11話
重力を上げ、訓練し始めて大体三時間くらいが過ぎた。最近休んでばかりだったから、気持ちのいい汗を流せた。
「はぁ、はぁ……ふぅ」
呼吸を整える。
周りを酷い有様だった。木々はなぎ倒され、幾つかのクレーターが出来上がっていた。少しばかりやり過ぎた気もするが……まあ後で魔法で直せばいいか。そこまで魔力を持ってかれないし。せいぜい土の整地をするだけだ。後で適当に肥料でも混ぜておけば木も生えてくるだろう。
そろそろ帰って風呂にでも入ろう。その後で町の探索でもしよう。楽しみだ。
☆★☆★☆★☆★
「ただいまー」
「おかえり」
さて、風呂風呂。
けど先に着替えの準備だ。下着に、半袖半ズボンでいいか。
そういえば防具、というか宵闇シリーズとかのあっちの世界のものってどう洗えばいいんだろう?色落ちしたらどうしよう。黒から白になって隠密効果が無くなるのは嫌だぞ。多分もう二度と手に入らないからな。一応素材は持ってきてるけど…。まぁ念のため【クリーン】で綺麗にしよう。
体を洗い、シャワーを浴びて風呂に浸かる。
「あー…」
やっぱり風呂はいいわー。しかも、一汗かいた後の風呂。身体が癒される気持ちー………。
極楽極楽……………。
☆★☆★☆★☆★
ん………?うん……………?はあっ!
寝てしまった!今何時だ?どれくらい寝ていたんだろう。あー今日はもう町の探索はいいや。のんびり過ごそう。明日もあるし。
なんて考えていたせいか、それとも寝ぼけていたせいか…。事件は起こった。
ガチャと、扉が開く音がした。
「え?兄…貴……?」
「んあ?」
なんと鈴音が入ってきた。
「なんで兄貴がいるの!?」
「そりゃお前入浴中だったからに決まっているだろう」
逆にそれ以外に何かあるだろうか?僕が妹の裸体を拝むために待ち構えていた?するわけがないだろう。誰だその変態は。誰得だ。
いやまあ、鈴音はそりゃ見事なプロポーションしているけども。大きすぎず小さすぎない胸に、すらっとしたお腹。肌も白く、スベスベしてそう。
……僕は変態なのだろうか?
「あ、あー僕はもう出るから入っていいぞ」
そう言い、僕は出ようとするが
「いや、ちょ!待ってお兄ちゃん!見える見える!」
何が?と言おうとしたが……何だろう。クラクラする。何かしらの呪いをもらったか?それとも毒?いや、これは……
「やばい!の、のぼせた…!」
「え!?ちょ、きゃっ!」
足がもつれて転んでしまう。何かにつかまろうとしても何もない。しかも、そのまま鈴音を押し倒す形になってしまいーーー
「わ、わるい鈴音。大丈夫か?」
「あ、あう、えう………」
なんかあうあう言い出した!?す、鈴音が!あのかわいい鈴音がバグった!ど、どうした!?頭でも強く打ったのか!?くそ!すぐに直してやるからな!
「【オメガヒール】!」
鈴音を輝く黄緑色の光が包む。
多少の魔力は気にしない!その程度で鈴音が治るのなら!
「あうあう…み、見え…」
「鈴音ー!」
くそぉぉ!何故だ!?怪我じゃないのか!?か、風邪?
鈴音のおでこに手を当ててみる。あ、熱い!何だこれは!?しかもよく見ると顔が真っ赤じゃないか!ただの風邪じゃない!?
誰だ…誰が鈴音に毒を盛ったあああああぁぁ!?
ちくしょう!とにかく解毒を!いや、呪いか!?
「【ポイズンキュア】【カースオブキュア】」
鈴音を今度は薄水色の光と純白の光が包む。
どうだ!?
「あうあう…」
「うわあああぁぁ!」
駄目だ!僕の解呪スキルは最高レベルだ!
ならば毒か!?解毒の魔法はあまり研究されていない!これ以上強い解毒魔法はない。だが、僕はそんな事もあろうかと解毒用の、それもとてつもなく効くのを作っておいた。本当に良かった。過去の僕ナイス!さすがは僕だ!
「鈴音!飲めるか?解毒のポーション……薬だ!」
「あうあう…」
鈴音の口の中に流し込むが喉が動いていない。口からどんどん流れ落ちていく。何て事だ。だが方法がないわけではない。
僕は躊躇なく解毒のポーションを口に入れ、鈴音の唇に自分のそれを重ねる。そして、無理やり口に流し込む。
「んむううううううう!?」
やっと鈴音があうあう以外の言葉を発した。良かった、少しは聞いたんだろう。これでどうにもならなかったら、どうしようかと思っていたところだ。けど結果は良好。このまま治ってほしいが……。さて、どうなる……。
「うううう………(カクッ)」
「っ!す、鈴音!?」
急に気絶してしまった。
ま、まさか!?アナフィラシキー・ショックか!?そんな嘘だろ!?
何て事だ!僕が鈴音にとどめを刺してしまったのか?何てやつだ。ここまで僕の行動を読み、このポーションの性質を知っているものなんているはずがない。分からない。いったい誰が……
「さっきから五月蝿いわよ。いったい何を……何をしているの?」
「か、母さん!鈴音が…鈴音がぁ!」
「鈴音がどうしたのよ」
「あうあう言い出して、解毒のポーションを飲ませたら気絶してしまったんだ!どうしたらいいんだ…」
「あうあう言い出した理由は見た感じ予想できるけど……。ちなみにどうやってポーション?を飲ませたの?」
「鈴音には悪いけど、口移しで無理やり飲ませたよ」
「……そう」
「どうすればいい!?
「そうね。まず、勘違いしていると思うけど鈴音は風邪や毒を盛られたわけでもなければ、呪いとかでもないわよ」
「じゃ、じゃあいったいどうすれば!?」
「そうね。まず服を着て、それから何も無かったように接しなさい。そうすれば全て上手くいくわ。
もう一度言うけど、これは毒や病気でもなければ、呪いでもないからね」
「わ、わかった」
僕の演技スキルは高レベルだ。問題ない。
だが、鈴音はどうしてこんな事に?……いや、忘れよう。母さんがそう言ってるんだ。おそらく間違いないだろう。
はあぁ。
今日はもう疲れた。部屋に戻ってまた寝よう。