第105部 ソフィア編 ルブシュ地方の城塞
1244年11月1日 ポーランド・ブィドゴシュチュ
*)ブランデンブルクまでの旅
ソフィア、リリー、ゾフィ、マティルダ、シーンプ、ギーシャとへステア夫婦が、四個の木箱のダミーと金貨一千五百枚を持って旅に出る。
ルブシュ地方の城塞経由で、ブランデンブルクまでの旅が再度始まった。
「リリー、荷物が少なすぎですわ、増やして下さい。」
「はい、お姉さま。荷物の少ない長距離の旅は怪しすぎますね。」
リリーは境界より個人の荷物をポンポンと掃き出した。
「まぁ、失礼な。これは私たちの新婚旅行の荷物ですわ。ごみみたいにポンポンと掃き出さない下さいまし。」
「吐き出しが良かったかしら?」
「もう、お下品です!!」
他には毛布になる多数の麻の布がある。みんなはこれに包まった。
絹の反物を仕舞った四個の木箱はリリーの境界に仕舞ってある。もちろん大多数の食糧も隠しているが、怪しまれない程度には黒パンとソーセージを出している。
ブィドゴシュチュから真西へ進み、ピアという街で宿泊する。それからパウチ、ゴジュフピエルコポルスキ、ミシリブシュを経由して目的地のホイナが、ルブシュ地方の城塞の街になる。それからは今のポーランドとドイツの国境を越えてシュベートに入り、ブランデンブルクへと向かう。
*)道中 ドイツ騎士団
すれ違うのは農奴かドイツ騎士団だけだった。行商人は見かけない。これはたまたまかと思いきや、ドイツ騎士団がその行商をも行っていた。ピアやパウチ、ゴジュフピエルコポルスキ、ミシリブシュは大きい街だからどこからかは荷物が届いているはず。
「グーテンターク……、」
「やぁ、旅のお方。」
ギーシャとへステアは、すれ違う農婦らに声を掛ける。昼過ぎからになるが、すれ違う人に声を掛け続けて八人目でようやく返事が返ってきた。
「ピアまで行きたいのだが、この先は安全でしょうか。」
「そうですね、畑が切れたら森の一本道になります。昼でも暗いですからオオカミには注意されて下さい。」
「ドイツ騎士団の人はどうだい。」
「あんなのはオオカミのエサになればいいだ。時々はすれ違うでしょうから身ぐるみ剥がされないように。」
「どうもありがとう。」
ピアはではおおよそ百十~百二十kになる。駆け抜ける事は出来ようが、道は悪いので山中で野宿となる。この当時には村も無かっただろう。1244年11月1日。野宿には寒すぎる。火を焚いて男の二人が番をする。
オオカミはそれほど恐れられているのか? と考えるソフィア。
「お姉さま、ここは心配はいりませんわ。オオカミ以上に怖いのは送りオオカミですもの。」
「そうね、一番怖いのは人間ですわね…。」
シーンプは、
「あの騎士団の人たちはなんだか商人崩れ? の感じが致します。どうしてでしょうね。」
「はい商人崩れかどうかは私には判りませんが、ドイツ騎士団の大御所は、どこかとつるんで戦争に行っています。第一次プロイセン蜂起もありますがこれは不明です。また、ラ・フォルビーの戦い”にも赴いていましてですね、十字軍による騎士修道会に参加しているようです。」
「な、なんと!!」
「キリスト教は恐ろしいですね、なんでパレスチナまで遠征にいくのでしょうね、そんなに宗教対立とは理解出来ないのでしょうか。」
とギーシャが答えた。
「お貴族さまの考える事です、理解は出来ません。」
「貴族のマティルダさまが言われる言葉とも思えませんが……?」
「そうでしょうか、キリスト教国vsイスラム教国の縮図はこれからも、しかも永遠に続くと思いますわ。中東へのヒガミなのでしょうね。」
一同は「ふ~ん、な~るほど。」
1244年11月3日
昼過ぎには無事にピアに到着して一日中宿屋で過ごす。
「ここには有名なものは何も在りません。パブで飲んでおいて下さい。」
