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その14 レスワの壷(7)

 その時。

「モルガナ婆さんいるかいっ?」

 木ねずみの妖精ワトソンさんが、息せき切って駆けて来ました。

「長老が……、お呼びなんだ……。ボッヘ親方が大変なんだっ!」



 モルガナ婆さんは、急いで長老の家へと行きました。ハナハナ達も、何事かと一緒に付

いて行きました。

 長老の家には、村の人が大勢来ていました。

「はい、ちょっとごめんなさい」

 モルガナ婆さんは、人を掻き分けて中へと入りました。

 一階の会議室には、長老とボッヘ親方、そして娘婿のトッドさん、マーマおばさん、ワ

トソンさん、ミィミが来ていました。

「おお、すまんのモルガナ。ボッヘさんが、レスワの魔法で記憶が無くなってしまっての」

「ウサギでしょ? さっき泉で捕まえましたよ」

「うむ。わしが、上から落としたんじゃ」

「そうだったんですか」

 モルガナ婆さんは、ボッヘ親方の側へ寄り、顔を覗き込みました。

 ボッヘ親方は極まり悪そうに、下を向きました。

「……なる程ねぇ。けど、レスワウサギの魔法なら、一時間程で効果は切れるんじゃあり

ませんか?」

「それがじゃ」

 長老はふう、と息を吐きました。

「レスワという魔法は、強さによって忘れる内容の時間の長さが決まる。ウサギの魔法は、

大体杖ひと振りで十五分程度、効果が切れるのに三十分から一時間もあれば十分じゃ。

しかし、このボッヘさんの場合、少し忘れが酷いんじゃ」

「忘れが酷い?」聞き返したモルガナ婆さんに、長老は「うむ」と頷きました。

「トッドの話を聞いたところ、どうもウサギが何かに慌てて、続けざまに何度もボッヘさ

んに魔法を掛けたようなんじゃ。お陰で、ボッヘさんは自分が大工の見習いになった時か

ら現在までの記憶を、全部忘れてしまったようじゃ」

「それは、中々……」

「うむ。ここまで酷いと、記憶が戻るのに半年……、いや、下手をすれば一年は掛かるか

も知れん」

「ええっ? そんなに掛かるんですかっ?」

 トッドさんが慌てました。

「そんなっ、一年も親方に仕事を休まれたら……。俺一人じゃ、仕事をこなせませんっ!」

「どうにかなりませんか? 長老さま」

 半泣きのトッドさんを可哀想に思ったマーマおばさんが、言いました。

「どうにかして上げたいのはやまやまなんじゃが……。ここまでじゃと、わしの魔法でも、

どうにもならん。そこで、モルガナに相談したんじゃが……」

「そうさねぇ……。物忘れに一番効くのは、青龍平原にしか咲かない黒竜胆の根なんだけ

れど……。あれはレスワの魔法でさえ打ち消すからね。でも、今は持ってないね」

 青龍平原は、パッセルベルのある緑龍渓谷より遥か東の土地です。とても、すぐに行っ

て帰って来れる場所ではありません。

「それに、今は時期じゃあないしね。行ったとしても、黒竜胆は見つからないさね」

「じゃあ、どうすれば……」トッドさんの困りきった表情に、長老とモルガナ婆さんは顔

を見合わせました。

「……伯爵でも、居てくださればのお……」

「連絡してみたらどうです?」

「あの、長老?」ボッヘ親方の様子を心配して集まっていた周囲の人々の後ろから、ふい

に声がして、みんなはびっくりして振り返りました。

 そこには、泉から上がって来たマーフが立っていました。

「ハナハナに協力して貰えれば、私が物忘れの解除薬を作れると思いますが……」

「えっ、私?」

 みんなに混じって様子を見ていたハナハナは、突然名前を言われて、びっくりしました。

 マーフは、ハナハナの側に来ると、にっこり笑いました。

「泉の一番深い所から湧く水にハナハナの気を込めれば、多分作れると思います」

「そうかっ。光の子じゃ」

 長老は立ち上がると、二人に言いました。

「マーフ、すぐに始めてくれ。ハナハナ、ちょっと大変じゃが、マーフに協力してやって

くれるかの?」

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