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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
103/257

第103部 マクシム編 これがアムステルダムなのか?


 1244年12月19日 オランダ・アムステルダム

 


*)アムステルダムと炊き出し



 到着したのだが、これがあのオランダのアムステルダムだという。見るも無残な光景が広がっているだけだった。


「なぁ、これがアムステルダムなのか? 少し寂れ過ぎてはいないかな。」


「えぇ!!ぇぇ、これは水害の跡ですね。大きい嵐が襲っていたのですね……。昔は……数度の災害に遭ったと聞いた覚えがあります。」    


 港の桟橋は無残に破壊されたままで、アムステル川が異様に大きくなっている。


「すげ~でかい水溜りが出来ている!!」

「ここは海になってしもた。幅五十k、奥行き百kはあります。もう海になってしもたたい。あんたら救世主さんかえ?」


「あ、いいえ、ただの行商人です。ライ麦を運んで来たのですが戸惑っています。」

「お婆ちゃん、ここの人は何処に行ったのですか?」


「おうおう、み~んな、海にいってしもた。途中で遭っただろう? 麻布の袋によ、あれは海葬のあとじゃ。」

「えぇ!!! あれがここの人たちだったんですか!!」


「四日前に突然、大きな波が押し寄せてきてな、とても冷たい海の水じゃった、誰でもイチコロにしびれて流れていったよ。沢山の島も沈んでもう見えない

 さ。」


「海岸線も違うようだが、どうなちまったんだい。」

「全部が全部浸食を受けて陸が流れたよ。それはもヒドイありさまだったさ~、家も建ったままの姿でさ、泣き叫ぶ人を乗せていたな~。」

 

 足の無い老婆はもう言い表せないと、涙目になり話す事が出来なくなった。


「お婆ちゃんはよく無事でしたね。」

「いやいや、ワシはまだ未練が残っておるで、天国にはまだいっとらんとですよ。ここにはワシと同じ者が仰山おるでのかれんごとしなされ!」


 寒気がしたマクシムとボブ、シビルだった。シビルは地に足が付いている人間を探した。


「あの瓦礫を片づける人は生きていますよ、訊きにいきますか?」

「いやハンザ商館に行ってみるよ。街の少し高い所に在ったから、無事かも知れないし。」


「ボブ船長、ここからどうやって降りたらいいかな。」

「婆さんが船に来たんだろう? だったら簡単さ! 川に落ちてから行けよ。」

「婆さんと同じにするな!」


 マクシムはまだ死にたくはない。同じく死ぬなら金貨に埋まって死にたいらしい。


「三途の川に落ちるのか? 俺はイヤだよ、まだ酒を飲んでボブと仕事したいよ……ね? 船長!!」

「そういう事はオレグに言ってくれよ、気色悪いぜシビルさんよ。」


「ふん、もうお前らを降ろしてやらないよ。」

「なぁ姉ちゃん、何か方法があったら教えろよ、な?」

「しゃぁないな~、見ていろ今接岸させるからよ。」

「うん、うん。」x2


 シビルは人足に海賊との戦いで使った、船首の木材を再度組み立てさせた。


「右舷に縦になるように四本並べて出してくれ。……うん、それでいい。あ、その先にはロープで梯子を作ったものを下げるからさ、あぁあん、違う。そこには橋げたの板を置くのだよ。あぁ、そうそう、そして縄で結んで、そう、それでいいわ。ありがとう。」


「みんな~船に掴まってちょうだい、おかに舳をぶつけるからね。」

「おう姉ちゃん、船を壊すなよ。」

「なに言ってるんだい、海賊船とぶつかっても壊れなかっただろう? オレグの秘密の新造船なのさ、この俺仕様の特注品さ!」


「がががっ!! ガッシャ~ン!!」


 半分沈没した船を引き裂き自船が接岸した。


「おう、錨を下せや~。」


「お前、あの縄梯子の横にこの棒を結んでくれ、出来るな?」

「はい任せて下さいまし……。」


「船長! マクシムさん、これでいいか、あとは全船団を横付けにすればいい

 のだろう?」

「おう、そうだな。ありがとう最後までやってくれ。」

「はい、頂戴!」

「……。。。……」

「ケッ、銀貨三枚かよ。」

「十分だろう?」


「野郎ども仕事するぞ、俺の指示に従え~…………。」


 オレグも重宝するの頼もしい魔女シビルというのがマクシムに理解出来た。


「ズボ!ズボ!」

「ズボ!ズボ!ズボ!」

「ズボ!ズボ!ズボ!」


 しっかりと海水を含んだ泥炭、足がめり込んだ。


「うひゃ~ズボンが!! これは堪らん! 板を落としてくれないか、足場板に使うよ。」


「船長~~~! すまな~~い!!」

「バシャン!」 

「ぎゃ~!!!」

「バッきゃろう~、なにすんだい、……」

「先に謝っただろう? な!!」


 落とされた板が泥水を弾きボブの顔にしこたまぶっかかった。ボブはブスブス言いながらも、四方から木切れを集めて足場を作ってくれた。


「すまないな、ブスくれ船長。」


 シビルは人足を使い、ロープを投げては船を引き寄せている。大きくてとても重い船だから動いているようには見えない。


 マクシムとボブはハンザ商館へ向かった。途中の家は跡形のみか!!


