女神様の仰せのままに
ちょっと今回は短めです、申し訳ない。
「人間の進化というものは、時に神の予測を超えるわ。弟は、この世界に神に近い人間を設定しなかったみたいだけれど、それに近い人間、ゼンが生まれたわ。そして、天音と巡り会って別の世界の私を呼び出すことまでできた。」
女神様はゼンと私を見てそう言った。あー、びっくりした。人外認定を受けるところだった。
「弟、貴方はまだまだ学ばなければいけないことが沢山あるの。」
「う、うっせー。俺はもう十分神として」
「沢山、あるの。一から学び直しなさい。学び直しなさい。」
ああ、また女神様が怒って、神様の頬を引っ張って伸ばしている。引っ張りつつ、何かぶつぶつ呟いていると思ったら、急に後ろでドンっと言う大きな音がした。
思わず振り向くと、そこには注射器を持った私の知らない女神様がいらっしゃった。注射器の大きさが半端ない。女神様と同じ大きさなんだけど、あれで何をするんだろうか。その女神様はその大きさの注射器を軽々と肩に担いで、私たちの横を通り過ぎ、神様の部屋へ入っていった。
「妹、よく愚弟を見つけたな。」
「お姉さま。弟が私の言うことを聞いてくれなくて」
「う、うわーーーー!!!姉上様!!何でここに、い、いらっしゃ」
神様の慌て方がうちの女神様を前にした時と段違いに動揺している。しかも、うちの女神様相手には食って掛かってたのに、逃げ腰だ。というか、一目散に逃げたそうだけれど、うちの女神様がそれを許していない。必死になってもがいている神様のおしりに、新しく現れた女神様は持っていた注射器を躊躇なく刺した。
「いっいっでぇぇぇぇ!!!」
ああ、やっぱり?すっごく痛そうですよね。思わず耳を塞いで目をそらしてしまった。そんな私にゼンは寄り添いながら、私が目を背けた光景を見ていたらしい。
「ああ、なるほど。あれは、ああいう風に使うものなのですね。終わりましたよ、天音。もう目を開けても大丈夫です。」
ゼンはそう言って私の耳を塞いでいた手を外させた。あれ?神様がいない。女神様と、注射器を持った女神様だけだ。注射器を見てみると、さっきまで中は空だったのに、今は神気に満ちている。
「あれで、神の神気を吸い取ったようです。そして、神は今あそこに。」
そう言ってゼンの指す場所を見てみると、うちの女神様が何か小さいものをつまんでいる。あれが神様!?つまんでいた小さい神様を注射器を持った女神様に渡すと、注射器と交換した。
「では、お姉さま、よろしくお願いいたします。」
「任せておけ。わたしが責任を持って教育し直すとしよう。」
そう言うと、お姉さまと呼ばれた女神様は光の粒となって消えた。元の世界に帰られたようだ。女神様はそれを見送ると、私たちの方へ向き直った。
「弟がごめんなさい。あの子、創造する力は有り余っているのだけれど、座学が駄目で。嫌になって飛び出してしまったの。まさか、小さいとはいえ、自分一人で世界を作っているとは思わなかったわ。」
そう言うと、注射器から神気を少し取り出し、神様の部屋に振りまくとドアを閉めてこちらに戻ってきた。
「私は今から弟の代理の神としてこの世界を調整していくわ。弟はお姉さまがきちんと躾け直してくださるから、まともな神になって戻ってくるはずよ。安心してちょうだい。」
「あの、神様は神気を吸い取られて大丈夫なんですか?」
「うふふ。天音は優しい子ね。これは今まで弟が作って溜めてきた神気。弟は、また新たに神気を作ることになるから問題ないわ。」
「それで、大人だった姿が子供になり、あんなに小さくなってしまったのですか。」
女神様の言葉を聞いたゼンがそう言った。私は見ていなかったけど、子供の姿になっちゃったのか。そしてあんな豆粒サイズに。正直小さすぎて、子供になったのなんかわからなかった。女神様のお話によると、神気がたまればまたあのサイズから子供になり、大人になっていくのだという。多分、すっごく時間がかかるんだろうな。
「私が代理の神になっても、弟の神気がないと介入できないところもあるから、お姉さまにはこれを置いていってもらったの。さて、そろそろいいかしら。」
そう言うとさっき閉めたドアを開けた。すると、神様の部屋は『テレビとちゃぶ台だけがある散らかった六畳間』みたいな感じだったのに、『立派な書斎』に早変わりしていた。神様の部屋を女神様仕様に変えたらしい。
女神様は書斎の本棚にある本を何冊かパラパラとめくり、感心したように言った。
「やっぱり弟は才能はあるのよね。なるほど、こういう仕組みにすれば、神に仕える者も伴侶を得ることができたのね。うちの世界の参考になるわ。神に仕えることを選ぶのは、人によって苦しい選択になるから。」
そして、女神様は申し訳なさそうに私を見たけれど、私は首を振って否定した。確かにそういう神官は何人かいたけれど、私は女神様の聖女であったことを後悔はしていない。何より、聖女の力や知識が、今、ゼンの手助けとなっているのだから。
女神様は安心したように微笑むと、私とゼンに帰るように促した。
「天音とゼンは、私を呼び出したことで疲れているし、私が二人が作った空間にお姉さまを呼び出してしまったから、余計に負担がかかってしまっているわ。ごめんなさいね。次回からはこちらの、私の書斎でお話ししましょう。面会場所を作る力がいらない分、もっと長くいられると思うわ。」
女神様が手を振ると、私たちは急に眠くなった。これは、体へ戻る合図だ。
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「おはようございます、天音。」
「・・・・・・・・・・おはよう、ございます・・・・ゼン。」
眩しい、起きたらゼンが優しく微笑んでいた。・・・はっ!寝起きの顔、見られた。慌てて顔を隠すも、もう遅いよね。でも、なるべくゼンの方を見ないように、ベッドから這い出し、ドアへダッシュする。
「お、お邪魔しましたーーーー!!!」
部屋に帰って鏡を見ると、髪の毛は跳ねてるし、顔は真っ赤だし、よだれ・・・は付いてないみたいだけど、決して好きな人に見せる顔じゃないと思う。
身支度を整えて、ふと気が付いた。あれ?女神様に会いに行くのに、毎回ゼンと一緒に寝なきゃいけないんだろうか。女神様に聞くの忘れちゃった!!
お姉さまと呼ばれた女神様は超スパルタな女神様です。
天音が考えていた『隣の国の女王様な女神様』より、もっと完璧に躾け直してくれるでしょう。