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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
102/257

第102部 マクシム編 災難が続く、つづく ……

マクシム編


 1244年12月8日 オランダ・アムステルダム



*)アムステルダム


 アムステルダムは十二世紀の終わりくらいに漁村として村が出来た。百年後には、自由都市になりハンザ同盟の貿易により、大きく発展した。さらに百年後では、そのハンザ同盟を追い越して飛躍していく。


 オランダのアムステルダムは、東欧諸国のフランスの貿易の窓口になる。マクシムはここでライ麦を卸している。まだまだ、小さい地方都市でもあった。


 アムステルダム地方では、1170年11月1日から1287年12月14日の間に少なくとも五回の大洪水を受けている。海面上昇により島々は沈み、嵐や高潮による泥炭地の低地は浸食されて浸水していく。もちろん当時の住民たちは、万単位で亡くなっている。この災害はまだまだ続くのだ。北陸の津波以上の惨劇が続く、つづく、1916年1月までづつく。   


 ここアムステル川にダムを築いた。アムステルダムの名前の由来だ。ゾイデル海で検索されて下さい。


 湿地は内海となりアムステルダム地方は、天然の港を得る事が出来た。北に航路が出来たのだ。領主は陸から海に出る事になった。オランダの衰退とともに貿易がなくなり元の漁業に回帰していく。


 現代の海水面に比較して、中世の十一世紀は海水面が五十cm低かった。オレグの1244年はそれよりも実に百cmほど高くなっている。これが元でヨーロッパ沿岸では洪水が頻発する。この頃は今と比較して温暖だった。オレグのブドウ園が育っていくのも物語上は理解できる。


 ヨーロッパは中世の温暖期であった。日本では多くの村が海に沈んでいることは文献にも紹介されています。


 だから、今の温暖化が中世期ほどになれば五十cmは海面が上昇するのだ。現在の海面は十年ほど前に比べて、二cmほど高くなっています。

*参考までに、気象庁のHPです。安心してクイックされて下さい。http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/a_1/sl_trend/sl_trend.html


 温暖化とは、かような問題をはらんでいます。



 マクシムはフランスへのライ麦をここに卸すのだが、マクシムはオレグへ、


「オレグさま、すみませんが船を大破させてしまいました。臨時に二艘の船をお貸しください、目的地はアムステルダムです。オレグさまは長期のお休みをお願いいたします。」


 という手紙だった。費用等は二枚目に書かれていた。返却期日は来春まで?