 ハンザ商館は煉瓦造りであったからか、残っていた。


「この惨激は本当に、惨劇だな。」


 意味不明なことを言うボブ。


 マクシムは、


「中も無事ならばいいのですが……。」


「マクシムさん、今日のライ麦は倍掛けかい?」

「一番乗りだろう、三倍におまけしておこうか!」


 にやけているマクシムの顔があった。


「ボブ船長、人足と一緒に炊き出しをしてくれないか。少しは恩を返したいからね。」

「あぁいいぜ、任せてくれよ。しっかりと美味い麦粥を作ってやるさ!」

「女たちがだろう?」

「まぁそうなるわな。俺は船に戻って屋外の設営と、かまどを作るよ。」


「俺はハンザ商館に居るからな。なにか用件がある時は……。」

「おう! すぐに出向くよ。」


 最初の災害時の炊き出しは石***軍団だったらしい。ならばと魔女軍団の炊き出しを考えたボブ。


「シビル金儲けだ、手伝え。魔女軍団を借りるぜ!」

「ボブ?? ……いいぜ、半分こでどうだ!」

「?……まぁ、いいだろう。」

「なにをすればいい!」


「俺は薪を集めてかまどを作るから、シビルは鍋と塩と皿とお玉を持ってきてくれ。麦も人足に下ろさせてくれ。」


「あいよ、すぐに用意させる。………場所はどこだ?」

「あの、道みたいな道の先だ。あそこなら薪になる家がまだ残っていたぞ。」

「お前、いい死に方はしないだろうよ。」

「ふん、大きなお世話だ、お互い様か?!」

「べーー、ぼ~~~、ぶ~~~!」


 ボブとシビルによる臨時の炊き出しが出来上がった。


「麦粥だよ~美味しいよ~。」

「下さい。」

「おう銅貨一枚な!」

「へっ!」

「一枚だ、出せ!」

「ほっ?」

「帰れ!」

「は!」


 ボブの炊き出しを食べた人間はみな下痢をしてしまう。


「川の水は不味かったかな。」

「そりゃぁ不味いだろう。ここの連中を殺す気か?」


「これからは銅貨二枚だ、ビールを使って麦粥を作れ!」


 シビルは船から肉とビールを下してきて屋外パブを作った。金持ちは全員シビルのパブに集まった。


「うふ~ん儲け、もうけ!」


 船の食事は、乾パンとビールだったらしい。乾パンのルーツがここにある。ライ麦パンを二度焼きにしてカビないように堅く焼いていました。乾燥させた保存食です。ビールに浸けて食べていました。


 後日この事実を知ったマクシムは、


「ボブ、ライ麦の代金、金貨三枚だ、払え!」

「は!」

「さんまいだ!」

「あんまりだ!」

「イヤなら、今後は無料で炊き出しをしろ、いいな!」


「……分かったよ。                 チィ!」


「んん?? なにか言ったか?」

「いいや、な~ンも……。」




*)マクシムとハンザ商館



 マクシムとハンザ商館の館長は、


「館長! ご無事でしたか~。それはよろしゅうございました。」

(きゃ! マムシ!! よりによってこんな奴が……)

「あぁ無事で良かったよ、この港の住人は殆どが海に攫われてしまってな、ここも開店休業さ!」


「でも今からは開店になりますよ、ライ麦六万五千袋をお持ちしました。」

「おうおう、おう!! それは素晴らしい、いつもの金額の二倍を出そう! どうだ、十分だろう。」


「いいえ四倍でしょうか。しばらくは何処からもライ麦は届きません。なぜならばヴァイキングが幅を利かせていますので、こぞって船を襲撃しますでしょう。ここの水害はもう東には知れ渡っておりますよ。ね?」


「あぁ、だろうな。あの海賊には頭が痛いよ。誰か退治してくれないかな。」

「ハンザ同盟が軍艦を持てばよろしいでしょう。」

「そうなんだが持つにはまだ百年は先になるだろう。今欲しいのに残念だよ。」


(1362年ハンザ同盟は、協力する国やドイツ騎士団らの五か国と同盟を結び対デンマーク戦を始める。1244年頃のデンマークは国力が落ちていた。この国を立て直したのが、ヴァルデマーⅣ世(復興王)である。急激に力を振るって近隣諸国を侵攻した為に、特にゴットランド島を侵攻して目の上こぶとなりハンザ同盟の敵となった。)


