4-1 アンナムンの手紙
「昨日の試合、すごかったなあ! うち、これからもめっちゃ応援するから、頑張ってや!」
教室に入るなり俺のもとへ駆け寄ってきたユイルは、挨拶もそこそこに、あれこれ熱っぽく語り始めた。ネーヤはまだ来ていないらしい。
「お疲れさまね。予選会なんて、見たのは何十年ぶりかしら。わたしの夫も子供も、興味さえ持ってくれなかったのよ」
ふふ、とメリサばあちゃんが笑う。
ユイルの話が一段落したところで、脱いだコートと荷物を持って立ち上がる。夜間部の教室の後ろには、個人が荷物を置いておくためのロッカーがあるのだ。教室そのものは昼間部の生徒が使うこともあるので、机の中に荷物は残せない。
縦に三段ある四角いロッカーの扉には、それぞれ数字が書かれている。壁に貼ってあるクラス名簿の出席番号と突き合わせれば、誰のものかは分かる仕様だ。プライバシーはどこへ行った。ウァズは扉に自分の店の宣伝チラシを貼り付けていて、これはこれで商魂たくましい。
「ん?」
そんなことを考えながら扉を開けると、ほとんど空っぽのロッカーの中に、白い封筒がひとつ落ちているのが目に入った。俺が入れたものではない。
大したものは入っていないからカギはかけていないし、そもそも封筒くらいならカギがあっても入れられるだろう。臭いや妖精力がこもらないようにするためか、扉の上部には横に一本、細長いスリットが入っている。
何なんだ、と訝しみながら封筒をひっくり返して――
「っ!?」
――宛名を目にして、血の気が引いた。
声を上げなかった自分を褒めてやりたい。手紙を上着の内ポケットにねじ込み、コートとカバンをロッカーに突っ込む。
「どうした?」
よほど変な顔をしていたのか、サラクが声をかけてくる。
「す、すんません、ちょっと急に気分が悪くなって……便所行ってくるっす」
「医務棟に行ったほうが良ければ、ついて行くが」
「あ、いえ、平気っす!」
逃げるように教室を出る。どこか人のいない場所に行かなければ。迷った末に、校舎の外に出た。近くに建っている隣の校舎に、外階段を見つける。電気が消えているから、おそらく人はいないだろう。階段を上がり、二階の入口を背にして座る。壁がほどよくジャマになって、下からは見えづらい場所だ。
手紙を引っぱり出した。夕暮れの薄暗がりの中だが、まだどうにか字は読める。
――やっぱり、間違いじゃないよな。
改めてそう思いながら、記された宛名を指でなぞる。
『Dear R. Yoshimura』
久しぶりに見る気がする、英語のアルファベット。それになにより、宛名だ。
ヨシムラ、というのは、俺の日本名の苗字である。こっちでは親方くらいしか知らないはずの名前だ。エルトラへの入国以来、俺にはこっちの苗字を名乗った記憶はない。書類上、エルトラ国内における俺の本名はリツ・エイス・ヴァネイザで間違いないので、公的な手続きにだって日本名を使うことはないのだ。
正直、「人違いです」と読まずに捨ててしまいたい気分だが、さすがにそうもいかないだろう。なにしろ手紙はあのロッカーに入っていたわけで、無視したところで俺の正体が差出人にバレていることに変わりはない。
封を切る。その封筒も、フラップの形からして日本のものだ。
中にはシンプルな便箋一枚に書かれた、日本語の手紙。字は丁寧すぎるほど整っていて、差出人の見当はつかない。
ふと、足首のあたりに震動が走った。ズボンの裾に隠れた位置には、白いリング状の魔具――というか、親父が残した呪いのアイテム――がある。普段から付けっぱなしにしているこの魔具は、俺の体調をずっとモニターしている。おそらく今も、俺の脈拍か何かの異常を検知したのだろう。そのまま長時間放置していると、救助を求めるサイレンが鳴ってしまう。ゆっくり息を吐き、そちらに意識を集中して魔具を操作すると、震動はぴたりと止まった。
