女神様とお話ししたいかぁ!
ちょっと軽く考えすぎていた。少し修行すれば私とゼンならすぐに女神様とお話しできるとか、甘かった。神殿での修行もするようになってから、3ヶ月たった。彼女が帰ってしまうまであと2ヶ月しかない。帰る時には、セルドニー王国へ戻ってこられると安心して帰ってほしいのに。女神様とお話ができれば終わりじゃない。そこから、まだすることがいっぱいあるんだ。
「ゼン、やっぱり修行方法が駄目なんでしょうか。」
「天音の考えは間違っていないと思うのです。わたくしも自分の神官としての力が確実に上がっているのがわかります。」
「そうですよねぇ。」
うん、力の増幅は確かに感じるんだよね。悩んでいると、ゼンがさらりと言った。
「今日は二人で一緒に寝てみましょうか。」
「そうです・・・ええ!?そ、それは」
危うく、そうですね、なんて賛成してしまう所だった。でもゼンは私が焦っているのに気付かず、真剣な顔で言った。
「試したことはないでしょう?二人で力を合わせるのですから、眠る時も二人一緒のベッドで寝た方がいいと思」
「いやいやいやいやいやいや!!この国は違いますけど、あちらの世界では神職に就く者は独り身であることが条件だったんですよ。ですから、あちらの世界の女神様とお話しするには、清く正しい心と体がですね、必要ではないかと・・必要です!!」
ここはきちんと断言しなくちゃ。い、い、一緒のベッドドドとかそんな、だ、駄目なのだだと。
「わたくしたちは、清く正しいお付き合いをしてますよね?それに、呼びかけるのはこちらの国なのです。夫婦まではいかなくとも、恋人同士、仲睦まじくいた方が、神力が高まると思いますよ。」
う・・・。そう言われると、ゼンの考えも間違いじゃない気がする。でもなあ、うーん。私はお付き合いというのは初めてなのだけれど、あれは『清く正しいお付き合い』に入るんだろうか。最近は修行以外でも、ベタベタとくっついているし(嬉しいので断れない)、何かを食べるときの『あーん』はほぼ毎回だ(恥ずかしいけど、ゼンがすごく嬉しそうなので断れない)。それに・・とゼンとの毎日を思い出していると、ゼンが続けて言った。
「試せることは、全てやってみるのでしょう?」
「・・・そうですね。」
うん、恥ずかしがってる場合じゃないんだ。時間がないんだし。それに、一緒に横になるだけだ。ただそれだけだ、うん。
私は真っ赤になりながらその夜、ゼンの部屋にお邪魔した。
「女神様と、お話したいかぁ!!」
「天音?」
「ダメです、ゼン。そこは、おーーー!!って言わないと。」
「そうなのですか?」
「もう一回行きますよ、女神様とお話ししたいかぁ!!!」
「おお?」
「よし、寝ましょう。」
何だったかって?照れ隠しでしかありません、すみません。
**********
今、私の目の前には、白いパラソルが真ん中に刺してある白いテーブルに、白い椅子が3脚置かれている。
「・・・マジか。」
「天音、ここは?」
まさか、ゼンの言う通り二人で一緒に寝ないと力が合わさらなかったのか。
「ここは、私が聖女だった時に女神様とお話ししていた場所です。」
「では、成功したのですか?」
「恐らく、そうだと思います。女神様とお話ししていた時は、椅子は2脚だったんですが、ゼンもいるからでしょうね、3脚に増えています。」
二人で椅子に座り、しばらく待っていると、目の前のイスに光の粒子が集まり、眩しくて目が開けていられなくなった。そして、その光がおさまると、そこには女神様がいらっしゃった。
「あらあら、やっぱり貴女だったのね。懐かしい気配がするから呼ばれてきたのだけれど、貴女は確か、日本へ転生したのではなかったかしら?私、見送ったのよ?」
知らなかった。女神様、私の異世界転生を見送って下さってたんだ。私は女神様をお呼びすることになった流れを全て話した。日本で生まれ、セルドニー王国へ異世界トリップしたこと。『異世界の乙女』の神託を出したこの世界の神様のこと。身代わりをしてくれてる人のこと。そして、女神様に相談したいのはこの世界の神様の事と、召喚陣の改良なのだと一気に話した。
「まあまあ、#$%‘*&@は大変だったのねえ。」
「え?」
何か、良く聞こえないところがあった。
「あらあら、ごめんなさいね。貴女の今のお名前は何というのかしら?」
「今は、橘天音と申します。もしかして、先程呼ばれたのは私の前世の名前ですか?」
