その13 星祭(1)
今回のお話は、星祭です。
パッセルベルの、お盆のような行事です。
でも、お祭り前にひとつ、ハナハナには衝撃的な事がありました。
冬も盛りになる頃。
パッセルベルでは『星祭』というお祭りが行われます。
妖精は、死ぬと身体は大気に還りなくなります。でも魂は消えずに、太母と呼ばれる天
の神様の元へと戻ります。
そして真冬、太母のところからもう一度、魂は星となって地上に戻って来るのです。
その魂を迎えるお祭りが、『星祭』です。
お祭りには、様々な食べ物が用意されます。パン、野菜の煮物、木の実のお菓子、果物
のパイ、などなど。すべて、星となって戻って来る人々のための食べ物です。
もちろん、生きている人々も、その御相伴に預かります。特に子供達は、果物のパイと
木の実のお菓子は大好物。星祭りが楽しみでなりません。
「ねえお姉さん、今年は何のパイを作るの?」
台所で、かまどの調子を見ていたミィミに、ハナハナはうきうきと聞きました。
「去年は梨のパイだったでしょ? 今年は?」
「今年は、秋に野ブドウを一杯貰ったから、そのパイにしようと思うの」
そう言えば、風が北風に変わった頃、コウノトリの妖精の郵便屋さんが大きな箱を家に
配達に来ました。
「あの箱の中に、野ブドウが入ってたの?」
「ええ。赤龍山脈の村のミミズクの妖精スミスさんから、ティーヴ宛に届いたの」
「赤龍山脈って、随分遠いんでしょ? そんなに遠くの人から?」
「以前、緑龍渓谷の狩り場で、旅の途中で怪我をして動けなくなっていたスミスさん達を、
ティーヴが助けたのよ。そのお礼にって」
「ふうん……」
そんな話は、全然知りませんでした。ハナハナは初めて聞く話に、耳をぴくぴくっと動
かしました。
「知らなかった」
「そうね。ティーヴは猟の途中に、よくそういう人を助けるし。だから別に珍しい事じゃ
あなかったから、ハナハナ達には話さなかったかもね」
野ブドウが来なかったら、ハナハナもモモとフレイも、ティーヴの人助けの話は知らな
いままだったかもしれません。
ハナハナは、それはちょっと嫌だな、と思い、ミィミに言いました。
「ねえ、今度からは、お義兄さんの人助けのお話、聞かせて?」
「分かったわ」ミィミは微笑んで頷きました。
「さて。かまどの調子もいいようだから、パイを作る前にお昼を作ってしまいましょう」
ミィミは、豆のスープの材料が入った鍋を、かまどの上に乗せました。
ハナハナは、お玉を持ってスープの番を、ミィミは棚の上のパンを下ろして切り分け始
めました。
と、いきなり玄関の扉が開きました。
「あら、ティーヴ」
今朝早く狩りに出掛けたティーヴが、戻って来ました。
「お帰りなさい。今日は随分早いのね?」
ティーヴは「うん」と頷くと、くるりと外を向きました。そして「おいで」と何かに手
招きします。
「?」ハナハナもミィミも何だろうと首を傾げた時。戸の陰から男の子が現れました。
「まあ」
男の子には、尖った耳も尻尾も、ふさふさの毛並みもありません。トーベルさんと同じ
ような真直ぐな金色の髪が、頭の上から肩の辺りまで垂れています。
「この子、妖精?」
「いや、人間の子供だ」
「えっ?」二人は驚いて、まじまじと子供を見ました。フレイと同じくらいの背丈の男の
子は、ミィミとハナハナに見詰められて、にっこりと笑いました。
「アー……?」
「どうして、人間の子が緑龍渓谷に?」
「どうやら、親に捨てられたらしい。——とにかく中へ入れてやってくれ」
ミィミはティーヴに言われて、男の子の手を取り中へと入れました。
ハナハナは、黙って男の子を見ていましたが、入って来た時初めて、その子が裸足なの
に気が付きました。
「お姉さん……」
先に気が付いていたらしいミィミは、何も言わずに頷きました。
とにかく男の子を椅子に座らせ、ミィミは狩りの道具を隣の部屋に片付けて戻ったティ
ーヴに尋ねました。
「何処であの子を?」
「リリクの滝の少し先だ。……実は、先に見付けたのは俺じゃないんだ。コウノトリの郵
便屋が、あの子が熊に襲われているのを助けたんだ」