ソフィアやリリーはそれでも良かったが、シーンプだけは村を見て回っていた。ギーシャとへステアはべったりだし、ゾフィとマティルダは浮いていた。
パウチまでは約二十五kほどの道のりだった。パウチという村は、
「ゲッ、この村はドイツ騎士団の駐屯地!」
「ホンとですね、いつの間にか占拠されています。ここはチウォパまで一気に行きましょうか。」
二頭だての荷馬車だから駆ける事はできようが、
「それは勘弁して下さい。こうも道が悪くては……そのう、お**が痛くて我慢できません。」x3
「馬さんだって可哀そうです。」
リリーは男たちを夜の見張り番とする事を思いついた。だから先に休ませようとした。
「では男たちとゾフィ、寝て下さい。」
「こんな揺れて痛い馬車では眠れないよ。リリーお姉さま……!!!」
「はい分かりました、また境界でお休みください。くれぐれも探索はよして下さい。その、シーンプさまとギーシャさまは、大人しくして下さいね。」
「はい、お約束いたします。」x2
「これ、お弁当ですわ。ビールとボロニャソウセージと黒パンです。」
へステアがギーシャに手渡して、
「そのう……あのう……。」
「いいわよ、へステアもお休みなさい。」
「ありがとうございます。夜は寝ないで見張ります。」
ギーシャと離れたくないへステアは、リリーに夫と一緒に過ごせるように直訴して二人で過ごせるようになった。
その夜のゾフィは、
「おいらが見張り番かよ、いいよな、こいつらは……。」
もう全員が眠っていた。「夜は寝ないで見張ります」と、言ったあのへステアさえも……。
ゾフィは、
「うふ~ん、お姉のいい物を見つけたぜ! これは、上等のランジェリー!!お着替え、お着替え!!っと。」
1244年11月4日 ドイツ ゴジュフ・ヴィエルコポルスキ
「ここは温暖な気候なので、ワイン用のふどう栽培が盛んなのですよ。」
「オレグが居たら喜んで飛んで見に行ったでしょうね。」
「お姉さまは、もう……??」
「いいえ違いますわ。オレグの性格を考えて言ってだけです。」
「いえいえ、それがソフィアさまの優しいところでしょう。」
宙を見つめるソフィアの眼にはオレグの姿が映っていたに違いない。
ポーランドでは数少ないブドウ栽培の風景が見てとれた。実はここがそのルブシュ地方の城塞になるのだった。ゴジュフ・ヴィエルコポルスキまでは余裕で到着する事ができた。
ボレスワフⅡ世はブランデンブルク辺境伯と争って負けたから、この地が奪われたと聞いた覚えがある。
「ボレスワフⅡ世はしっぽまいて逃げたんだわ。ここはブランデンブルク辺境伯に売却されたんですて。」
「おいへステアそれは本当か!」
「1249年、ボレスワフⅡ世が売却してドイツ領になったの。そして1945年にポーランドに返還されたそうよ。」
「お前! 未来人? 今は1244年だぞ。」
「いいじゃない、そういう細かい事実はね!」
ギーシャは女房が怖くなった。
ブランデンブルクの兵隊がわんさかと見かける事になった。
「これならドイツ騎士団も顔負けね。」
「言葉を換えると、ポーランド侵攻への準備ですよ。間違えないで下さい。これからは私たちの戦争へと発展しかねませんわ。」
「マティルダさま~そんな、ご無体な~。」
「ブランデンブルクVSポーランド。…… あら、事実でしてよ?」
「そう……ですね、すでに馬車の上では対立が始まっているわよ。私たち三人はギーシャとへステア夫婦につきます。」
「ソフィアさまはそうでしょうが、イングランドの私は中立です。」
「いいですよ私は独りですもの。ここは私の領土ですから構いません。あ~ぁ、お父様!……今いずこに……。」
「訂正、私たち三人は、マティルダさまにつきます。」
「まぁ現金な!!」
「アハハハ!!」x?
