第101部 キルケーの断末魔の叫びだぜ!!
1244年10月30日 ポーランド・ブィドゴシュチュ
*)ブランデンブルクまでの旅
「オレグ、どうするのよ。」
「うん、うみんちゅうではウミヘビを食べて精力をつけるんだ。だからウミヘビのスープにして届けるさ。」
「そうしたらクルシュは元に戻るのね。」
「オット3セイも正常に戻るだろう?」
「………イ……ヤ……ダ……ヨ……」
「リリー、キルケーのしっぽの先を切ってもいいかな、一cmのお肉でも効果はでるだろう。」
「ギャーイヤー!!!!」
「お兄さま、大丈夫ですよ。すぐに三本目が生えてまいります。」
「するとこいつは昔に一度切られた?」
「いいえ捨てられたのでしょうか、誰かとは申せませんが、ね!」
「じゃぁもう片方のしっぽも切ったら面白いだろう。きっとオットーⅢ世に繋がっていたりして。」
「そうですわね、序でに先端を五つに切り分ければ指になりますわ。」
「いよいよ蛇足が出来上がる?」
「ぎゃ~~~!!」
キルケーの悲鳴はブィドゴシュチュの街中に響き渡った。
「断末魔の叫びだぜ、これはいい、最高だ!!」
「もうお許し下さい、今後は貴殿らには指一本も手出しは致しません。」
「では遠慮なく手出しが出来ないように、指も戴く!!」
「ぎゃ~~~!!」「ぎゃ~~~!!」
「許して~~~!!!」「くださ~~~~い!!」
ブィドゴシュチュの動物たちが人間の姿に戻り解放された。
翌日になりへステアが帰ってきてクルシュが応談するからと吉報を持ってきた。会ってみたら色んなところの記憶が抜けていると言う。
クルシュとソフィアが対峙した。注目の一番”と総員で見守る。
結果は、
スカートチェィサーと化したクルシュが、フーガのソフィアを追いかけた。
「ミニスカのお姉~ちゃん待ってくれ~!!」
排気量の違いでフーガの方が早かった。
「私、実家へ帰らせて頂きます!!」
と、怒るへステアの姉。
グルジョンツのライ麦が十五万袋確保できた。
「船がない、リリーお願いできるか。過去最高の重量になるぜ。」
「大丈夫です、ゾフィも一緒に境界に押し込みます。」
「ではゾフィ、よろしくな!」
「ふん、てやんで~~!」
明日からのライ麦の運搬の為にドイツ騎士団を眠らせる必要がある。
「またシビルにお願いするか。リリーまた召喚してくれ。」
「我はシビルをここに召喚する。ビール樽に落ちたまえ~!}
「オレグ、もう最高だぜ、今晩も夢魔法を使うのか?」
「あぁ頼む。ドイツ騎士団さえ無害になればいいよ、お願いしたぞ。」
「任せて、オレグの兄さま!!」
「喜色悪い、よしてくれないか。……リリー頼む。」
「ばこ~ん。」
ビール樽がシビルの頭に落ちた。もちろんソフィアとリリーが空にした樽が!