魔法は指先で魔具に触れて操作するものが多いが、べつに指でなければ発動しないものでもない。生き物が「こうしたい」という意図を伝えれば、妖精が世界にばら撒いた「願いを叶える力」、すなわち妖精力がそれに応え、さまざまな現象を引き起こす――それがこの世界の魔法。魔具は、その意図を正しく、確実に伝えるための手伝いをするものだ。魔具の内部には、発動すべき魔法に応じて特定のパターンを刻んだ芯が入っている。余談だが、俺やサラクが手首につけているような汎用魔具は、よく使う小さな芯をいくつか入れ、その場で選んで使うものだ。汎用魔具がスマホなら、芯はアプリというところ。《レース》に使うような専用魔具は、いくつもの芯やそれらの制御機構、場合によっては妖精力のカートリッジまでが組み込まれ、汎用魔具とは桁違いに強力な魔法を使うことができる。
「しかし、まさか今さら追っ手に見つかっちまうとはねえ……」
呟いてみると、なんだか笑えてきた。楽しいから、というよりは、笑いでもしなければやっていられないからだ。
『前略 はじめまして。まずは、このような形で手紙を送る無礼を許してほしい。
私はアンナムン、君のご両親の友人だ。ご両親と突然連絡がつかなくなり、非常に心配している。今、ご両親がどこでどうしているのかを知っていたら、ぜひ私にも教えてくれないだろうか。
こうして偶然にも君に巡り会えた幸運を、神に感謝する。「予選会」での活躍は拝見した。君と早坂音衣也嬢は、これからきっと良いパートナーになるだろう』
予選会、の部分だけはエルトラ語の文字で書かれていた。これも教科書通りの、丁寧だが無個性な文字だ。ネーヤの名前が漢字で書かれていることには少し驚いた。どこで調べてきたのやら。
アンナムン、というのはあからさまな偽名だ。これは資称のひとつだから、決して個人名には使わないし、使えない。おまけに、現代では欠番になっている資称のひとつで、新しくその名を得る者も存在しないはずだ。ゆえに、この資称を持つのは昔話に出てくる愚者くらいだが、そこから転じて愚者をアンナムンとも呼ぶ。罵倒語としてよく工房で耳にする語だ。
『君に期待するからこそ、ひとつ助言をさせてもらいたい。ご両親に似て聡明な青年である君ならば、言わずとも分かっていることとは思うが、一度始めたことは簡単に投げ出してはいけない。異国の地で勉学と仕事を両立させ、さらに「レース」にまで挑むのは困難なことだろう。だが、君の周りの人々のためにも、君は決して逃げてはいけない。私は君が後悔する姿を見たくない』
手紙を破り捨てたい衝動をこらえ、文字を目で追う。母国語のはずなのに、まるで見慣れない言葉のようだ。一行ずつ指でなぞらなければ、どうにも頭に入ってこない。
要するにコイツは、俺に逃げるなと釘をさしてるんだろうか。
『私は君の健やかな成長を望んでいる。また、個人的な興味として、君たちの「レース」での活躍を祈ってもいる。どうかまわりの些細な陰口など気にせず、かの早坂楓香嬢のように、正々堂々と騎士たちを蹴散らしてほしい』
「ん?」
早坂楓香、という見慣れない名前に目が留まる。
苗字が早坂、ということは、もしかするとネーヤのお姉さんだろうか。有名な人なのか? ひょっとして、予選会のときに周囲が取っていた微妙な態度は、そんなところにも原因があるのだろうか。
そんなとりとめのない考え事は、次の文章を読んだところで吹っ飛んでしまう。
『近いうちにまた連絡する。次はぜひ、私が滞在している家に君をお招きしたい。もてなしの準備をして待っている。
最後に、あれこれと照れ臭いことを書いてしまったから、どうかこの手紙を人に見せたりはしないように。
それではまた。 草々』
なんのつもりだ、こいつ。お招きする、ったって、まさか普通にお茶でもして帰してもらえるわけじゃないだろう。誘拐とか人質とか、イヤな言葉が頭の中に湧き出してくる。もてなしって、何をしていただけちゃうんだよ、おい?
