その15 光の子(2)
長老は、ハナハナの、まだ少し小さい手を取りました。
「ミィミ、よく頑張ったの。まだ十五じゃったミィミが、両親から赤ん坊の妹を託されて
途方に暮れておったのが、つい昨日のようじゃ。ティーヴも、よくミィミとハナハナを守
ってくれた。おまえさんが居たから、ミィミはハナハナを育てる事が出来たんじゃ」
「いや……。俺は何も。ミィミがしっかり者だから、ハナハナも病気ひとつせずに育った
んです」
「ティーヴ……」長老は、二人にうんうん、と頷きました。
「十五歳同士の夫婦が大変だったのは、わしがよう知っとる。ほんに、頑張った。じゃが
……」
長老は、ハナハナに目を戻すと、ゆっくりと言いました。
「もう、ハナハナの事は心配いらん。これからは、ハナハナは自分で、どう生きて行くの
か、決めねばならんからの」
どう、生きて行くのか。
その長老の言葉は、ハナハナの小さな胸にずっしりと重い課題を置きました。
十一歳は独立するには早過ぎる歳です。しかし、『光の子』という稀な星を持って生ま
れたハナハナには、時間はもうありません。
いつまでも、姉夫婦に庇われる小さな子供では、いけないのです。
「………」
あの夜の事を思い出したハナハナの手から、モモの小さなエプロンが落ちました。
それを、ミィミがそっと拾いました。
「ハナハナ」ミィミに呼ばれ、ハナハナははっと我に還りました。
「やっぱりもう一度、長老さまと話してらっしゃい」
「お姉さん……」
「これから、どうするのか、ハナハナはどうしたいのか、ね。今分からなくても、お話を
聞いているうちに、何かいい案が浮かぶかもしれないわ」
「……うん」
そうしよう、とハナハナは思いました。
ここでぐるぐると悩んでいても仕方ない、とにかく動いてみなくっちゃ。
「分かった。洗濯物ちゃんと干したら、長老さまのところへ行って来る」
頷くハナハナに、ミィミは微笑んで頷き返しました。
洗濯の手伝いが終わった後、ハナハナはミィミに言った通り、長老にもう一度話を聞く
ために出掛けました。
けれど、一体どんな事を話せばよいのでしょう? 考えながらとぼとぼと歩いていると、
後ろから声を掛けられました。
「ハーナハナっ!」振り返ると、子ねずみ三兄弟のリック、ニック、マック、それにニー
ニャとエマが上って来ました。
「どこ行くの?」
寒がりのニーニャは、橙色の毛糸のオーバーをきっちり着て、手には同じ色のミトンの
手袋をしています。
リック、ニック、マックは、緑、水色、黄色の色違いのお揃いの厚手の綿の耳つきキャ
ップを被っていました。
おしゃれなエマは、自分の灰色の毛並みによく合う青い絹のショールを羽織っています。
ハナハナは、みんなの着ている服の色が、何故かとっても新鮮なものに見えました。
不思議な顔で見詰めているハナハナに、エマは「どうしたの?」の小首を傾げました。
「あ……、ううん、何でもないの。これから長老さまのお家へ行くの。ちょっと、お話が
あって……」
「あ、いいなっ。長老さまのお話って、また新しいおとぎ話?」
「えーっ、だったら私達も聞きたいっ」
ニーニャが大きな声で言いました。リック達も「僕もっ」と口々に言います。
「ハナハナにだけって、どうして?」エマが、口を尖らせました。
「この間も長老さまは、ハナハナにだけいらっしゃいって、言ってらしたわよね?」
「あ、ウサギが暴れた日でしょ? あの後、ハナハナ、ミィミおばさんとティーヴおじさ
んと一緒に長老さまのお家へ行ったのよね?」
「あれ、何のお話だったの?」
ニックに聞かれ、ハナハナは暫し戸惑いました。
大人から、『光の子』の話をみんなにするなとは言われていません。ですが、みんなに
話すのは、何だか自分だけ特別だと言っているように思われそうで、勇気が要りました。