「そろそろ城壁が見える頃ですよ。みなさん、このまま突撃しますか?」
「いいえ情報収集が先です、ギーシャさん先にパブに行くべきです。」
「お尻に湿布が! 先ですね。了解いたしました。」
「ワハハハ!!」x3
ブランデンブルクは本当に良い土地を購入したものだ。二束三文かも知れないが金額はいかほどだっただろう。これが事実かどうかも判らない。
情報収集が先ですと言ったのは誰だろうか、飲んで食べて騒いだだけだった。
1244年11月5日
普段飲まないワインを飲んで頭痛がヒドイ二人だった。ビールと同じようにホットワインを流し込んでいたら無理もないだろう。
「ケッ! だらしね~!」
二人の失態にケチをつけるゾフィ。女の姿をしているがゾフィの本名はノア、男の妖精だ。口が悪いのは生まれつきらしい。女の姿に変わっても性格まで変わるものではなかった。素が素なだけに・・・・。
「なんだい、あのひらひらした服の女たちは!!」
ゾフィ、マティルダ、シーンプ、ギーシャとへステアの五人で市街の散策へと出かける。人口はまだ少ないが国境だからか、という街のピリピリとした感情が伝わってくる。旅行者には冷たい視線が突き刺さるも、若い女が三人と商人風情の男の二人だから、見逃されたかも知れなかった。もしこれが、ルシンダとヤンとサローだったらすぐに呼び止められただろう。
「農婦じゃないな? たぶん商人の娘だろう。」
シーンプは、
「これから発展していく街ですね。メイン道路でしょうか、とても広く確保されています。教会が出来れば一気に人口が増えるでしょう。」
「えぇ、とても綺麗な街並みが造られますわ。ベルリンを模した街がですね。」
「マティルダさま、それはどういう意味ですか?」
「はい、これから造る都市ですもの。自分の好みに仕上げる国王さまです。深い意味はありません。他の都市もそのように造られるはずですわ。」
「国是はヨハンⅠ世さまが担いますので、きっとそうでしょう。」
ブランデンブルクはベルリンを模して建設されるのだった。
田舎=辺境の縮図が見てとれるというものか。だが本物には勝てないからじきにベルリンへ首都が移転されるのだった。おまけにブランデンブルクという地名までもが付けられた。これは福岡県と名付けられた名前と同じだ。福岡という地名は中国地方のとある村の名前が由来なのだ。(探して下さい。)
オットーⅢ世は、力を示したくて方々に戦争を嗾けている。奪った領地はヨハンⅠ世が上手く統治している。
「そうですね、兵隊の人数も多いから食糧の輸入も大変でしょうか。」
「ギーシャさんがそれを言いますか?」
「ははは、身をもって体験した事実です。シーンプさんは海での仕事が主でしょうから理解出来ませんでしょうか。」
「えぇ、だからこの陸の旅は貴重な経験になるかと、今からワクワクしていますよ。この路地を曲がれば新しい出会いがあるかもしれませんしね。」
「例えば、あの痩せた犬とか??」
「ぶ、ぶ、無礼な……。」
「ギーシャだって旅は初めてでしょうが。」
「いや二度目だ。グダニスクに行った事があるぞ。それとへステアも初めてだろう?」
「新婚旅行ですから、うきうきしていますわ。」
「へステア、僕もだよ~……。」
「待って! 何だか暗いイメージが浮かんだからその路地には入ったらダメだよ。」
「ゾフィ、ここは大きい道だよ? この先も綺麗な街並みだし……。」
「うん、でもダメだよ。オレグだってきっと進まないと思う。兎に角やばいよ、引き返そう。」
マティルダは、
「その方が身のためです。もう引き返してブドウ園の方に行きましょう。農民の暮らしが見てとれますわ。」
「そうだね、町民は騎士団に忖度するから本当の事は言わないでしょうね。」
「忖度にルビをふるのですか? 今の日本人には読めない人は居ませんよ。」
「そうか、これは賄賂と同じ政治用語ですもの、当然でしょう!」
ギーシャに対してシーンプは、