 1244年12月9日 ポーランド・グダニスク



*)オレグの新造船の訳が今明かされる


 ボブ船長らはグダニスクの港でマクシムと合流した。


「ボブさんよく来て頂きました、ありがとうございます。」

「なんだい、船ならマクシムさんはたくさん持っているだろう。」


「はい、ですが嵐で三艘を沈めてしまいました。今新しい船を建造しています。ですのでライ麦の納入期日には大きく遅れが出てしまいますから、お願いした訳でございます。」

 (沈没船が一艘増えてるようだが??)と、思いつつも、

「荷物は下ろす必要ないのだろう、このままでいいかい?」

「はい結構です。荷物の数だけは検品させていただきますので、今日は宿でお休みになって下さい。」


 マクシムはボブ船長以下十九人を下船させる。その後にマクシムはある行動をとった。


「今の内にライ麦を百袋を積み増ししてください。」

「親分、そこまで積みましたら、底までになりますぜ。すでに積載オーバーになっていますよ。」

「なに今は干潮ですので船は沈みませんよ。文字通り底まで積んでおきさい。」


 このような積み方が通常なのだろう、だからマクシムの船は沈むのか。何も知らないボブ船長のグダニスクの夜は明ける。


 傭船も含めてマクシムは、十五艘の船団でオランダのアムステルダムへ向けて出発した。


 マクシムは女が十人近く乗船しているのが気になっていた。グダニスクで降りてどこかに行くのとばかり思っていたのだ。


「ボブ船長、あの女たちはグダニスクで下船するのではないのですか?」

「いいや全員がクルーだぜ。可笑しいか?」

「いいえ、でも役割はなんですか?」


「扇風機さ!」

「それは可笑しいです、僕笑っちゃいます!」

「だったら笑って見ていろ、腰抜かすぜ!」

「では出港しますか……。」


 マクシムは大きく手を振って他船へ合図を送る。順次合図が送られて出港していった。じきにマクシムは驚く。逆風にも関わらず帆を上げて進んでいるではないか。


「野郎ども、もっと櫂を漕げ!!」

「親分も座ってください。一人足りませんぜ。」

「うひゃ~俺も漕がないといけないのか!」


 その後、マクシムは腰は抜かさないが、尻を大きく腫らせる結果となった。夜にはボルンホルム島の東海岸で錨を下した。ここはオレグが羊を大量に強奪した島だった。


 翌日はスウェーデンの南端のイースタード沖で停泊する。ここまではすぐに到着した。


 1100年から1300年ころのデンマーク領はとても大きかった。スカンジナビア半島の南半分と、東はエストアニアまで、ドイツの海岸線もデンマーク領であった。しかし家臣の奸計にあいそれらの広い領地は無くなっていくのである。


 でも安心してください。ドイツとエストアニアの間は違います、よ! ポーランドの領地です!!


 夜に停泊した所はもう、デンマーク領なのだ。いつヴァイキングに襲われてもおかしくはない。


 スウェーデンの南端のイースタード沖で停泊したのは、狭いエーレスンド海峡やカテガット海峡を一気に抜けたいからだ。この海峡は陸からでも楽に船が視認出来るのだった。バルト海と北海はこの難所ヴァイキングを抜けるのがとても大変だった。デンマークはヴァイキング業で大きくなったともいえる。 


 なにせ、国営のヴァイキングだったから!



 ボブ船長の事実を知ったマクシムは、ある計画を提案するのだ。


「船長! 私らにもその魔女を貸して頂けませんか?」

「俺もオレグの旦那からの借りものさ、また貸しは出来ないよ。」

「どうしても?」

「あぁ、どうしても、だ!」

「では、この二つの船のロープを貸してください。」

「ロープならいいぜ、貸したるわい。」

「ボブ船長、ありがとう。」


「で、ロープで何をどうする???……あぁ!!!!」



 意味が解らず了承したボブ。マクシムはそれぞれの船を六艘と七艘の船を二つの船団に分けてロープで繋いでしまった。


 唖然としたボブ船長! には、魔女の動力源のビールが大量に贈られた。冬のバルト海は西風が季節風なのだ。冬期で西へ行く方は難儀する。だが、あのヴァイキングは西風に乗り急激に接近する事が出来る。


 マクシムはその日の夜から、エーレスンド海峡とカテガット海峡などの狭い海峡を一気に抜けるつもりでいた。


 マクシムと二人の水先案内人がボブの船に移ってきた。


「ボブ船長、この水先案内人の指示に従って船を進めてくれ。そうすれば楽に海峡を抜ける事が出来るよ。」

「そうだな、夜は風が弱くなるしさ、一晩で抜けれるだろうさ。」


 ボブはこれらの海峡を二~三回ほど通過しただけだった。まだ十五歳の若造の時だ。ただ、必死に櫂を漕がされた覚えだけがある。


 二列の併走船団がとうとうアムステルダムまで続くはめになった。


 カテガット海峡には小さい島が二つある。ここで休みたいのだがヴァイキングに襲われる可能性が大きい。数日は昼は休んで夜に航海を続ける。


 ヴァイキングらは知っている。この時期は西へ向かう船は満載である事を。東へ向かう船は荷物が少ないか空だったりするし、襲撃するには追撃に大きく時間がとられるのだった。下手すれば半日掛けて追いかけても追いつかない時もあるのだから、西へ進む船ばかりを襲撃する。


