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その15 光の子(6)

 長老の家から帰ったハナハナは、早速ミィミに長老に言われた事を話しました。

 お昼の支度をしていたミィミは、手を止めて、妹の話を聞くために食卓へ腰掛けました。

 ハナハナが話し終えると、ミィミは小さく頷きました。

「そう……。長老がそうおっしゃったの」

「うん。でも、カールベルって遠いよね」

「そうね、パッセルベルからはかなり離れているわね。……不安? ハナハナ」

「うーん……」

 不安じゃないと言えば嘘になります。もしカールベル行きが決まれば、ハナハナはそれ

でミィミ達の所から独立する事になるのです。

 予言の通り、これから魔王が舞い戻って来るとすれば、もうそれきりミィミ達には会え

なくなるとも考えられます。

「私……、どうしよう……」

「正直に言うとね」ミィミは静かに言いました。

「私、ハナハナが『光の子』なんて事、知らなければいいと思ってたの。父さんと母さん

が、やはりリリアさまの予言の英雄だと分かった時、真っ暗闇に突き落とされた気分だっ

た。だって、まだ十五歳だったのよ? 両親が死ぬかもしれないって分かって、恐くない

子供なんていないわ。でも、その上に、リリアさまはハナハナにも過酷な予言を下された。

私は本当に途方に暮れて……。そんな私を、ティーヴや長老さまが支えてくださったのよ。

でも、ハナハナが大きくなるにつれて、またあの時の恐怖が訪れるのかと思うと、気が気

じゃなくなって来たの」

 初めてそんな話をしてくれたミィミを、ハナハナはじっと真剣な顔で見詰めていました。

「——ハナハナが『光の子』として色んな勉強をしたいっていうのは、分かるわ。それは

多分とっても大事な事でしょう。だから……。

 だから、私は反対は出来ない。それは、自分の気持ちをハナハナに押し付ける事になる。

何より、自分の我がままで世界を暗闇のままにしてしまうような事を、この世界の者なら

してはいけないもの……」

「……お姉さん」ハナハナは、切なくなってミィミに抱き着きました。

「ごめんなさい、辛い思いをさせて」

 ミィミは、ぎゅっと妹を抱き締めました。

「ごめんね、ハナハナのせいじゃないのに。私こそこんな話、ハナハナにしてはいけない

と思ってたのに……」

「ううん。してくれてありがとう。だって、今聞いておかなかったら、私、ずっとお姉さ

んの気持ち知らないままだったかも」

「ハナハナ……」

「ごめんなさい、私……、私、カールベルへ行きます」

 自分を思い遣ってくれる優しい姉がいるから。

 ミィミとティーヴ、そしてモモとフレイ。大事な家族を守りたいから。

「私にしか、暗闇に光を当てられないなら、私がやらなきゃならない。誰も代わってくれ

ない、そうでしょ? だったら、私はカールベルに行って、リリアさまのところでたくさ

ん勉強します。そして、立派に『光の子』の使命を果たします」

「ハナハナ……」ミィミは、切な気な、それでいて嬉し気な表情で小さな妹を見ました。

「本当に、それでいいの?」

「……うん」ハナハナは、力強く頷きました。

「恐いけど、やらなきゃ。やってみる」

 その時、どうしてあんなに清々しく笑えたのか、後から振り返ってもハナハナには分か

りませんでした。

 ただ、その時にした大きな覚悟が、パッセルベルを、更に世界を、のちに本当に救う事

になりました。



 一週間後。  ハナハナは十一歳の誕生日を待たずにカールベルへ旅立ちました。

 旅立ちの朝、ハナハナは最後の水汲みをするためにマーフの泉へ行きました。

 バケツを持って降りて行くと、泉のほとりでマーフが待っていました。

「今日、カールベルへ行ってしまうんですね、ハナハナ」

 少し悲しそうな表情で、マーフは言いました。

「うん。色々ありがとう、マーフ」

「ハナハナは『光の子』。世界を暗黒から救うために、多くの事を学ばねばなりません。

それには、ここよりリリアさまの元へ行った方がいいのは分かります。でも、残念です」

 ハナハナは、じっとマーフの声を聞いていました。

 マーフは、そっと手を水の中へ浸けました。

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