ドイツ騎士団の妨害もなくグルジョンツの各地からライ麦の十五万袋が無事に集められた。
「オレグさん、どうやって三日間でライ麦の十五万袋を集めたのです?」
「やれば出来る。……秘密さ。」
ルブシュ地方の城塞経由でブランデンブルクまでの旅が再度始まった。
ソフィア、リリー、ゾフィ、マティルダ、シーンプ、ギーシャとへステアの夫婦が、四個の木箱と金貨一千五百枚を持って旅に出る。反物を仕舞った四個の木箱はリリーの境界に仕舞ってある。
ブィドゴシュチュでも、トチェフでも、ライ麦輸送に汗だくになり働くオレグの姿が見られた。
トチェフでは両岸にたくさんのライ麦が積まれている。
「ボブ船長、マルボルクのライ麦から運んでくれないか。不用心だから俺は休まれないよ。」
夜はネズミを追いかける、本当に不寝みの番になった。
1244年11月1日 ポーランド・トチェフ
*)ライ麦の輸出
「ここは簡素にいいだろう。」
オレグはライ麦の集計をした。
ブィドゴシュチュは 150,000袋。
マルボルクはライ麦は 90,000袋。
トチェフはライ麦は 50,000袋。
グルジョンツはライ麦は 150,000袋。
合計で、 440,000袋。になった。
マクシムが「えぇ~~! 四十万!」と言っていたのを思い出す。マルボルクの九万袋が少ない。(戦争に向けて地下に隠したんだろう。)と思った。
「おう兄ちゃん。三千袋が限度だぜ。四千袋も積んだら座礁して沈没するぜ。」
「それは昔に聞いたよ。今回からはボブ船長の船は、四千袋な。新造船は五千袋を積んでくれ。」
「そんなに積んだら座礁するよ。」
「だが、沈没はしないよな。」
「まぁそうだが。ここは川だぜ、深みは少ないのだよ。もう水嵩は低くなるしさ。」
「ジェット式に出来る魔女が居るだろう。上手に使ってくれよ。出来るだろう?」
オレグは既に対策を講じていた。
「ここの港は浚渫済さ。麦を積み上げても底には着かないよ。」
「いつの間に工事したんだい?」
「ついさっきだ。魔女を使って川に亀裂を入れさせたのさ。」
「すげ~な兄ちゃんはよう。」
グルジョンツのライ麦十五万袋は既にグダニスクへ届けている。
「ボブ船長。船賃は金貨六十枚だ。よろしくな。」
「兄ちゃん少ないよ。もっと払いな。」
「払ってもいいが、魔女の代金と人足の農奴の雇用料は差し引くぜ。なに三十三日の辛抱だ。頑張れ。」
「あぁ??」
「おっと忘れていたよ。ボブ二号らの給金は俺持ちだからさ、十分だろう?」
「それならいいぜ兄ちゃん、来春も頼むな!」
「それでもいいが、春は50万袋だぜ、運べるのかよ。」
「うひゃ~出来ないが、やって見せるぜ!」
ポーランドのライ麦は、ここグダニスクに八十%が集まるようになる。これは三百年、四百年といった後世になるが……。適当に選んだ都市だったが的に当たったような感じがする。本日知りました。
1244年12月1日 ポーランド・ブィドゴシュチュ
*)マクシムからのSOS
オレグはトチェフからのライ麦の輸送が終わってブィドゴシュチュに戻る。
「ボブ船長、もうすぐライ麦のグダニスクへの輸出は終わるが、どうだいまだ働けるかい。トチェフからブィドゴシュチュまで麦粉と肉類を運んで欲しいのだよ。」
「あれを見ろよ。あの魔女たち次第だね。もう俺らはへたっているぜ。」
寒い冬だというのに魔女たちはくたびれて船から降りた埠頭で横たわっていた。連日の風送りでふうふう言っている。
「なぁ兄ちゃん。あれを見ても仕事をさせる気かい? いいやね俺はタフだからさ、一向に構わないさ、だがな???」
「そうか~?」
「そうでさオレグの旦那。俺らも働き過ぎで疲れていますよ。」
「そうか~?」
「で、ですぜ。港のロープがすり減っちまってさ、切れそうなんだ。張替えをしたいのだよ。な? 交換をさせろや。」
「だったら二日だ、二日で交換しろ。その間は休みにしよう。」
