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その14 レスワの壷(3)

「全くっ! ろくでもない事をしてくれたよっ! 絶対おまえと弟の肝を食ってやるっ!」

 恐ろしい言葉を吐いてモモを睨み付けると、お婆さんはウサギが飛んで行った方へと走

り出しました。

 騒ぎに、何事かと幾人かの人が通りへ出て来ました。それを突き飛ばすようにして、お

婆さんは走って行きました。

 お婆さんが見えなくなると、モモは漸くテントの中へ入りました。

 フレイは、赤い光を浴びてその場に気を失っていました。

「フレイっ!」モモは、弟の肩を掴んで揺さぶりました。と、フレイが目を覚ましました。

「あ、おねえちゃん……? も、ごはん出来た?」

「違うわっ、ここはお家じゃないのっ。早く起きてっ」

「え? 僕お家にいたあよ? 朝ごはん、まあだ食べてないもんっ」

 ぷっと頬を膨らませたフレイに、モモは怒りました。

「何言ってんのっ! もうお昼なのっ! フレイ、忘れちゃったの? 一緒に市場に来て

たでしょ?」

「……いちば?」フレイは、きょろきょろとテントの中を見回します。そして、きょとん

とした顔で言いました。

「ここどおこ?」

「なによっ。さっきここでお婆さんの壷を開けちゃったの、覚えてないの? 怒られたじ

ゃないっ」

「僕、そんなことしてなあいっ!」

 手を振り回して主張する弟に、モモは呆れた顔をしました。

「なによっ! 自分の悪戯はさっさと忘れちゃうわけっ?」

「そりゃあ違うよ、嬢ちゃん」

 突然響いた低い男の声に、モモはぎょっとして振り向きました。

 大きな熊の妖精のおじさんが、台の方から中を覗いていました。

「弟坊主が開けたのは、レスワの壷だ。あのウサギに魔法を掛けられると、ちょっと前の

事はみんな忘れてしまうんだ」

「レスワ、の壷?」

 目をぱちくりさせたモモに、おじさんは「そうだ」と頷きました。

「壷のウサギは、蓋が割れたんで喜んで飛び出して行っちまった。——大変だな、これか

らあっちこっちで物忘れの人が出るよ」



 ウサギは南の大枝から飛ぶように上へと上がって行きました。

 熊の妖精のおじさんが言っていたように、ウサギは出会う人みんなに忘れ魔法を掛けて

回りました。

 十六丁目の木ねずみの妖精ルーラさんは、夕飯にと採って来た野菜の泥を雪水で洗って

いる時に、ウサギにばったり会ってしまいました。

 お陰で野菜を採ったのを忘れ、大事なラディッシュをウサギに持って行かれてしまいま

した。

 シマリスの妖精ラッセさんは、柱時計を直している最中にウサギが家に入って来ました。

 時計を持ち上げているのを忘れて、床に落として壊してしまいました。

 猿の妖精アンソニーさんは、お昼の買い物の道で魔法を掛けられ、市場で買ったリンゴ

やイチゴを、全部ウサギに盗られてしまいました。

 魔法で悪戯して、人のものを盗り放題のウサギは、いい気になって更に上の枝へと逃げ

て行きました。

 七丁目の枝へ来た時。

 木ねずみの妖精ワトソンさんの家の屋根を、丁度ボッヘ親方とトッドさんが直していま

した。

「おおいトッド。そこの材木を持ち上げてくれ」

 ボッヘ親方に言われて、下で材料を切っていたトッドさんは、雪の重みで折れてしまっ

た古い屋根の支えの代わりの材木を持ち上げました。

 その時、その材木の上にレスワウサギが飛び乗りました。

「わっ? なんだこいつっ?」

 びっくりしてトッドさんが材木を振ると、ウサギはそのままぴょーんと屋根へと飛び乗

りました。

 招かれざる珍客の登場に、ボッヘ親方は驚いて釘を打つ手を止めました。

「なんだい、あんた?」

 ウサギはいじわるな表情でにやりと笑うと、杖を振り上げました。

「レス——っ!」

 ところが、屋根はまだ修理中で、ウサギの足下も受け板が張っていなくて穴が開いてい

ました。気付かずに思い切り杖を振ったウサギは、そのままバランスを崩して穴に落ちそ

うになりました。

「わーっわわっ!」

 手をぐるぐる回して、ウサギは何とか落ちないようにと踏ん張ります。しかし、何度も

手を回した事で、魔法が何回もボッヘ親方に当たってしまいました。

「あ——……」

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