「さすが町民!! よく理解されてあります。町民には仕事が無くなれば即、飢え死になりますからね。」
西からたくさんの荷馬車が来るように見えた。ギーシャは、
「たぶん首都のブランデンブルクにライ麦を納めた帰りでしょう。多くは在りませんが何か荷物を載せていますね。」
「はい、生活必需品や食糧でしょうか。建設金物なのかも知れません。」
たくさんの荷馬車は城の方に行くらしい。少しばかりがゾフィが言った危険な方へ曲がって進んでいた。ゾフィは気になるのか荷物を凝視している。
「チェ! つまらない物を運んでいやがる、あれは魔術具だろう。」
ゾフィは独りごとのように小さく呟いたから誰も気付いてはいない。
ゴジュフ・ヴィエルコポルスキからブランデンブルク(ベルリン)までは百kほどと、とても近いのだ。ブランデンブルクの東の玄関口として発展する。
*)ルブシュの城塞
翌日になり、二日酔いの二人も、お城の見学へと出向くような旅行気分が抜けない二人にマティルダは強い口調で、
「ちょっと貴方たち、歩いていくつもりかしら?」
「そうですが、なにか……。」
「遠路はるばる訪ねて行くのですよ、馬車が無ければおかしいでしょう、違いますか?」
「そ、そうですよね~、マティルダさま、そのとおりです。」
ギーシャが慌てて馬車を取りに戻った。
「はい、そうですね……。」
二人が遅れて納得したように返事をするのだが、マティルダはすでに心はここに在らず。
マティルダは遠くを見るように口にした。
「ルブシュのお城ってどこに在るのかしら。」
リリーは空から偵察していたから、
「ここからは見えないですわ。ヴァルタ川の北に建っています。」
(*詳しい場所が判りません。)
馬車で全員が移動した。少しして大きい城が見えてきた。
ソフィアは、
「悔しいわね、オレグが建てた館よりも少しだけ大きい!!」
「お姉さま、壁が薄いのですわ。気にする所が違います。だってすぐに壊れるようなお城ですもの。」
「そう……なんだ。オレグが造った館は戦争では壊れないように出来ているものね。これ位では僻まないわ。」
うふふと笑うマティルダだった。
「ここはお父様が建てたお城ではありませんが、ケチはつけないで下さい。」
ギーシャとへステアは、オレグという男が凄いのか! と思った。
「来年はぜひともトチェフへ寄らせて頂きます。その館とか見てみたいです。」
「はい見学に来て下さい。他にも優れたものがたくさん在りましてよ。」
館が特大な事、ビール工場もワイン工場も大きいという。港も大きいと言う。大通りばかりではなく、小さい道もタイルで舗装されている事。等々……。
「そ、そうですか~。」
何も知らない二人に自慢話のように、ほらを吹きこむソフィアだった。
「まぁお姉さまったら、性格が悪いですわ。」
「こいつ、生まれつきだろう。今始まったことじゃね~よ。リリーのバ~カ。」
「我はゾフィの頭にタライを召喚する、来たれ!! 水入りのタライ!」
「ばこ~ん!!」
ゾフィの頭上にタライが落とされた、しかも丁寧に水までもが満水だった。
「ヘ~クション、ヘクション!!」
リリーとゾフィの姉妹の喧嘩が始まり全員は笑い転げる。ゾフィは元の男の裸の妖精に変化して、
「フン! こんなものさ。」
通行人が見て笑っている。
「ばっきゃろう~見世物じゃね~ぞ~~。」
道行く人に怒りを露わにしていた。
「あんた、男なのね!」x4
「きゃ! はしたない。私は女です。」
改めてゾフィに戻った。水に濡れた跡が無くなっている。
「ほら見えてきました。あれが名も無いルブシュの城塞です。さぁ乗り込みましょう!!」
「ま、待って下さいマティルダさま。ここは偵察あるのみです。そのように突撃されましたら……、」
「シーンプさん、もう遅いですわ、あの三人はもうここには居ません。」
「へっ! ぎょへ~……!!」
ルブシュ地方の城塞=ルブジュゥ=ルブ城、と命名?