もし親父を追ってる連中に捕まったとして、俺はどうすりゃいいんだ。親父が出てきてカタをつけてくれるのが一番だけど、行方は俺も知らないし。俺を人質にしても親父が出て来なかったら、俺はどうなってしまうんだろう。よもや無事には帰してもらえまい。
くそっ、だから学校になんか来なきゃ良かったんだ。せめて「レース」なんかに関わらなきゃ、見つかることもなかったかもしれないのに。
手紙を持つ手が震えているのに気付く。ダメだ、このままじゃどんどん悪い方に思考が流れていってしまう。
「お、落ち着け、俺……」
そうだ、まだ差出人が敵だと決まったわけじゃない。もしかしたら伯父のような味方かもしれない。そうじゃなくたって、親父が言ってたほど状況は悪くないかもしれない。何があったか知らないが、夜逃げからこれだけ時間が経っていれば、向こうだってもう、俺たちに関心なんてさほどないかもしれない。
うずくまって深呼吸を繰り返し、呼吸が落ち着くのを待つ。
それからふと思い立ち、手紙を地面に置いて上着を被せる。それからその内側で、強化の魔法を何度か、意味もなく使う。その上で、最後に妖精力を景気よくムダ使いして、魔具を明るく光らせた。普通にやれば眩しいほどの光が発生するはずだが、こうして妖精力を減らした後では、生まれる光もか細いものだ。ただ光る、という基本的な魔法がこの程度の力でしか発動しない状況では、複雑な魔法は発動すら難しいはず。
妖精力というのは消耗品で、使えば減っていく。局所的に大量の妖精力を消費すれば、一時的に魔法が使えないエリアを作り出せるのだ。ちょっと移動するなり、風が吹くなり、時間が経つなりすれば復活するが、構わない。
それから、風を起こさないようにそっと顔を近づけ、頼りない光の下で眺める。
この手紙に魔法がかかっているとすれば、俺のようなエイスが得意とする付与魔法か、俺が触れることで発動する自動魔法か。後者だとしても、前者を併用して、仕掛けの痕跡を隠している可能性が高い。周囲の妖精力が尽きれば――あるいは地球に持っていけば、その効果は薄らぎ、場合によってはほぼ停止する。ちなみに、再び妖精力を与えたときに復活するかどうかは、魔法のかけ方によって違う。
どうやら思った通り、見た目を変えるための付与魔法がかかっていたようだ。手紙の最後、余白の部分に、隠されていた文字があらわれている。
『追伸。そう心配せずとも、私は君のご両親ほどいたずら好きではない。何も仕掛けてはいないので、安心されたし』
「って、ふざけんなよ、クソったれ! 言ってるそばから仕掛けてあんじゃねえか!」
思わず叫んだ声は、夕闇の中で意外なほどによく響いた。だが、そのおかげで、少しは気分が落ち着いてくる。
ふう、と息を吐いた次の瞬間、
「誰かと思えば、貴方でしたのね、リツ・エイス」
頭上から声がして、思わず「うわあ!」と声を上げてしまう。
見上げた空に、人が逆さまに浮いていた。重力を無視して浮く長い髪は、くるくると丁寧に巻かれている。
「ま、マリナ・リグ? 何してるんすか?」
「何って、もちろん――」
続いた言葉が聞き取れない。「はあ……」とかなんとか適当にごまかそうとしたが、マリナはそんな俺の様子を鼻で笑い、
『自主トレです』
と日本語で告げてきた。なかなか上手いが、じしとーれ、に近いその発音はいかにもエルトラ人らしい。上手さでいえば、ユイルよりは少しマシ、程度か。
「なるほど。お疲れっす」
「やはり日本語のほうがお得意? その服、申し込みのときにも着ていらっしゃいましたけれど、日本のものですわよね?」