「おう、そうだった。兄ちゃんに手紙だ、読んでくれ。」
「あぁ後で読んでおくよ。今日はもういいから休んでくれ。」
港の人足と倉庫の者が休暇をもらった。
グダニスクのマクシムからブィドゴシュチュのオレグへ書簡が渡された。
内容を読んだオレグは翌日の朝ボブ船長を呼んだ。
「すまないボブ船長、派遣の仕事が入った、傭船としてボブらを借りたいそうだ、マクシムの依頼だからさ、断れないよ。」
「明日から?」
「そう。」
「絶対に?」
「そう。」
「嫌だよ、陸で寝たいよ。」
「だ~め!」
「デンマークを回ってオランダまでだそうだ。な、行くだろう? どうせすぐに俺の仕事も無くなるしさ。」
「積み残しはどうすんだい。」
「倉庫に保管する。というか非常食に保管だな。ギルドにも流さないといけないしさ、ちょうどいいよ。」
「分かったよ、行くよ……。」
延べ一日しか休めなかったクルーたち。追い打ちを掛けるように急ぎで船積をさせた。皆はブーブーと言う。クルーは総員で二十名になる大所帯だ。
「ほら肉とビールもたくさん積んでいけ。その方が俺も儲かるからよ。」
「ごっぁんです。」
「おうトチェフまで乗せていけ。」
別れ際に、
「ボブ船長、デンマークのヴァイキングには気をつけろよ~~!!」
「おう~さ、任せな~。」
1244年12月3日 ポーランド・トチェフ
トチェフに戻ったオレグは、倉庫に行き在庫の確認を行った。麦粉の製造に回す麦を倉庫番の夫婦に指示した。オレグはバタバタしてシーンプに器を売るのを忘れていた。
「三階に沢山の器が在ると思ったら忘れていたぜ!」
パブで夕食を済ませて独り静かに自宅で横たわる。
「あ~とても静かで平和だ~!!」
ソフィアたちが旅に出て一か月が過ぎた。オレグは七人の無事を祈る。オレグは秋の収穫祭の夢を見る。
「グラマリナさんは良く働くな~。」
オレグは久しぶりの惰眠をむさぼるも、ドアをノックする音で目を覚ます。
「コン、コン、コン。」
「オレグさ~ん起きてくださ~い、グラマリナさまからの伝言で~す。」
「うるさいな~もう静かにしてくれないか。」
「はい、おはようございます、もうお昼ですよ、起きて下さい。」
「起きたが何か?……エルザ。」
「グラマリナさまが、そのう、収穫祭を忘れたので明日から始めると!!」
「え?!?!、そんな~……。」
「?………?」
「迷惑です………。」
と一言。翌日はグラマリアに押し切られて収穫祭を仕切る。オレグはトチェフへ来た目的を忘れてしまい、無駄な時間を過ごしていた。
*)カブの生産強化
酪農のレオンのレオンを訪ねた。
「レオン、もう放牧は終わりか。」
「あぁ旦那! もう終わろうかと考えていたところです。なにか?」
「跡地にはカブの種をたくさん蒔いてくれないか。」
「はい順次引き上げさせた所か播種いたしております。」
「それは良かった。……でだ、明日の収穫祭には牛二頭、豚五頭をまた祭りに出してくれないか。村人も増えた事だし例年通りでは少ないだろう。」
「おやおや旦那。旦那がケチって逃がした牛を元に戻しているのでしょうが、違いますか?」
「違うよ、でも、レオンがそう言うのなら……そうなのだろう。」
「では、あっしらも祭りに参加してよろしいでしょうか?」
「牛一頭だけだぞ、二頭はダメだ。」
「ほらほらそう言ってケチるのですよ、旦那はもう~。」
「そうか~? 経営者なら普通だろう。」
「では老馬がいますが、こいつはどうしますか?」
「あぁ絞めていい。料理して馬刺しで出せ。」
「は~い旦那。喜んで~。」
オレグは女たちに命じて森の近くにもカブの種を蒔かせる。レオンにはカブの種子を三倍に増産するように命じた。
「旦那、どこに蒔いておきますか?」
「畑じゃないビスワ川の土手がいい。川下りのいい目の保養になるだろう。春からは筏も多数流れていくからね。」
翌日は収穫祭が行われて大いに賑わった。
