伝説だったゲーム
「本日よりいよいよL.O.Aのバーチャルバージョンの配信スタートとなります。是非プレーして下さい」
新聞の一面を飾ったこの見出しは、2038年8月14日のものである。
伝説的ヒット作「L.O.A」のバーチャルバージョン配信日のこの日は、みんな会社や学校を休んでしまい、人口の約4割が家で過ごすというとんでもない日になっていた。
「L.O.A」制作会社、フェンリル社の開発のゲーム機「エルファンK」を購入することが、バーチャルを体感できる最低条件だ。
そして、フェンリル社に予約をすれば、配信開始後に、データが送られてくる。
そして、事前に配られていたチップ(後にも購入可能)を取り込んで、簡単設定をすませれば、バーチャル世界だ。
俺がここまでしか説明できないのは、フェンリル社がここまでしかいっていないからだ。
なぜバーチャルを実体験できるのかも、しようと思ったのかも、関係者しか知らないことだった。
いよいよ、配信開始時刻の10時になる。
TVでも、キャスター達がニュースそっちのけで、カウントダウンを始めた。
俺は、自分の部屋で、その時をまった。
もう38歳になろうとしているのに、このゲームを前にすると、10代だった頃に戻った気分になる。
俺がまだかまだかと待っていると、アナウンサーが口を開く。
「それではいよいよ始まる模様です。カウントダウンを始めます。5,4,3,2,1,スタートでぇぇぇぇす」
「「うおぉぉぉぉ」」
その日、世界が熱くなった。
あの日の感動は今どこにあるんだろうか。
そんな事を考えている男は、窓越しに庭を眺めていた。
そこにとことこと息子がやって来た。
「お父さん、デリーツア買ってよぉ」
「だめだ、あんなの失敗作じゃないか」
「失敗作なら、あんなに人気にならないでしょ」
「うるさい、だめなものはだめだ」
「ホント、けちだよなぁ。てか、うちぐらいだよこの辺でエルファン持ってないの」
「うちには、L.O.Aがあるだろうが」
「なに言ってんだよ、あれこそ失敗作じゃんかー」
息子はそう言って部屋に戻っていった。
まったく、最近のやつらは本当のL.O.Aを知らないからあんなことが言えるんだ、私は絶対にL.O.Aのほうが優れていると思うね。
今の時代に、この人に共感する人はどれくらいいるだろうか、伝説的ヒット作とまで言われた「L.O.A」は、姿を消した。