その15 光の子(4)
「そうよねぇ、ならどうやって暗黒の世界を救うんだろ?」
ニーニャも首を傾げます。
「だから、英雄じゃないんだって」
「そうだね、それは英雄じゃないよね」
「それで、ハナハナは悩んでた、と?」
エマに言われて、ハナハナは頷きました。
「確かに、それは悩むよねえ」
「戦わないで魔王から暗黒の世界を救うのって、どうやるんだろ?」
腕を組むリックに、マックが言いました。
「ねえ兄ちゃん、暗黒って、真っ黒って事?」
「ん? ああ、そうだね」
「じゃあ、真っ黒じゃなきゃいいんでしょ? 黒い所に色んな色を入れちゃうとか」
「赤とか黄色とか橙色とか?」
「ピンクとか真っ白とか」
「それで暗黒が救えると思ってるの? ばっかじゃない?」
エマが突っ込みを入れて、兄弟はしゅんとなりました。しかし、ハナハナはこれは大変
なヒントだと思いました。
「そっか……、真っ黒じゃなくすればいいのか」
「なあに、ハナハナまで?」
「ううん、そうじゃなくって。色って、前に若先生がおっしゃってたけど、光が当たるか
ら初めて色だって分かるんだって。暗黒って事は、色が無くなる。真っ黒になるのは光が
無くなるから。で、私の星は『光の子』」
「そっか! 真っ黒に光を当てて色を取り戻すのが『光の子』なんだっ!」
リック、ニック、マックが同時にぽんっ、と手を叩きました。ニーニャもなる程と頷き
ました。
エマは、「ほんとにそんな事なの?」と、眉を顰めました。
「分からない。でも、魔王と戦わないで暗黒の世界を救うって言うんなら、それに近いん
じゃないのかな……」
呆れたという顔で、エマはハナハナを見ました。
「ほんと、どうしてハナハナに『光の子』なんて星があるんだろ」
「とにかく、これから長老さまとお話して来る」
「うん、それがいいよ。長老さまなら、きっといい答えをご存じだよ」
リックの言葉に、ハナハナは「うん」と頷きました。
「じゃあ、行って来るね」
ハナハナは、みんなと別れて長老の家へと急ぎました。
急に訪ねたのですが、長老はにこにこしながらハナハナを家へ招き入れてくれました。
「まだ外は寒いじゃろう、さ、暖炉の側へお行き」
集会所を誰かが使っていなければ、長老はいつも一人で家にいます。
「今、ココアを煎れてあげようの」
「あ、私手伝いますっ」
ココアはリック達兄弟のお父さんが働いているべラスの方から持って来る、とっても貴
重な飲み物です。
ココアを買うお金は、ティーヴが狩りの獲物を売って得たお金です。その時々で買える
だけ買い、村のみんなで少しずつ分け合っています。
動物性のものを飲んだり食べたり出来ない妖精は、牛乳の代わりに、サペという豆の汁
からできる豆乳を飲みます。ココアも、たっぷりの湧かした豆乳に、粉をスプーン一杯入
れ、お砂糖を加えてかき混ぜます。
ココアのいい匂いが、ほんのりと長老の家の居間に漂い、ハナハナはちょっとだけほっ
とした気持ちになりました。
掛けなさい、と椅子を勧められて、ハナハナは暖炉の脇の背無しの椅子に腰掛けました。
「さて。今日ハナハナが何で来たのかは分かっておるよ。『光の子』の事じゃろう?」
「はい。……あの」ハナハナはちょっとココアを啜ると、思いきって言いました。
「私、やっぱり分からなくて。『光の子』って、一体何をどうするんだろうって。でも、
さっきここに来る途中で、友達に会ったんです。ニーニャやリック達やエマと話をしてい
たら、みんなが色んな事を言ってくれて……。マックが、世界を暗黒から救うのには、真
っ黒になったところに光を当てて、色を取り戻せばいいんじゃないかって……」
「ほお……?」
長老は面白そうに微笑みました。
「色を取り戻す、の」
「はい。『光の子』は光なんだから、色々な色を照らし出すために居るんじゃないかって」
言ってから、ハナハナは、はっとしました。