「リリー元気か。」
オレグはバラの花壇の花に話し掛けながら肥料を梳き込んで敷き藁を置いていった。
「ビールも掛けてやるか……どうだ、美味いだろう。」
最後にバラの花が微笑んだ気がした。
*)トチェフ村から街への道筋
トチェフ村のメインストリートが完全石畳になった。オレグは道沿いにお店を建てる計画を考える。
トチェフの産業は織物の街に仕上げたい。ならば生地・布の店と服の店になろう。だがトチェフには貨幣制度が浸透してはいない。
「そうか、貨幣の導入を急ぐ必要があるな。領主さまと相談するか。」
まぁ簡単でもあるが、農奴が年二回の収入で計画的出費が出来るか! に、つきるだろう。オレグが村のライ麦や野菜を全量買い上げれば済む話だ。
「個人所有の土地が必要になるな。農地に通じる道路も建設する必要が出てきたぞ!」
個人間での野菜などの売買も必要になるから、個人の所有できる土地が必要なのだ。
オレグは長期ビジョン、村の俯瞰図を描いてみた。
「ドイツ騎士団の侵攻に備えて造った水路が邪魔だな。橋を架ける必要も出て来たぞ。」
「個人の店は野菜屋、ライ麦・麦粉屋、パン屋、靴屋、服屋、農具屋、肉屋、は最低限になるか。」
地面に描いた絵図だ、棒切れで突いて建物を書き込んでいる。
オレグは建築のジグムントに現在建設中の長屋について検討を始めた。
「ジグムント、今建設の長屋を二軒を一軒に出来ないか。または二軒単位で建設とかも出来ないだろうか。」
「旦那、また何か考えてありますね。あっしも建設には慣れてきましたのでもう自由に造れますぜ。」
「二軒にするのは、店と住居を一緒に、という意味なんだ。ようは、店舗付住宅だな。店は並んでいた方が買う側としては楽だろう。」
「そりゃそうですよ。では造りますか?」
「ただし、パン屋と風呂屋は一緒がいいな。親子で経営させればいいか!」
「これは単独にすると、いう意味でしょうか。」
「はいな、火を扱うんだ、火事には注意が必要だろう?」
「はい燃えた時のためですね。長屋は火を出したら全部燃えますものね。」
このような事をグラマリナに提案する。
オレグは館に行き、グラマリナと会談を始めた。
「グラマリナさま、トチェフ村の建設についての提案がございます。」
オレグは先の事案を懇々と説明した。グラマリナはねちっこいオレグだな、と思いながらもしっかりと意見を聞いた。そして自分の意見を述べる。
「オレグ、お店は単独の建設になさい。そう、通りが店で裏が住宅がいいわ。軒は連ねずにですね、少し間隔を空けた方がいいわ。」
「では館の周りから建設を始めますか?」
「そうね館から港と、館から街道までの二本の道路に造りましょうか。」
これらの提案はすぐに了承された。オレグにはパブの二号店の建設も命じられた。
「ビールやワクスのお店をお願いね。」
「はい喜んで~。」
次の重たい議題の貨幣の導入だが、
「グラマリナさま、これらの店舗が出来上がりましたら、お願いしたい事項がございます。トチェフでも貨幣制度を導入したいのです。」
「えぇ、それは避けて通れません問題ですね、東の国のようにペルシシャの通貨で代用いたしますか? それともドイツの通貨を使いますか?」
「はい、ペルシャとは繋がりはありませんからドイツの通貨ですね。それには通貨を購入する必要がございます。」
「そうですわね、より小さい通貨がたくさん必要になりますし、集めるのも苦労するでしょうね。」
「グダニスクが一番都合が良いのですが、まだ発展の途上ですのでもう暫く掛かります。」
「オレグ。でも……一度に貨幣を購入する必要は無いでしょう。村の麻の反物や服を売って集めたらいいでしょう。」
「では、あの夫妻をグダニスクへ?」
「そういたしましょう。オレグのグダニスクの倉庫を半分貸して下さい。」