「デンマークは国益の為の海賊です、デンマークを滅ぼす勢いで掛からないといけません。ですから当分は無理ですね。」


「ポーランドのトチェフ村に、オレグという男が居ますがご存じでしょうか? 貴奴ならば、もしかしてデンマーク国すらくらってしまう、力を持っていますよ。今はブランデンブルグにちょっかいを掛けてオットーⅢ世と張り合っているそうです。」


「あぁ、あの男よの。危害神といううわさも? ちらほら耳にしている。強いのか?」

「はい、気概に溢れる男でございます。神ではありませんが、敵対しましたら本当に危害を受けてしまいます。」

「本当か! 危害に満ちた気概を持っているのだな!」


「はい、ここに来る途中、漏れなく海賊の襲撃がついてきましたが、オレグの建造船はその海賊を撃破いたしまして、なおも船を四艘程も残して敵に温情すら掛ける子分でございます。今回はその建造船を借りて来ましたのでいの一番に着いた次第です。」


「だからライ麦は四倍だと?」

「はい、さようでございます。無理ならばさらに西へ行きまして、フランスに卸してもよろしいですよ?」


「ふん、バカなこと言うわい。西にいっても少ししか売値は上がらんだろう。」


「では三倍で!」

「おう負けたわ、二,五倍で頼む!」


「承知いたしました。積み荷はここに?」

「俺の倉庫に移してくれ。荷車は無いからよろしくな!」」


「えぇ!! そんな~!」

「金の相談は終わっただろう、さ、飲みに行くぞ。いい店が出来たんだ。」

「そうですね、私は運びませんからいいでしょう。」


 館長は人足代が掛かるからと以後のマクシムの話には乗らない。


 マクシムは計算を始めた……、しょげるマクシムだった。


「おうマクシムさん、良かったら飲んでいきな!」

「シビル~助けてくれよ、金貨二十枚だ!」


「おう任せな、金貨四十枚で請け負うよ。倉庫までの移送だろう?」

「出来るのか!」

「いや出来ないがやって見せるさ。出来高払いでいいぜ!」


「そうか世話になる。ビールと焼き鳥な!」

「おう直ぐに焼いてやるよ。」


 人足が集めてきたニワトリが順次裸にされて焼かれていく。


「あんた、性格が歪んでないか?」

「おう、良く言われるが、オレグほど歪んではいないと思うが。」


 マクシムとシビルの会話について行けない館長だった。


 翌日、シビルは期待通りにライ麦の移送を始めた。奥の船から順次手渡しで次の船へ送られてくる。


 シビルは、


「道には丸太を敷け! ライ麦はこの小舟に載せろ、いいか帆を張れ!!」

「それ引っ張れ~~~、……」

「ヒュ~~、ひゅ~~~!!」


 シビルと魔女が風を送ると、小舟は百袋のライ麦を載せて瞬時に館長の倉庫に着いた。それも人足らを引きずりながらも……。


 マクシムと館長は、


「こんなのありえな~い……、」


 魔女に小舟を地面に浮かせてシビルが風で送り出す。先に走る男は二人は舵の役割をしていた。見た目、船を引きずるように見えるのだった。


 館長はマクシムへ金貨五千二百枚を支払った。


「口座振り込み……。」

「はい毎度あり~、」「ガシャン! チ~ン!!」


 別途マクシムは一万五千袋を地方有力貴族へ、ライ麦一袋を銀貨一枚で販売していた。しめて金貨一千五百枚になる。


「マクシムさん、残りのライ麦は何処に下ろすね!」

「街の館に運んでくれないか。」

「ガッテン!」


「いや~シビル、金貨五十枚を払うぞ!」


(オレグへは、その分を差し引いて払えばいいさ、同じだもんね。)

 とマクシムの心の悪魔が囁いた。


 ボブは炊き出しで少しの儲けしかなかったからかすこぶる機嫌が悪かった。被災した街だ、買える物は何もなかったからマクシムは空荷で帰る事になる。



 マクシムはアムステルダムの再建に協力してひと儲けをしたいと思ったが、いかんせん本拠地とは遠すぎるしデンマークの海賊もあるから諦める。


「またすぐにライ麦を運んでこよう!」


 十五艘の船団は西風に乗り半分の日程で帰れる……。年が明けた……1245年1月1日になった。ソフィアたちが旅立って二か月が過ぎた。もちろん音信不通が普通だろう、手紙との制度があっただろうか。



「次はデンマークの海賊から荷を奪って寄付をしよう!」


 と誰かが叫んでアムステルダムの街を後にした。



 ソフィアとリリーは十二月二十七日にアムステルダムに到着した。マクシムとは数日違いで会えなかったのだった。



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