ひっくり返ったままマリナが言う。落ち着かないんでやめてくれませんかね、それ。
「見りゃあ分かるでしょう。親の仕事の都合で、ガキの頃から去年まで、ずっと日本にいたんすよ。家でも日本語を使わせる教育方針でしてね、こっちの言葉はまだ苦手っす」
「だから、ネーヤ・イクルに親近感を?」
「そーっすね。それが何か?」
「いえ。ただ少し、貴方がなぜ彼女に肩入れしたのか、気になっていたものですから」
マリナはようやく天地の向きを変え、宙に浮いたままお上品に微笑む。彼女の目に入らないよう、手紙を尻ポケットにねじ込んだ。
差出人のアンナムンが、彼女である可能性はあるだろうか。彼女にあんな自然な日本語が書けるとは思えないし、彼女が俺の親父を追う理由もさっぱり思いつかないが……いや、落ち着け、そうやって何でもかんでも疑っていたらキリがない。そんなことを言っていたら、さっき「おっと、手が滑ってしまった」とか言いながら俺に攻撃魔法をブッ放してきた、名前も知らない昼間部の生徒でさえ疑わしくなってくる。あのヒョロ眼鏡、いつか見てろよ。
「ウワサじゃ、俺はネーヤ・イクルに惚れてるんじゃなかったっすかね?」
「あれは本当ですの? だとすれば、歓迎すべきことですわ。燃え立つような恋は、庶民に与えられた特権ですものね。まあ、貴方は噂ほど無知蒙昧な人間ではなさそうですけれど」
言い回しが難しくて、ニュアンスが判断しづらいのだが、俺はウワサほどのバカじゃないって点にだけは同意したい。ネーヤ以上のバカだと思われるのは、いくらなんでも屈辱的だ。
「……それはともかく、マリナ・リグ、いつから俺に気付いてたんすか?」
「誰かがいるのは遠くから見えましたけれど、声が聞こえたのは"ふざけるな"のあたりからですわね」
「そっすか……お恥ずかしいところをお見せしちまったっす」
「そんなことより、もう授業の始まる時間ではなくって? こんなところで何をしていらっしゃったの?」
「サボりっすよ。予選会ではしゃぎすぎたのか、ちょっと体調が悪くって」
答えると、マリナは「失礼しますわ」と俺の目の前に着地した。強い風が起こり、妖精力を取り戻した手首の魔具が眩しい輝きを放つ。膝をついたマリナは、ぐっと遠慮なく顔を近づけてきた。きめの細かい肌が、うっすらと汗ばんでいるのが分かる。思わずドキリとして身を引いた。背中が壁に当たる。
「……嘘はついていらっしゃらないようですわね。何を思ってこんなところにいるのかは知りませんけれど。医務棟はすぐそこの建物ですのに」
「い、いや、そこまでするほどじゃねえっす。すぐに戻るんで……」
「戻れるような顔には見えませんわよ。何でしたら、運んで差し上げましょうか? 貴方くらいの体重なら、抱えて飛ぶくらいは」
「い、いえいえいえ! 飛ぶのは勘弁っす! マジでムリなんで! 足がつかないのはダメなんすよ! 怖いんすよ! 昔ちょっと高いトコから落ちて! それ以来マジ無理で!」
今の提案で、余計に顔色が悪くなってるんじゃないかという気がする。どれだけバカにされても結構。怖いものは怖いのだ。
「敵には頼らないという姿勢、悪くありませんわ。ご自分で歩けまして?」
「いや、そんなんじゃなくて……つーか、敵って……とにかく、大丈夫っすよ、本当に」
立ち上がって、大きく深呼吸。医務棟までくらいは行けそうだ。
どうやらマリナは医務棟までついてきてくれるつもりらしい。何だか落ち着かないな、と思いながら、微妙な沈黙を打ち破ろうと口を開く。
「そういえば、マリナ・リグ。もしかして、ネーヤのお姉さんのことをご存知だったりしねえっすか?」