オレグにしたら殆ど利用しない倉庫だ。店子が入れば家賃が入るから御の字でもあった。グダニスクはオレグが立ち寄ってから随分と大きく発展してきた。もう店での販売は可能と判断した。
「半分と言わず全部お使い下さい。来季の更新はグラマリナさまでお願いします。私は商品を卸しますし、販売のお手伝いも致します。」
「そうですね、でも更新までの家賃は払いませんわよ、よろしくて?」
「はい、その代りに倉庫の農機具類は販売して下さいね。」
「もちろんですわ、トチェフからの輸送はソワレと農民を使いましょうか。」
「そうですね、ソワレは経験者ですのでマネジメントをさせましょう。」
「でしたら村のパブは私が経営いたします。オレグ、私用に造って下さい。」
「はい、喜んで……。」
「オレグ、男は十五歳、女は十四歳の二人を探して来なさい。」
「いいえ、これはデーヴィッドの方が適任でございます。」
グラマリナ主導で貨幣の購入が始まった。館には若い二人の従者が採用される。
「エルザ、もはやイヤとは言わせません。行きなさい!!!」
「はい、お別れするのは辛いですが、行ってまいります。」
「デーヴィッド、エルザと子供とグダニスク勤務を命じます。行きなさい。」
「はい、謹んでお受けいたします。」
デーヴィッドはグダニスクに集まる色んな物をトチェフへもたらした。こういう点ではデーヴィッドは優秀だった。オレグの二代目の芽が育ち始める。
作者はユダヤ人のデーヴィッドを、どうやって子分にしたらよいか悩んでいたのだ。この事が無かったらデーヴィッドはあのまま館勤務で終わっていた。
出発の当日になりグラマリナは、
「いいですかデーヴィッド。貨幣を集めてくるのですよ、出来るだけ銅貨や大銅貨をです。銀貨・金貨はあまり必要ではありませんよ。」
「はい承知いたしました。たくさんの貨幣を集めてまいります。」
ボブ船長が居ないから荷馬車でグダニスクへ行く事になっている。ソワレも同行する。もちろんオレグも同行した。
「麻の反物と服が一番高価になるのかも知れない。パンや木のお皿やビールも持って行こうか。」
「はい、デーヴィッド。」
エルザのみが返事した。
次の日には、農夫らによるライ麦や麦粉が積まれた荷馬車が三台出発していた。エレナが責任者だった。
*)グダニスク
「おう、ここだ、ここだよ俺の倉庫だ。」
オレグは懐かしい倉庫の鍵を開けて中に入る。そして驚いた。
「ギャー!!」
「?……?」
「な、な、ない。俺の荷物が何も無い!!」
思わず大声で叫んだが、……?…・・。
「そうだった、ここの農具は全部トチェフとマルボルグへ売ったんだった、でへ、でへ、でででで。」
「オレグさん驚かさないでください。心臓に悪いです。」
「デーヴィッドの心臓は、毛が生えているだろう、違うか?」
「私ではありません、家族がです。」
「そっか……。」
「でも可笑しいな。まだ少しは農具は在ってもいいはずだぜ?」
「二階が家になる。家財は自由に使ってくれ。」
「オレグさん、何も在りませんが?」
「あは。ぁはははぁ~。そうだった、全部俺の家に運んだのだった~。」
「これは、家具職人のヘンリクらも呼んで棚を作らせたが良いな。」
「明日から頑張るにゃん。今日はパブに行こう!」
デーヴィッドは、
「オレグさん、何かありますよ。……この紙には……家賃の催促です。」
「あっ、今年の更新を忘れていたか!」
すぐに一人の老人が現れた。
「あら、そこにもう、居るじゃないか。」
「おう随分な挨拶じゃのう、ほれ! ほれ、……金貨八枚と延滞金の金貨二枚ね。……早く出せ!」
「とほほほ~、」
爺さんも他の者もお腹を抱えて笑うのだった。さらに爺さんは、
「ほれほれ、行くぞ。」
「どこに!」
「ワシの家に決まっているじゃろ、パブへ行くのじゃ。」
「お爺ちゃん、お世話になります。」
「お~っほっほっほ~、いいぞ、何ぼでもご馳走してやるわい。な~オレグさんよ。」
「ちぇ、爺さんが農具を売っぱらったんだな、金貨を返せ!」
