「そうね……ケチ男のオレグですもの。無理でしょうね。」

「お姉さまがなさればいいのです。ビスワ川の用水路で出来ますわ。」

「うんリリーとても元気が出て来たわ。早く行きたい。」


「まぁまぁ、うふふふ……。」


 と意味深なハーフェルの笑い声だった。


「貴女たち、綺麗な服を着て船に乗りませんか? きっと沢山の銀貨が集まるかもしれません。」


「そうですわお姉さま! やりましょうよ。」

「リリー姉さん、それは止めたがいいぜ。たぶん人柱にされるだろうさ。な? ハーフェルさん違うか??」


「えぇとても残念ですわ。せっかく私の生活費を稼げると思ったのに。」

「だろうよ。きっと船で海まで流されるのさ!」


「まぁまぁ、うふふふ……。」


 と、意味深なハーフェルの笑い声が二度も聞けた。


「さ、ここが控室になります。三室ご用意いたしました。ご出立までここをお使い下さい。夕食の準備が出来ましたら呼びにまいります。」


「ありがとうハーフェルさん。」

「それからここにお茶をご用意いたしております。必ず飲んで下さい。特に、」

「まぁ、ありがとう。長旅で喉がからからです。」


「どういまたして、ごゆるりとお寛ぎ下さい。」


 不思議な事を言うメイドだった。


「お姉さま、お話があります。」

「うん、これを飲んでからね。」


 ソフィアは用意されてあるお茶を飲みながら指示を出す。


「ゾフィ、メイドに化けて城内を調べて頂戴。」

「OK姉さん。いい情報を見つけてくるぜ!」

「リリー貴方は鏡魔法で全ての部屋を覗いて頂戴。」

「はいお姉さま。すぐにいい知らせを見つけてまいりますわ! それと相談もございます。」

「うん判ってる。それ……。」


 シーンプがソフィアの言葉を遮った。


「おいソフィアさん。いったいどうしたんだい。」

「えぇあのメイドも魔女ですわ。でも私たちの味方でもあるようよ。さっきは船に乗せるような提案でしたが、これは私たちを逃す手段なのかも知れません。一度、ぜひ案内をお願いしますと言いましたからか、思案されてあったのでしょう。」

「ギーシャさん、ここは私たちも荷物を軽くして逃げる算段をした方が良いかもしれません。」

「シーンプさんまで、いったいどうして……。」

「あらギーシャ。私を見ても無駄ですわ。私もここから逃げる方に一票! ですわ。」

「そんな~へステアまでも……。」


 ギーシャはソフィアとへステアの顔を交互にみて、シーンプを見た。


「はい、ここは船に乗る準備を致しましょう。」


「それはどう意味でしょか。」

「だめですよ、淑女のお着替えの時間です。私たち男は隣室へ行きますよ。」

「へっ! は!」


 シーンプは意味不明で頭がこんがらがっているギーシャの背中を押して部屋から出て行った。


「ソフィアさん、もうお加減はよろしいのですか? すでに三分と言わず、もう三十分は過ぎていますよ。」


「あっ、ホントだ。もう魔女の毒が抜けたようです。このお茶は特に、……でしたわ。あのハーフェルにはお礼を言わないと。」


「どういう事かしら、私に説明してください。」

「へステアさんは知らないですね、リンテルンのシャウムブルク城で戦った時の魔女の残党です。アンナとカレーニナの……たぶん、上のクラスの幹部らの魔女でしょうね。ゾフィとリリーの区別が出来ていましたから。」


「でも、敵だったのでしょう?」

「そうね、でも今の私はアンナとカレーニナの上司ですので、このままで考えると、私は最高司令官です、ね!!」


「まぁソフィア指令官ですか。……はぁ……。」


「お姉さま……。」

「リリーが呼んでいます。……リリー、どうしました?」

「はい九千文字超えましたので次の章に移りませんか??」


「まぁ失礼しちゃう!!」


「まぁ、オほほほ……。」


 へステアが大きい声で笑い出した。


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