表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

私が知ってるゲームの事情、私の知らないこちらの事情。

天音が知らないゼンのお話。

ゼンにこの世界のことを教えてもらったり、読書をしたりして過ごしていたらあっという間に2ヶ月経ってしまった。不思議とこの世界の言葉は読むことも書くこともできるし、話すことも聞くこともできた。


でも明らかに日本語じゃないんだよね。ゼンに漢字や平仮名を書いて見せたけど、なんだかわからなかったらしく、文字だって言ったらびっくりしてた。『天音』が通じたのは、私を形作るものの一部、真名だったかららしい。


とりあえず分かったのは、この国の歴史とか、風習とかがゲームと変わらないこと。時間軸もゲームの付近で合っているようだ。ゲームで知ったゼンの生い立ちも同じようだったけど、お兄さんたちのことを話すゼンは少し嬉しそうで、ゲームとは違うようだ。


ゼンのお兄さんはゲームの中で第二王子だけ出てきた。


『誇り高き王家に生まれながら、神殿の手先になるとは。僕に顔を見せるな、虫唾が走る。』


というセリフ一つだけなのだが、非常に頭にくる奴だった。そう言ってゼンを虐げてきたのかと思うと殺意すら湧いてきたけれど、こちらでは兄弟仲はいいらしい。



**********



「ただいま戻りました、天音。」


そう言ってゼンが部屋に入ってきた。いい香りがすると思ったら、ゼンは白いバラの花束を持っていた。


「おかえりなさい、ゼン。その花は?」

「城の庭に咲いていたのです。天音に似合うと思いまして、兄に許可を得て、いただいてきました。」


すっと花束の中から一輪取り出すと、私の髪に当てる。


「ふふ、やはり、とてもよく似合います。」

「あ、ありがとう、ございます。」


白いバラなんて私には高貴すぎて似合わないと思うのだけど、ゼンの方がよっぽどお似合いだ。でも、ゼンが嬉しそうに微笑むから何も言えない。あれ、でも、城?


「お城、ですか?」

「ええ。今日はそちらに用がありましたので。花瓶に活けさせましょう、少し待っていてください。」


そう言うと、ゼンは部屋から出ていった。え?お城に行ったの?行けたの?


確か、こちらの世界でも、神殿と王家はゲームと同じく対立してたはず。だから、神殿では『元王族の神官』として、王家では『神官の元王子』として、どちらでもゼンは居場所がなかった。ゲーム内ではゼンがお城へ行くことはなかった。お城の近くに行くことは一度だけあったけど、そこで第二王子と会うシーンが出てくるのよね。


花瓶に活けられた花を持って帰ってきたゼンに、もう一度聞いてみる。


「あの、ゼンはお城に行っても平気なんですか?その、神殿と王家は・・」

「ああ。そうですね。わたくしは王子としての身分は捨てましたが、弟であることは捨てていませんから。神殿はあまり良い顔をしませんが、兄に会うのは禁じられていませんよね?とお伺いすると何もおっしゃらないので、特に問題はないのでしょう。」


それは、つまり、神殿側に文句を言わせていないということですか。あれ、じゃあゼンは神殿と王家の間で揺れていない?むしろがっつり王家側?


そんな表情が現れてしまったんだろう、ゼンは笑いながら言った。


「わたくしは神官としての力があったので、神殿に在籍しているだけなのです。一番上の兄を支えるため、2番目の兄は城で政務の補助をしています。わたくしは対立している神殿から兄を支えようと思っているのです。」


じゃあ、ゼンはゲームと同じ悩みは持っていないということ。私はゼンを幸せにしてあげたいなんて思ってたけど、それは私の勝手な独りよがりで、別に私なんていなくてもゼンは幸せなんじゃないの?


「天音、わたくしを心配してくれたのですね?」

「え?」


暗くなってきた気持ちで俯いてしまっていたけれど、ゼンの言葉でびっくりして顔を上げた。するとゼンは先ほどの笑顔のままだった。


「王家と神殿の対立を天音は勉強していましたものね。わたくしの立場を心配してくれていたのでしょう?」

「えっと、その、はい。」


見当違いだったみたいだけれど。


「わたくしの兄弟が全員母親が違うのも、ご存知ですよね?」

「はい。ええと、皇太子様のお母様が正妃様でしたよね。それで・・」

「ええ。次兄とわたくしの母は側室です。身内の恥をさらすことになりますが、次兄の母は上昇志向が強く、次兄を王とするつもりでした。長兄も次兄も優秀で、わたくしは肩を並べるには程遠かったので、母はより優位な方に付けとわたくしに言っておりました。」


