その14 レスワの壷(5)
「ひょいっ!」
しかし、身体を一回転した拍子によろけて、側の雪の塊の中へ突っ込んでしまいました。
ウサギの入った雪の塊を、長老の魔法のロープが叩きました。と、塊はつるつると滑っ
て、四丁目の枝から真直ぐ下へと落ちてしまいました。
「あ〜れ〜っ!」
雪の塊は空中で解け、ウサギは真っ逆さまにマーフの泉へと落ちて行きました。
その同じ頃。
ハナハナとニーニャ、エマの三人は、南の大枝の枝元にいました。
はぐれたモモとフレイをようやく見付けたハナハナ達は、モモから何があったか聞いて、
すぐにお婆さんに謝りました。
そして、ハナハナと友達二人は、お婆さんを手伝ってウサギ探しを始めました。
しかし、市場の中をくまなく探しても、ウサギは見つかりませんでした。三人はくたび
れて、枝元で一度休憩していました。
「どうしよう、何処にもいないね」
「困ったねえ……」
ニーニャもエマも、困った顔で溜め息をつきました。
「ごめんね、モモ達の失敗なのに、付き合わせて……」
ハナハナは、しょんぼりと友達に謝りました。
「ううん、いいよ。……でも、ほんとにそのウサギ、何処に行っちゃったのかなあ」
「ねえ、一度家に帰らない? もしかしたら、ウサギは上の方へ行っちゃってるかもよ。
家に帰って、おかあさん達に話した方がいいよ」
「そうだね……」
エマの提案に、ハナハナは頷きました。
記憶を無くしたフレイと、泣きじゃくってしまったモモはミィミが家へ連れて帰ってい
ます。
「誰か大人に……、長老さまに相談した方がいいかもね」
「長老に相談っ? 冗談じゃないよっ!」
不意に大きな声で怒られて、ハナハナ達は驚いて振り向きました。
壷の持ち主のお婆さんが、恐ろしい形相でこちらに近付いて来ました。
「大体、あんたの甥っこが悪ささえしなけりゃ、こんな大事にならなかったんだっ! そ
れを忘れて、長老に相談だなんてっ!」
「だ……、だって、このままじゃ捜せません。他にも誰かに手伝ってもらわないと……」
おずおずとハナハナが言うと、お婆さんはふん、と鼻を鳴らしました。
「面倒臭くなったんだろっ。全く、近ごろの小娘共はっ。すーぐに誰かに責任を押し付け
ようとしてっ!」
「そっ、そんなんじゃありませんっ。私達は……」
「だったらとっととお探しよっ!」
お婆さんはつんけんと言うと、三人をじろりと睨み回しました。
「……ウサギは、多分上の枝の方へ行っちゃったんだわ」
エマが、睨み返して言いました。
「何だって?」お婆さんが、ぎょっとした顔をしました。
「上の枝だってっ? ……それはまずい。わたしゃ、これ以上上には登れないんだ…。あ
あ、どうしよう」
「あの」
ニーニャが聞きました。
「どうして、上に行かれないんですか?」
お婆さんは、きっ、と目を釣り上げました。
「そっ、そんな事っ、あんた達に言う事じゃないよっ! ……ああでも、あいつが上に逃
げちまったかもしれないなんて……」
「何を、そんなところで集まっているんだい?」
突然後ろから声がして、お婆さんは驚いて振り向きました。
ゆるゆると身体を左右にくねらせて近付いてくる薬師の蛇の妖魔のお婆さんに、ハナハ
ナは、にっこりと笑いました。
「こんにちは。モルガナさんもお買い物ですか?」
「ああ、眠り薬に入れる光茸と心臓の薬の材料を買いにね。——おや、そこにいるのは、
誰かと思えば……」
モルガナ婆さんは、顔を伏せてこそこそと自分から離れようとしていた壷の持ち主のお
婆さんの顔を、回り込んで覗きました。
「やっぱり。パメラじゃあないかえ」
「あ……、ひ、久し振りだね、モルガナ」
「あんた、こんなところで何してるんだい? さてはまた良からぬ事をしでかそうとして
いるんじゃなかろうね?」
「え?」