「延滞金じゃ、倉庫を開けて泥棒に持たせてもよかったかい?」
どれほどの荷物を残していたか覚えていない。ただ売れる物しか持って出てはいないはず、とオレグは考えた。
「ま、いいだろう。じいさんには媚を売っておこう。」
デーヴィッド商会という看板を掲げる。小売りと卸売の店が誕生した。
「おらおらライ麦と麦粉が届いたぞ、はよう運ばんかい。」
デーヴィッドの怒号が飛ぶ。水を得た魚に化けた瞬間だ! オレグはそんな楽しそうなデーヴィッドを見て喜んだ。
「オレグさん、私はオレグさんに言ったのですが?」
「へっ、ほっ、はっ!?」
オレグはトチェフに戻ったその足で館に行き、グラマリナと会談を始めた。オレグが肌で感じた事を話そうと考えたからである。倉庫には少しばかり置き土産をしてきた。これはデーヴィッドが行き詰った時の為にである。麦粉の袋に売り先を書いてきたのだ。
それはさておき、オレグはこの先、殆ど直近になるだろうと思われる事案をグラマリナに話そうと、館に来たのだった。
「グラマリナさま、デーヴィッドさんが大きく成長出来ればよろしいですね。」
「はい、そうですね。ただデーヴィッドは指示待ちのクセがあります。その思考回路が直ればいいのですがとても気がかりです。」
「はい私もそれは危惧しております。エルザも居ますから先は長いでしょうが、末永く見守りませんと、ですね。」
「はいそうですね、無事に貨幣を持ち帰る事が出来ればよろしいのですが。」
「それは大丈夫でしょう。」
「まぁ嬉しい。……事を言ってくれますね。その根拠はなんでしょうか?」
「グラマリナさま、たぶん来年の年明けにはたくさんの食糧の販売を予定しております。デーヴィッド商会でも扱い切れないほどの大量に。」
「まぁ、ま? それは本当ですか? でも、どうしてでしょうか。」
「はい、きっとマクシムは大船団を作ってオランダに向かうはずです。その船員の食糧がきっとデーヴィッド商会に注文が来ると思います。」
「まぁ、それはそれは。とても嬉しいですわ。」
「では、その数万食の金額の打ち合わせを……、」
「はいオレグさん。お安くお願いしますよ。さもないと硬貨の導入が遅れますでしょう。そうしましたら、オレグさんも困るでしょうし。」
「オホホホ……。」
「よしなに、ムフフフ……。」
「一食あたり銅貨二十枚で……。」
「なんのなんの、銅貨十枚になさい。」
オレグにしたら肉もビールも製造する事が出来るのだった。銅貨五枚でも十分に利益がでる予定だったが、銅貨十枚のウハウハものになった。
トチェフの巨大倉庫に戻って、
「臨時雇用を行う。男を五人女を三人雇用する。」と、倉庫の前に掲示した。内容は男は食品の箱詰めで女は黒パンを焼く仕事だった。
「あっ、麦粉を作らせないいけないな。すぐに不足しちまうぞ。」
小僧らも交代制で水車小屋に詰めらせる事としたのだ。
「旦那、箱を作る板がありません。」
「え~い木材の切出しも、製材所にも、採用だ~……。」
「旦那、ビールも空になります。樽も足りません。」
「え~い樽職人も増員だ、…ビール職人も追加だ、追加!!」
「うふふふ……。」
オレグの嬉しい悲鳴を聞いて笑っている人が居る。
「旦那、バイソンと豚、どちらを絞めますか。」
「豚と羊にしろ。バイソンは種にするから却下だ。」
「ニワトリも絞めますね。」
「おう、クリスマスチキンにも絞めるんだ、ちょうどいいや。三千羽でいいだろう。」
「そんなにいません。八十羽が最大です。」
「そうか、ではニワトリも採用しようか。」
「へ! それは出来ません。」
「マルボルクから買ってこい。輸送人員を採用するのだ。解ったか!」
「へ~い。」
「あらあら、うふふふ……。」
ネタ切れなのか、伏線なのか理解出来ない、つまらない第101部。次回からは
ネタの仕入れで更新は長くなります。では仕事に行ってきます。