その12 冬の王(1)
パッセルベルにも、本格的な冬がやってきました。
雪を降らすかわいらしい精霊。『雪の精』。
でも、冷たいのが嫌いなハナハナ達妖精の子供は、雪の精に触られるのが大嫌いです。
さてさて、どうなりますことか?
リンドンさん達の結婚式が済んだ七日後、本格的に雪が降り出しました。
「今年も来たわねぇ」
洗濯物を部屋の中に張ったロープに掛けながら、ミィミは窓の外を見ました。
「今年は、去年より雪の精霊の数が多いのかしら。よく降るわね」
窓から見えるトネリコの小枝は、すっかり白いお化粧をしています。
アルベルト先生から借りて来た本から目を上げたハナハナは、むっとした顔で言いまし
た。
「私、雪の精霊大嫌いっ。冷たい手で顔を触って来たり、勝手に手を掴んだりするんだも
の」
雪の精霊は、冬を迎えた土地に冬の王と共にやって来ます。王がその土地から次へ動く
まで、その地域の中を好き勝手に遊び回るのです。
人間には見えませんが、妖精であるパッセルベルの人々には、雪の精霊が十歳前後の透
き通った少女の姿で見えます。
目を三角にして怒る妹に、ミィミはくすっと笑いました。
「ハナハナに遊んで欲しいのかもね?」
「やあだっ。あんな冷たい子達、いやっ」
雪を降らせる精霊は、もちろん人でも妖精でもありませんから、眠ったり何かを食べた
りもしません。
疲れ知らずに飛び回り、雲の上の王の城から降りて来てはまた飛び上がって戻って行き
ます。
季節の精霊達は、どれもそうですが、勝手気ままに妖精の村や町の中をうろつきます。
「春のお花の精霊は好き。とってもいい匂いで、時々花びらを蒔いていってくれるもの」
長い髪の、若い娘の姿をした花の精霊達を思い出してにっこり笑ったハナハナに、
「そうね」とミィミは微笑みました。
「でも、雪の精霊も可愛いわよ?」
「かわいくないっ。来るといっつもまとわりついて、邪魔だもの」
ハナハナがぱんっ、と大きな本を閉じた時、隣の部屋からモモが入って来ました。
「おかあさあん、お外に遊びに行ってもいい?」
「ダメよ。お外は大雪。出て行ったら、また風邪を引くわ」
モモはぷうっ、と膨れました。
「えー、だって昨日もお外に出られなかったもん」
「昨日も雪がたくさん降ってました。今日もダメです」
ミィミは洗濯篭を台所の隅に置くと、食卓の上のタオルを畳み始めました。ハナハナも
手伝います。
その側に寄って来たモモは、ミィミのエプロンを引っぱりながら、また駄々をこねまし
た。
「行きたいっ。お外行きたいっ」
「ダメですったら」
「お姉ちゃん、外行きたいの?」
何時の間にかお昼寝から起きた弟のフレイが、言いました。
「フレイは関係ないのっ」
モモは、隣室の入り口に毛布を引き摺ったまま立っている弟を、きっと睨みました。
「でもおかあさん、ダメって言ってるよ?」
「フレイはダメなの。でも私はいいのっ」
「なんで僕はダメなの? 僕も行きたいっ」
四歳のフレイも一緒に駄々を言い始めました。ミィミは困り顔で、腰に手をあてました。
「しょうがないわねぇ」
「ちょっとだけならいいんじゃない?」
ハナハナの言葉に、小さな姪と甥は、うんうん、と頷きました。
「ハナハナ……」
ミィミは、横目で妹を睨みました。
モモとフレイは、お母さんに手を合わせてお願いします。
「お家の前だけっ」
「すぐ帰るからっ」
「じゃあ、ちょっとよ? これ以上雪の精霊が集まって来るようなら、すぐにお家に入り
なさいね?」
子供達はわあい、と歓声を上げると、支度をしに部屋へと戻りました。
「あなたも付いて行ってくれる?」
ミィミは渋い顔でハナハナに言いました。
「モモもフレイも、多分夢中になって遊んでると、雪の精霊が近くに来ても分からないと
思うから」
「うん、分かった。……私が言っちゃったんだしね」
「そうよ。よろしくね」
はあい、と返事をして、ハナハナも本を持って部屋へ戻りました。