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その12 冬の王(3)

 精霊達は、驚いた様子でみんな空中に飛び上がりました。

 ハナハナは、今度は光の魔法を使いました。くるりと人さし指を頭上で回すと、そこに

小さな光の玉が出来ました。それを、精霊達に向かって投げたのです。

 火と同じく、太陽も苦手な雪達は、熱くはないけれどもお日さまのように明るい光にび

っくりして、皆一斉に上空の雲に戻って行きました。

「……ふんっ」

 慌てて飛んで行く雪の精霊を見ながら、ハナハナはほっと肩の力を抜きました。

「もう大丈夫。お家へ帰ろうね」

 こわごわ上を見ていたモモとフレイに、ハナハナはにっこり笑いました。



 何とか雪の精霊を追い払って家へ戻って来たハナハナ達ですが、恐かった緊張と、冷た

い精霊に触られたせいで、モモは熱を出してしまいました。

「だから言ったのに」

 ぐったりしたモモをすぐに寝かし付けて、ミィミは溜め息をつきました。

「雪の精霊に寄られたら、きっと寒さでまた風邪を引くと思ったわ」

「ごめん、なさい……」

 出してあげればと言って、二人を外で遊ばせたハナハナは、反省してミィミに謝りまし

た。

「私が、もっとよく注意してなかったから」

「ハナハナのせいじゃないわ」

 しかし、ミィミは首を振りました。

「モモが行きたいって言い張ったんだもの。モモが悪いのよ」

「でも……」

「ハナハナは、雪の精霊が降りて来た時、すぐにモモ達を呼んでくれたんでしょう?」

「うん……」

 それは、確かに呼びました。けれどあの時、呼ぶだけでなくすぐに側に行っていれば、

モモとフレイに精霊達が触らなかったかもしれません。

 俯いたハナハナの頭を、ミィミの柔らかい手がそっと撫でました。

「いいのよ。ハナハナが気にしなくっても。……さて、おばかさんに熱冷ましを飲ませま

しょうね」

 ミィミは台所の食器棚の上に置いた篭の中から、小さな薬瓶を取り出しました。

「……と。あらあら、熱冷ましが無くなってるわ。どうしましょう」

 ハナハナは顔を上げました。困った様子の姉に、言いました。

「私っ、お薬貰って来るっ」

 ミィミはびっくりした顔で、小さな妹を見ました。

「さっき戻って来たばかりでしょ。また雪の中を出掛けたりしたら、今度はハナハナが風

邪を引くわよ?」

「私は大丈夫っ。丈夫だもん」

 ハナハナは、赤ちゃんの頃から病気をした事がほとんどありません。その事は、育てた

ミィミが一番よく知っています。

「でもね」

「行かせてっ。私なら雪でも駆けられるし。すぐにモルガナさんのところへ行って帰って

来られるからっ」

 お願い、というハナハナに、ミィミは根負けした顔で微笑みました。

「じゃあ、お願いするわね。ただし、用心して行く事。急いで思い切り駆けたりしちゃダ

メよ?」

「はいっ」

「あー、お姉ちゃんまたお外行くの?」

 食卓で、ブランケットを被って熱いお茶を飲んでいたフレイが、うらやましそうに言い

ました。

「僕も行くっ」

「ダメよ。ハナお姉ちゃんはお遣いに行くの。フレイはお留守番」

「やだっ。僕もお遣いくらい出来るもんっ」

 むっとして言い返す甥っ子に、ハナハナはめっ、と睨みました。

「ダァメっ。今度はフレイが風邪引くよ。あんたまで風邪引いたら、おかあさん困っちゃ

うでしょ?」

「ハナお姉ちゃんだって、風邪引くよっ」

「私は大丈夫なの。……じゃ行って来ます」

 言いながら手早く支度を終えたハナハナは、ミィミから銀貨を受け取り、戸口へ向かい

ました。

「くれぐれも、気を付けて」

「はぁい」

 勢い良く飛び出した外は、さつきより幾分雪が上がっていました。

 今のうち、と、ハナハナは雪の積もったトネリコの枝を、モルガナ婆さんの家のある西

の下枝まで、思い切りよく駆け出しました。

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