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その14 レスワの壷(1)

さて。

今回のお話は「レスワの壷」です。


パッセルベルの月一の市場で起こった、珍騒動。


何があったのやら?

 パッセルベルでは、毎月一日に行商の人達が来て、市場が立ちます。

 市場は旅芸一座がテントを張っていた、あの南の一番下の大枝に出来ます。

 雪が止み、青空が覗いた冬の日を、妖精達は『冬の王の休息日』と呼びますが、そんな

久々に晴れた日に、市場が立ちました。

 この日はいつもの市より行商人が多く、食料品は元より、衣服やアクセサリーなど、普

段はパッセルトーンまで出かけなければ買えないような品物も、並んでいました。

 冬の柔らかい日射しを受けてきらきら輝く貝殻のネックレスや指輪は、女の子達の気を、

大いに引きます。

「ねえねえ、このイヤリング可愛いっ」

「あっ、こっちのネックレス、ピンク貝の殻をハートに削ってあるっ」

 ハナハナとニーニャ、そしてエマも、綺麗な洋服やアクセサリーを、あっちこっちと見

回します。

「私、お姉さんからリックル硬貨を三枚貰ったんだけれど、これでお買い物出来るかなぁ」

 リックル硬貨は、妖精の社会での通貨です。主に大きな街で使われていますが、物々交

換の多いパッセルベルのような田舎では、あまり見かけません。

 ハナハナの手の中のリックル硬貨を見詰めて、エマとニーニャは感嘆の声を上げました。

「うわあ、すごいっ。私、リックル硬貨見るの初めてっ」と、ニーニャ。

 いつもは、何でも持ってるわ、と威張るエマも、

「私はお父さんから貰った事はあるけど……。三枚なんて、持った事ないわ」

 ハナハナが照れくさそうに微笑んでポケットに硬貨を終った時。

「ハナハナ」後ろからミィミが呼びました。

「お姉さん」

「モモとフレイを見かけなかった? 私が八百屋さんへ寄ってる間に、どうやらはぐれて

しまったみたいなのよ」

 ハナハナは、最初ミィミと姪のモモ、そして甥のフレイと一緒に市場に来たのですが、

途中で友達のニーニャとエマに会って、ミィミ達と別れたのです。

 それでも、ミィミ達とそんなに離れていた訳ではなく、ハナハナ達が居るアクセサリー

の屋台とミィミが行っていた八百屋の屋台は、通りを挟んですぐ近くでした。

「えっ? さっきまで隣の帽子屋さんで、子供用の帽子を見てたけど……」

 みんな一斉に、帽子屋の方を向きました。

「いないわ。きっと面白いものを見付けて、また先へ行ってしまったのね」

 ミィミは困った顔で辺りを見回しました。

「大変っ。探さなきゃ」

 ここは何と言ってもトネリコの一番下の枝です。その下はすぐに地面。その先はパッセ

ルの森です。森には幼い動物や妖精の子を狙う、獰猛な獣もいます。

 まだ小さなモモとフレイがうっかり枝を降りてしまったら、大変な事になります。

「私っ、枝元の方を探して来るっ」

 買い物の楽しい気分も何処へやら、慌てて駆け出そうとするハナハナに、友達二人が言

いました。

「待って、私も行くわっ」

「私もっ」

「ごめん、じゃあ手伝って」

「じゃ私は枝先の方に行くわね」

 わかった、と頷いて、ハナハナとニーニャ、エマの三人は、人混みを分けて駆け出しま

した。



 その頃。

 自分達が居なくなったために、お母さんやハナハナが心配しているのも全く気にしてい

ないモモとフレイは、枝先に近い屋台の近くにいました。

 そこは、幾つもの枝が上下左右に別れているところで、屋台によっては上の枝に黒い天

幕を掛けすっぽり覆っているところがあります。

 全体的に黒っぽい店が多く、そのせいか、葉のない季節なのにその道だけ何となく薄暗

い感じでした。

「何だか、気味悪いとこに来ちゃったね……」

 黒いテントの側を通りながら、モモはフレイに小さな声で言いました。

 お姉さんの右側を歩いていたフレイは、ぷっと頬を膨らませました。

「ぼく、恐くなあいもんっ」

 大きな声で言うなり、フレイはたたっ、と斜め左の店へと駆け出しました。

「あっ、フレイっ!」

 後を追ってその店に近寄ったモモは、店の台に乗っているものを見てびっくりしました。

 大きなトカゲの干物です。

「ひっ……」

 その他にも、乾燥したオオグモや、大きなガラス瓶に入ったナマズ、乾かしたイラクサ、

首と胴が切り離された、干涸びたマンドラゴラ、などなどが、所狭しと並んでいました。

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