ソフィアと妹の二人は、ルブ城の門番に、
「グーテンターク。」
「グーテンモールゲン。お嬢さま方、なんの御用でしょうか?」
「はい、ホルシュタイン伯さまに謁見をお願いしたいのです。お嬢さまのマティルダさまが訪問にまいりましたと上申願います。」
「ここはオットーⅢ世さまの城だ、帰れ!」
「マティルダさま~お取次ぎが出来ませ~ん、門番を交代、いや首にして下さ~い。」
ソフィアがマティルダに向かってではなく城内に向かって大声をだした。オオカミの喉を持つソフィアだ、裏門を通り越して森にまで声が届く。森の動物が慌てて逃げていく飛んでいく。
「なんだ貴様! 俺に喧嘩を売っているのか。」
「いいえ全然。ホルシュタイン伯さま~、マティルダさまが訪ねて来ま
した~~~。」
さらに大声で叫ぶソフィアだった。
「この~下民めが~!」
門番は黙らせようとソフィアに跳びかかるも、あっさりと躱されてしまう。
「あら、下男には言われたくはありませんわ。本当にマティルダさまですよ。この女性を見て下さい。」
そこにはゾフィがマティルダに化けた姿があった。
「私はマティルダ、ホルシュタイン伯の娘でございます。はるばるとオランダいや違う、デンマークから出てまいりました。お目通りをお願いします。でないと貴方は即刻死刑にいたします。」
「ふん!」
と鼻で返事をする見張りの兵士。だがすぐに顔色が変わり出す。そう、門では済まない程に騒ぎは大きくなってきた。
ソフィアの大声で城内から役人らしき人物が出て来た。他にも兵士が多数。遅れて執事らしき人物もメイドを引き連れて出て来た。
「爺~……。」
と後方に居るマティルダが叫んだ。この言葉を聞き洩らさなかったゾフィは優秀だったのだろうか。
すぐさま、
「爺、私です、マティルダでございます。お父様にお取次ぎをお願いします。」
「こ、これは本当のマティルダさまです、すぐにお通ししなさい。」
「爺、待って下さい。他に従者が四人おります。一緒に通してください。今、呼んでまいりますから。」
マティルダに化けたゾフィが本当のマティルダと入れ替わりに行った。
「マティルダさま、もう安全だぜ、?…安全ですわ。さ、行きましょうか。」
「はいゾフィ、ありがとう。お芝居はとてもお上手でしたわ。」
シーンプ、ギーシャとへステアは呆気にとられていた。
「爺、元気でしたか、とても懐かしいですね。お嫁に行って七年になりますから六年ぶりかしら。」
「はい六年と答える事が出来るのは、マティルダさまだけでございます。よくご無事でお戻りになられました。爺は会えて嬉しゅうございます。」
「マティルダさま、馬車はオリバに任せますのでお荷物を下します。」
「はい荷物はこれだけです、運んで下さい。」
「はい承知しました。」
「他の者は各自でお運びをお願いします。」
とマティルダが言う。
「オリバ、馬車を曳きなさい。」
「はい父上、承知しました。」
マティルダは他の者に指示を出したが、メイドの一人が口出しする。
「みなさま、私の後に続いてきて下さいませ。」
どちらの指示に従うのか迷ってマティルダに問うも、
「マティルダさま……?」
マティルダさえも迷ってしまった為に中途半端な返事になった。
「……? はい、……お願いし……。」
ようやく理解出来たマティルダは皆に向かい、
「他の方はメイドがご案内いたしますので従って下さい。」
「はいマティルダさま。」
マティルダは爺が二階へと連れて行き、ソフィアたちはメイドが一階の控室へと案内した。すると、
「お前たち、荷物を差し出せ。中の物を検査する。」
横暴な兵士三人で指図してきた。
「なにもありませんわ、服と麻の反物と少しの食糧でございます。」
「それは我らが判断する。いいから渡せ!」
「ゾフィ渡してあげて。リリーは私たちの荷物を開けてみて。」
「はいお姉さま。」x2
他の三人は無言で荷物を差し出した。
「……これだけか、もっと在るだろう。」
「あとは馬車でけです。それに、このような短い服には隠しようがありません。中をご覧になりたいのなら主人をここに連れて来てください。」
「いいや、見たいが見なくていい!」
「隊長、綺麗な服があるだけです。他は干し肉のソーセージです。」
「あ、その肉類はお納め下さい。もう私たちには必要ありません。」
「そうか~? 遠慮なく頂くとしよう。別命があるまでここで待っていなさい。城の中の移動は禁止だ。よいな。」
「はい、ここでお待ちしております。」
というソフィアの返事に、面倒をかけるなよ、と言いながら四人目の兵士が控室から出ていった。
「ゾフィ、しっかり頼んだよ!」
ホルシュタイン伯アドルフ四世は、ソフィアたちがシャウムブルク城で魔女と戦っていたとはまだ知らない。
マティルダは、アーベルと1237年に結婚した。アーベルは兄を殺しておいて、
1250年11月1日に王位を継承する。