 ヴァイキングは今のノルウェーの地にも拠点を構えている。狭い海峡を抜けて安心した所で狙う、という作戦だった。


 場所は、スカゲラク海峡だ。



 1244年12月12日 デンマーク・スカゲラク海峡



*)ヴァイキングの襲撃


 ボブ船長の二艘の船に帆を掛けていたのが、ヴァイキングに見つかった。だが帆を上げる船は東へ行く船だからと、最初は放置されていた……が、


「キャプテン、あの船は変ですぜ、西へ向かっています。その船の影にも多数の船が続いているように見えます。」


「ゲ!ゲ!……。」


「野郎ども~、仕事だ、獲物だ~、船を漕げ~??!」


 スカゲラク海峡をふらついていたヴァイキングが、一斉にへさきをマクシムの船団に向けたのだ。


 遠くを視認していた水先案内人は、


「マクシムさん、ヴァイキングが来ます、合図を出して下さい。」

「やっぱり来たか、見逃してはくれないのは、あ~……不幸だ!」


 マクシムは後方に向けて棹の旗を大きく振って見せた。次々に旗が振られていった。


「ボブ船長、ここはロープを切ってバラバラで逃げます。私の指示に従って下さい、よろしいですか?」

「あぁ俺らの船は大丈夫だが、あんたはしっぽを切って逃げるのかい?」


「仕方がありません。クルーは反抗さえしなかったら殺されませんので、数日後に迎えに行っています。」

「建前だけだろう? 俺の経験ではすぐに殺されていたぜ!」

「……。」


「いいぜ、おいロープを切れ! 全力で逃げるぞ!」


「なぁマクシムさん。この難所を乗り切ったら、幾ら出す?」


 頬を赤らめたシビルがマクシムへ詰め寄る。


「いくらなんでも全船が逃げ切れる事は出来ません。」

「あんた、今までこんな無責任な仕事をしていたのかい、オレグが知ったらもうライ麦は卸してくれないよ、俺に任せな。金貨十枚で撃退してやるよ、大船に乗った気で居たまえ!」


「その、この船が一番大きいのですが??」


「ああ、分かったよ。マクシムさんは後続の船に移ってくれ。そして応戦するようにしてくれないか。」

「お、おう……。??」

「ボブ船長、この船に人足と魔女を全員乗せてくれ、出来るだろう?」

「あぁ移動して幅寄せさせるよ。5分待ってくれ。」

「早くしろよ、ヒゲのヴァイキングたちは待ってはくれないよ。」


「船長!! 俺の指示に従って船を進めてくれ。船で体当たりをしてやるよ任せな!!」


 この新造船は、対海賊用に造られていた。シビルは舳に丸太を長く突き出さ

せる。


「いいか上下・左右で四本の丸太を伸ばすんだ、丸太は船に固定しろよ。」

「ガッテンだ!!」

「ビールが飲み放題だぞ、二千九百八十円だがよ?」

「無料にして下さい。シビルさま。」x15


 漕ぎ手と扇風機を搭載した新造船、向かうところヴァイキングの船団の大きい方の十艘だ。


「おらおら、右に進め、漕げ、漕げ、漕げ、魔女、風を送れ、もっとだ!!」


 人足も魔女も汗だくで仕事をする。


 まず一艘目! 轟沈した。二艘目は、船尾を破壊されて沈む。三艘目、舳に当たりヴァイキングの船員は海に投げ出され船は沈む。四・・・・・・・。ヴァイキング・十三艘に挑むが、当然後方の船は左右に分かれて、マクシムの船に向かう。


「ボブ、左に回れ、そして突っ込め!!」

「おう、任せな!」


「これからは俺の出番だ。今に見ていろ~~~。」


 シビルは思いっきりビールを流し込む。と?


