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その13 星祭(5)

「……アー…?」

 男の子が、毛布の中から手を伸ばして、ハナハナの白い頬に触れました。

 泣いているハナハナに「大丈夫だよ」と言っているように、淡く笑いました。

 ハナハナは自分の頬に触れる小さな手を握り締めると、目を閉じて泣きました。

「ごめんね……、何もしてあげられなくて……」

 不意に、男の子の手から力が抜けました。驚いたハナハナは、目を開けて男の子を見ま

した。

 すると、目を閉じた男の子の額の辺りから、白い光の玉がふわり、と浮き上がって来ま

した。

「え……?」びっくりして光を見詰めるハナハナに、それまで黙ってみんなの話を聞いて

いた村長のサウルが、静かな声で言いました。

「これは、この子の魂だよ。『天使の卵』は死ぬと一度星になる。それから、天使に変わ

るんだ」

 光は、きらきらと輝きながら天井近くまで上りました。しばらくほんものの星のように

辺りに淡い光を投げ掛けていましたが、突然、ぱんっ、と弾けてしまいました。

 眩い閃光に、ハナハナもティーヴも、みんな一瞬目を閉じました。両手で目を被ったハ

ナハナの耳に、可愛い声が聞こえて来ました。

『ありがとう、妖精のお姉さん』

 ハナハナは、慌てて目を開けました。すると、男の子の星があったところに、小さな羽

をつけた天使が浮いていました。

『僕のために泣いてくれて。僕は、お父さんお母さんに捨てられたけど、最後にお姉さん

のような優しい人に出会えて嬉しかった。ただ、お父さんお母さんの事も誤解しないでね。

二人は僕を本当に愛してくれていたんだ。でも、とっても貧しくて、身体の弱かった僕を

育てられなかったんだ。』

「でも、だからって大事な子を捨てるなんて……」

 ハナハナは涙声で、小さな天使に言いました。小さな天使は笑うように、小さく羽を動

かしました。

『うん。でも、僕を緑龍渓谷に捨てたのは、ここに妖精が住んでいるって聞いたからなん

だ。捨てられた僕を妖精が見付けたら、きっと悪いようにはしないだろうって。本当だっ

たでしょ? お姉さんも、助けてくれた狩人のおじさんも、みんないい人だった』

「おまえさんのご両親は、おまえさんがもう長く生きられないのを知っておられたんじゃ

な」

 長老の言葉に、天使は『はい』と頷きました。

『家で僕が死んだら、お葬式を出さなければなりません。でも、お父さんお母さんには、

お葬式を出すお金が無かったんです。だから、ここへ僕を置いていったんです。……別れ

る時、お母さんは「ごめんね」って、僕を抱き締めてくれました。僕は、もうそれだけで

何もいらないんです』

 ハナハナはまた泣きました。

 優しい天使は、『泣かないで』と小さな小さな手で、ハナハナの頬に触れました。

『僕はもう行くけれど、みんな元気でいて下さい。本当に、ありがとうございました』

 その声が消えないうちに、小さな天使はまた光になり、消えました。

 魂は天使になって何処かへ消えても、人間は妖精とは違います。魂の抜けた男の子の身

体は、そこに残りました。

「さて、墓を作る場所も無いしのぉ」

 長老は、眠るような男の子の亡骸を見下ろして、顎鬚を撫でました。

「『龍の墓場』なら、人間を埋葬する事も出来るでしょう。ですが、我々はあそこには立

ち入れない」

 村長の言葉に、ティーヴも頷きました。

「あの、『龍の墓場』って……?」

 知らない場所の名前に、ハナハナはティーヴを見上げました。

「緑龍渓谷の一番奥、龍王の山脈の中に、古代の龍達の亡骸が葬られている場所がある。

それが『龍の墓場』だ」

「そうなんだ……」

「だが、そこは強い結界と障気に満ちていて、我々妖精は入れない。入れるのは、人間と、

強い魔力を持つハイエルフ、それに高位の妖魔だけだ」

「じゃあ、この子の身体は?」

 ハナハナの問いに、大人三人は顔を見合わせました。

「パッセルベルから離れた場所なら、埋葬出来るが……」

「その前に、我々ではそもそもこの子の遺体には触れられませんよ? お父さん」

 村長の意見に、長老は「ふむ……」と唸りました。

「運ぶのは、俺が出来ます」ティーヴが言いました。

「しかし、埋葬は……。あれは穢れの行為ですから。いくら俺でも無理です」

「清めの儀式が出来るのは、人間かハイエルフのみじゃしのお」

 難しい顔をして、三人は黙ってしまいました。

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