「ええ、そうよ。今生きているのは天音なのだから、前世に引きずられないように、過去の名前を認識できないようになってるの。つい呼んでしまったけれど。」
女神様はにこにこと笑うと、ゼンに目を向けた。
「わたくしは、天音の半身で、ゼンと申します。この世界の神官職に就いております。」
「まあまあ。天音の!!ゼン、天音は私のお気に入り、大切にするのですよ。」
「はい、もちろんです。」
何故か、妙に気恥しい。あれか、両親に彼氏ができました報告に似てるのか。いや、それよりも結婚の許可をもらいに来た、みたいな・・・いやいや、何を考えているんだ。今は、もっと大事なことがあるじゃないか、集中集中。
「天音、私の言っていたことをちゃんと覚えていたのね。貴女と同じくらいの力を持つ者がいれば、違う系列の世界でも、召喚も送還も可能になると。」
「はい。女神様から見て、私たちはその力を持っていると思われますか?」
「ええ。もちろんよ。召喚陣の改良、私も力になるわ。」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます。」
ゼンと二人でお礼を言う。女神様のお力を借りられるなら、絶対に成功させられる。
「うふふ。天音が私を頼ってくれて事、とても嬉しいわ。それに」
それで言葉を区切ると、女神様はにーっこりという感じに笑った。凄みのある笑顔ってこういうのかなと思った。笑顔なのに、心なしか寒いような。
「この世界の神、ねえ。私、なんとなく心当たりがあったりするのよ。」
そう言うと女神様は立ち上がり、私たちに背中を向けると、すっと腕を動かした。大きな四角を描くと、女神様の前に扉が現れ、女神様はためらいもなくそのドアを引く。ドアの向こうに見えたのは、私が以前見たこの世界の神様の部屋だった。
「ウフフ、みーつけた。」
「はあ!?・・・うわぁ!!何で姉がここにいるんだよ!!」
「やっぱり弟だったのね。」
え!?姉?弟!?驚いている間にも二人の会話は続く。
「いきなり消えたと思ったら、こんなところで世界を作っているなんて。」
「ああ。俺一人で作ったんだぜ。すげーだろ!?天才の俺様にはもう、授業なんて必要ねーんだよ。」
「確かに、弟には才能はあるわ。でも、神としての意識が足りないのよ。神は自分たちの作った世界に住むものと協力して、より良い世界を維持させていくことが仕事なの。弟は自分勝手に国の一つを亡ぼそうとしたのでしょう?」
「し、してねーよ。ほっとけば国が亡んだけど、俺はちゃんと人間に教えてやったぜ。そのおかげで、ほら、亡ぶどころか、繁栄する未来に変わったんだ。」
そう言うと、神様はテレビ画面を女神様に見せた。
「そうね、確かに弟が神託を出したおかげでこうなったのかもしれないけれど、弟の思惑とは外れたのでしょう?国が亡ぶところが見たかったと、言っていたわね。」
「何だよ、聞いてたのかよ。別にいいだろ、この世界を作ったのは俺だぞ。守ろうが壊そうが、俺の勝手じゃねえか。」
「あらあら、まあまあまあまあ。そんな神としてあるまじき言葉をはくのはこの口かしら?この口かしら?」
女神様が神様の頬をものすごく引っ張って伸ばす。神様サイズの頬の引っ張りなんだろうか。ありえないくらい伸びている。
「ふぁふぁふあ!ふぃふぃ」
「あらあら、何を言っているのかしら?何を言っているのかしら?」
女神様が超絶怒ってらっしゃる。普段滅多に怒らないけれど、怒ると、同じ言葉を繰り返すのよね。
「弟は学び直さないといけないわね。そうね、姉様の所へ送ろうかしら。」
神様が散々暴れて、やっと女神様の手から逃れたようだ。
「いってーな!!ふん、姉には何もできねーよ。俺がここからいなくなったら、この世界から神が消える。結局この世界が壊れるじゃねーか。」
「困った子ね。本当に気づいていないのね。授業を途中でやめただけはあるわ。いま、私は、この世界にいるの。弟が作った世界に呼ばれたのよ。」
「はあ?神を呼ぶ?そんなことできる奴はこの世界にはいねーはずだ。」
「いるわよ。弟が神託を出した異世界の乙女。彼女は前世で私の聖女だったの。神を呼び出す方法も、神と話す方法も知っていたのよ。」
そう言われると、神様は初めてこちらを見た。
「お前たち、本当に人間、なのか?」
え、私たち人間じゃないの?そんなわけないよね。
ゼンは隙あらば天音とイチャイチャしたい。天音は流されちゃってますね。