「ふゅ~~ぅ、ふゅ~~~~ぅ!冬~~!!」


 とても強い風を起こした。船は大波に揺られて、揺られて・・・ドボン! の連続だった。横風を受ければ弱いものだ。左に回った船は全部沈む。これを見た残りの四艘はケツを振って逃げ出す。


「船長、次は反転だ、すぐに回れ右!」

「おう、任せな! でも遠すぎないか??」


「これで十分だ。」 「ふゅ~~ぅ、ふゅ~~~~ぅ!」


 シビルはヴァイキングの船を揺らすだけだった。 


「船長、船団の後方へ行ってくれ。そして、マクシムには全船帆を上げるように伝えろ!!」

「おう、任せな。」


 白上げて、赤上げて、白下して、赤下げない・・・・・・???


「伝えたぜ、すぐに帆が上がるさ!!」


 帆が上がってからシビルは、


「ふゅ~~ぅ、ふゅ~~~~ぅ!」


 と、14艘全部に風を送った。魔女らも息を切らして送っている。人足らが大変だった。


「船が後退しているぞ、もっと漕げ! もっとだ、まだ後ろに流れているぞ~!」


 シビルが乗る船は風を送るから、後方へと進むのだった。

 

 シビルはすれ違いざまに、


「全船沈没が良かったか?」


 と、ヴァイキングのキャプテンに声を掛ける。


「いいや、四艘もありがとうよ!!」


 と、ヒゲはお礼を言ったのだった。


「もう、俺にはチョッカイを出すんじゃないぞ。」

「へ~~い、クション!!」


 船のクルーは大声を出して喜ぶ。出せないのが魔女らと15人の人足だった。もう動けない程に、……、とにかく、へたっている。


「マクシムさん、金貨十枚ね!!」

「おう次も十枚だ、頼んだぞ!!」


 だからボブ船長の船は航行不能になり、他船から曳航されて進んだ。


「おう特別休暇だ、宴会だ! 肉とビールを持って来い!!」


 曳航される間の臨時の休暇だ、二日で終わった。


 マクシムはオレグの偉大さに改めて気づかされた。


「マクシムさんよ、この船は少し重くないか? 舵のキレがとても悪かったぜ!」

「?? 気のせいでしょう。さ、ボブさんも飲みましょう、舵は必要ないのでしょう……が? 気のせいですよ。」


 シビルはここに居ないオレグにお礼を口にした。


「金貨十枚をありがとうな!」


 マクシムは無傷で海峡を通れたので翌日は再起不能までに飲んでいた。翌日はシビル一人で他の船を後方からの風で進めた。


 スカゲラク海峡を過ぎたら真っ直ぐに南下すれば、オランダ・アムステルダムに到着する。




*)漂流物……


 航海を進めている途中から異常な漂流物と出くわした。船の残骸とは考えられない木材等が多かった。


「ボブ船長、あれはライ麦の袋でしょうか、たくさん浮いていますね。」

「船が沈んだんだろうさ、きっとライ麦を積み過ぎて沈んだんだろう。」


 その言葉を聞いたマクシムはドキッとした。


「ボブ船長、あれは麦の袋でしょうが、他は船の残骸ではありませんよ、きっと港や村の住居の木材です。ここから船速を落として進んで下さい。」


 ゆっくりと進むからついでだと言いながら、ビール樽を拾って進んだ。


「おう、これは冷えていて美味いぞ!!」


 四日をかけて南下した。目指す陸が見え始めた。


「ありゃ~何だ?!!」

「こりゃ~たまげた!!」

「そりゃ~水難だ!!!」



 1244年12月16日 オランダ・アムステルダム

 


*)アムステルダム


 到着……した、オランダのアムステルダムだ。見るも無残な光景が広がっていた。


「なぁこれがアムステルダムなのか? 少し寂れ過ぎてはいないかな。」


「えぇ!! これは水害の跡ですね。大きい嵐が襲っていたのですね……。」    


 港の桟橋はまだ壊れたままでアムステル川が異様に大きくなっていた。


「すげ~、水溜りが出来ている!!」


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