そうだった。小さい頃はゼンのお母さんは生きていたんだった。ゼンが神殿に入る前に亡くなってしまったんだよね。王家で唯一味方だったお母さん、ゲームではそうだったけど、これも違うらしい。


「実際に初めてお会いした時、緊張に震えるわたくしに『何をして遊ぼうか、それとも、お菓子が食べたいかい?』と長兄は声をかけてくださったんです。母親たちの思惑になんてのらなくていい、自分たちは兄弟なのだから仲よくしようと、言葉と行動で表してくださいました。次兄も同じです。『兄上が弟の僕を可愛がってくださるのだから、僕も弟に優しくしなければ』と。次兄の優しさはわかり辛いですが。」


苦笑しながらも、やっぱり幸せそうな顔が隠せていない。そうか、ゼンのお兄さんたちがゲームとは全く違うんだ。だから、ゼンは立場がなくて浮いているということはないし、こんなに嬉しそうなんだ。


「わかり辛いんですか?」


私はゼンのこの表情をもっと見たくて、続きを促す。


「ええ。最初にこの力のことを知った長兄は心配してくださったんです。力がある限り、神殿に行くのは避けられませんから。神殿と対立している事でわたくしの扱いが良くないことは想像できましたし。次兄には神殿へ行くことを強く勧められました。神殿へ行けば長兄に有利な情報をもたらせるかもしれないと。」

「それは、確かに皇太子様のためを思えば良い状況かもしれませんが、ゼンにとっては辛い事ではないですか?」


ゼンを大切にしているとは思えないんだけれど。ふてくされた私をゼンはなだめるように頭を撫でながら、だから、わかり辛いのですよ。と続きを話してくれた。


「『僕の弟が頭の悪い者たちに潰されるなんてことはあり得ませんよ。周りからどんな立場に見えたとしても、ゼンが僕たちの弟であることは事実です。それだけわかっていれば十分です。ゼンは兄上を神殿あちら側から支えてくれます。』と、長兄に言ったそうです。」


つまり、2番目のお兄さんはゼンを信頼してくれているということか。王子じゃなくなっても兄弟はやめてない。だから、ゼンの帰るところはちゃんとある。王家じゃない。お兄さんたちの、兄弟ところなんだ。


・・・ん?お兄さんたち?兄弟?


そう言えば、ゼンはお兄さんたち二人のことは話すけど、弟さんのことを話したことがない。ゼンの弟さんは、攻略対象者だ。もしかして、ヒロインがもうこの世界にいて、ゼンと接触していて、ゼンと弟さんが恋敵になってるから話したくないんだとしたら。


「あ、あの、ゼンの弟さんは」

「わたくしの弟が気になりますか?」


先程のお兄さんとのことを話していた表情とは一転して、ゼンは少し怖い顔で、少し低い声でそう言った。


「え、あの」

「わたくしの弟に会いたいのですか?」

「い、いえ。お兄さんとのお話は聞いたことがあるけれど、弟さんのお話はなかったので、兄弟は仲良くというのがゼンのお兄さんのお話でしたし。」


そう言うと、ゼンは納得してくれたけど、困った顔をした。


「弟の母親が今の王の寵姫なのです。弟は、王が可愛がっている子供ですので、兄たちも近づけないのです。」

「ご兄弟なのに?」

「そもそも、わたくしたち兄弟が気兼ねなく話せるのは王の関心がないからなのです。関心がないというよりは、疎ましく思っていると言った方が正しいですかね。長兄も次兄も王を超す聡明さを持っておりますし、いつ自分の地位を脅かされるかなどと思っているのでしょう。もうすでに長兄が国の政を半部以上担っているのですがね。」


呆れた口調でゼンは言った。王様は優秀な子供を嫌っているのに、その子供に王様の仕事を負担させてる、もしくは負担させているのに気付いてないってことだ。そして自分が寵愛しているものだけを身近においているんだろう。


「弟もあんなところにいたのでは、ただの勘違いをした愚か者になってしまう。それを危惧して、わたくしたちは弟をこちら側に置きたかったんですが、うまくいきませんでした。ですが、弟の婚約者はまともなご令嬢なので、ご令嬢や同年代の者たちと会う学園生活の間に、外の世界を知り、王たちのようなものにならないことを期待しているのです。」


そこにヒロインがやってきて、もっと事態を悪化させたらどうしよう。そう思って、私はあることに気付いた。

こちらの話にも『ブラコン』タグ、必要ですよねぇ~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