「逆にお伺いしますけれど、貴方はご存じないの?」
「ネーヤからは、憧れの人だとは聞いてるんすけど、それだけっす」
マリナは「やはり」と呟き、しばらく困ったように視線をさまよわせる。
「……フーカ・イクル・ハヤサカのお名前は、よく存じ上げておりますわ」
やがて、マリナはためらいがちに言葉を紡ぐ。早坂楓香。フウカ、と読むのか。
「彼女が在学していた頃、わたくしはまだ第二課程におりましたから、接点は多くありませんでしたけれど。十年生のときに、予選会で優勝し、学校代表のひとりになった方ですわね」
「あれ? 学校代表って、何人も選ばれるんすか?」
「今は二人ずつでしょう。この町と周辺にある学校すべての代表者で決勝を行って、そこで決まった代表者一名が《銀翼杯》の本戦に出られるのですわ。この町は人口も学校数も年々増えていますから、そろそろ割り当てが増えても良い頃合いだとは思いますけれど。フーカ・イクルがいた頃は、まだ私立のツァンバット学院がありませんでしたから、この学校の代表は三人だったと思いますわよ」
俺の語学力を気にしてくれているのか、ゆっくり喋ってくれるおかげで、マリナの言葉も少しは聞き取りやすかった。ネーヤへのキツい態度のせいで怖い印象があったが、意外にいい人なのかもしれない。
「とても美しく、優秀な方でしたわ。異世界人とは思えないほど魔法に長け、風に愛され……そして、わたくしたちを手酷く裏切った方」
「裏切った?」
マリナは歩調を早め、俺を追い抜いて行く。
「詳しいことは、ネーヤ・イクルにお聞きになったほうが良いのではなくて? 過去の噂話など、不用意にするものではありませんわ。それに、わたくしは貴方とネーヤ・イクルを仲違いさせるために、無責任な嘘を吹き込むかもしれませんのよ?」
「そんなことして、何になるんすか。別にアイツは、俺なんかいなくても問題ねえっすよ。予選会でアイツがあんなヘッポコだったのも、俺が欲張って変な改造をしたせいですし。俺がいなけりゃ、昨日だって、アイツはもっとマトモに活躍できたに違いねえんすよ」
まあ、とマリナが目を丸くした。
「それはわたくしへの厭味ですの? わたくしはそのネーヤ・イクルに負けたのに」
「あんなの、負けたうちに入らねえっすよ。卑怯なだまし討ちっす。やれって言ったのは俺っすけど。勝ちに焦って、勝負を汚したことは申し訳ねえと思ってるっす」
「負けは負けですわ。卑怯だなんだと言い訳をするほうが無様ではないかしら」
戦場ならば組み付かれた時点で死んでいますわ、と言われ、そういえば《レース》のルーツは軍事訓練だったと思い出す。
「それに貴方、少々ご自分を過小評価しすぎですわよ。魔具を預けられるほど信頼できる仲間が、そう簡単に見つかるとはお思いにならないことですわ。貴方を失えば、ネーヤ・イクルは間違いなく、代表の座から遠のくことになるでしょうね」
「お、俺っすか? 冗談キツいっすよ、マリナ・リグ」
俺の下手な演技を見透かしているのか何なのか、マリナは居心地が悪くなるほどマジメな声音で答える。……あれ、この人、ネーヤが本当に代表を狙えると思っているのか。昨日のアレは本当にただの一発芸、実力とは何の関係もないだろうに。いや、ネーヤがかつての代表の妹だと言うのなら、彼女に才能を見出すのも無理からぬことかもしれないが。
「わたくしは冗談など申し上げておりませんわ」
濃さを増していく夕闇の中で、マリナの表情は分からない。
「さあ、そこが医務棟ですわよ。お大事になさいませ」
最後に振り返ってそう告げると、マリナは軽く地を蹴り、そのままどこかへ飛んでいった。




