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その13 星祭(4)

 それきり、ティーヴは何も話しませんでした。元々無口な人なので、ハナハナもそれ以

上は聞きませんでした。

 程なくして、二人はトネリコの梢の長老の家へ着きました。

「ごめんください」玄関で声を掛けると、すぐに扉が開きました。

 開けたのは、村長のサウルでした。

「こっちへ」村長は、ハナハナ達を一階の小さい方の部屋へ招きました。

 そこは、村の人が集会に借りる大部屋の左側にある部屋で、ハナハナは初めて入りまし

た。

 扉を開けると右に暖炉があり、その前に長老が椅子に腰掛けて待っていました。

「子共が熱を出しました」

 ティーヴは、肩に担いでいた男の子を、長老のすぐ後ろの大きな長椅子の上に下ろしま

した。

 長老は「ふむ」と白いひげを撫でると、立ち上がって毛布にくるまれた男の子を見まし

た。

 男の子は、目を閉じて苦しそうに息を継いでいます。長老はその額に手を当て、じっと

目を閉じました。

「……なるほどの」

 長老は、ゆっくりと男の子から手を離すと、ティーヴとハナハナの方へ向き直りました。

「どうやら、この子は寿命が尽きておるようじゃ」

「えっ?」ハナハナは驚いて声を上げました。

「じゃあ、死んじゃうのっ?」

「残念じゃがの。重い病を抱えておるようじゃ。それに併せて、『天使の卵』……」

「では、やはりこの子は緑龍渓谷に捨てられたのでしょう」

 ティーヴの言葉に、ハナハナは更に驚きました。

「捨てられたって……、本当のお父さんお母さんが、子共を捨てるの?」

「ハナハナや」長老は、静かに言いました。

「人間というのは、時として残酷な行為をする者がおるのじゃ。妖精のわしらには、まず

考えられんがの。この子のように、育たない、育てるのが難しいと思われた子供は、人間

の親は、たまに捨ててしまう事もある」

「だって……、だって、生きてるのに……」

 どうして、そんな事が出来るのでしょう? どんな子供にも、親に愛されて生きる権利

がある筈です。もちろん、不慮の事故や病気で両親を失ってしまった場合は仕方ないです

が、そうでなければ、親は大事に子供を育てるのが、愛するのが普通な筈です。

「この子が、『天使の卵』だから、捨ててしまったの? それとも病気だから? それと

もその両方だから? もしかして、病気が治れば迎えに来てくれるんじゃ……」

「それは、あるかもしれんがのぉ」

 長老は、ふっ、と天井を仰ぎました。

「病気は、どうやっても治らないんですか?」

 ハナハナは、長老とティーヴを交互に見ました。

「あのっ、私……」ハナハナは、思い切って聞いてみようと思いました。

『光の子』ってなんなのだろう。もし、自分がそれで、『光の子』に人を治す力があるな

ら、やってみたい。

「長老さまっ、その……、『光の子』って何ですか?」

 長老は、ちょっと驚いた顔でハナハナを見返しました。

「前にトーベルさんがマーフに、『光の子が居るから安心だ』っておっしゃってましたよ

ね。あれって、光の子が、悪いものを排除出来るからなんですか? もしそうなら、その

……、私が、光の子なら……」

「……病気を治す事は、出来んよ、ハナハナ」

 長老は、優しい声で言いました。

「確かに、光の子は魔を退ける星を持っておる。なるほど、ちょっとやそっとの病なら、

その力で治す事も出来るかもしれん。じゃがの、それにも限界がある。まして、この子の、

この、『天使の卵』の病は重病じゃ、それにもう、命数が尽きておる。これは、いくら光

の子の力でも、覆す事は出来ん」

「ハナハナ」ティーヴが厳しい声で言いました。

「おまえの気持ちは分かる。子を捨てるなど、理不尽極まりない話だ。親としても、生き

るものとしても、してはならない行為だ。だが、現実に人間はそういう者も居る。それを、

俺達はどうする事も出来ないし、する権利もない。……辛いが、この子の死を、俺達は受

け入れなければならない」

「……だって……」ハナハナは、朦朧と目を開けた男の子を見下ろして、涙が溢れて来ま

した。

「こんなのって、あんまり可哀想過ぎるよ……」

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