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その10 赤い帽子青い帽子(7)

 ハナハナは困って、ミィミを見ました。ミィミは隣のティーヴをちょっと見ました。

 ティーヴは、笑って頷きました。

「いいんじゃないのかい、ハナハナ。気持ちよくもらっておきなさい」

「はいっ」

 袋の中は、開けてみるとピンク色の造花のついた、可愛い帽子でした。

 ハナハナは早速帽子を被ってみました。

 長老や魔法自慢の人達がいくつも浮かせた魔法の明かりに、新品の帽子がとてもよく映

えて、ハナハナはますます嬉しくなりました。

「ありがとう、アマンダさん」

 何度もお礼を言うハナハナに、アマンダさんはちょっと照れくさそうに言いました。

「そんなにいいのよ。ほんとにお礼を言いたいのは、私達の方なんだから」

「そうなんですか?」

「今リンドンが被ってる帽子、これ、私が作ったの」

 それを聞いて、ミィミもハナハナも事情が分かりました。

「もしかして、約束したの? アマンダ」

 アマンダさんはリンドンさんの顔を見ました。リンドンさんは幸せそうに微笑むと、

「ええ」とミィミに言いました。

「姉には、明日にでも会って伝える積もりです」

「おめでとうっ。リンドン、アマンダっ」

 ミィミは自分の事のように喜ぶと、大声で周囲の人達に言いました。

「みなさん、聞いて下さいっ。リンドンとアマンダが結婚の約束をしましたっ」

 わっと歓声が上がりました。みんな手にしたぶどう酒のグラスを高く上げて、おめでと

うと言いました。

 その晩のパーティは、パッセルベルの人々にとって、一番楽しいパーティになりました。

 飲めや踊れの楽しいひとときに、みんか昨日の仕事の疲れを忘れてはしゃぎました。

 ハナハナ達子供も、この日ばかりは夜遅くまで起きていても叱られない嬉しさに、みん

な友達と騒いだり食べたりしていました。

 晴れた夜空には、月見の宴に誘われ満月が、淡い黄色い光を煌々と放っていました。

 宴も終わりに近付いた頃、ハナハナは大枝の先の方で二人きりで寄り添い月を見ている

リンドンさんとアマンダさんを見ました。

 アマンダさんが作ったリンドンさんの青い鳥打ち帽が、二人が何か話す度につばを内側

にそっと向けます。

 アマンダさんの赤い帽子が、それに答えるように揺れていました。

 やがて、赤い帽子は大きく傾いて、リンドンさんの肩へもたれ掛かりました。

 それを見て、ハナハナはそっとその場を離れました。

 その晩、ハナハナはとっても幸せな気分でベッドへ入りました。



 冬の色がちらほらと出て来た頃。

 リンドンさんとアマンダさんは結婚式を挙げました。

 ドレスは例によって、マーマおばさんと奥さん会の手作りです。しかし、帽子型の変わ

ったベールは、アマンダさんが自分で作りました。

 雪のようなトネリコの花を造花にした帽子のベールの綺麗さに、パッセルベルの女の子

達は、みんな素敵、と目を輝かせました。

 リンドンさんのお姉さんのレニアさんは、式の間中おんおん泣いていました。

「こんなに早く、お嫁さんが決まってっ。しかも一番いい人が来てくれてっ」

 感激して泣くレニアさんの肩を、ミィミがずっと抱いていました。

 長老が祝辞を言い終え式が終わり、披露パーティになりました。

 ハナハナはニーニャやエマと一緒に、花嫁さんに花束を渡しました。

「ありがとうハナハナ。あなたは私達の幸運の天使よ」

「え、そんな……」

 照れるハナハナに、二人は微笑み合いました。

 そして冬も盛りの季節。

 リンドンさんは遠い人間の街で開かれる自分の絵の展覧会のために、せっせと絵を描い

ていました。

 遊びに行ったハナハナが見せてもらったのは、マーフの泉の前に立つアマンダさんの絵

でした。

「前は風景ばかりだったんだけどね、最近は風景にアマンダを入れて描いてるんだ。と、

いうより、アマンダのバックに好きな風景を入れてる、かな?」

 リンドンさんは、嬉しそうに話してくれました。

 アマンダさんはお茶を煎れながら、にっこり笑って旦那様の話を聞いていました。

「アマンダの帽子のデザインも手伝ってるんだ。季節の花の絵を描いたり。アマンダは造

花を作るのも上手なんだよ。あ、ハナハナは知ってるよね?」

 ハナハナは、幸せそうな二人と少し話して、それから帰りました。

 トネリコの木はすっかり葉を散らし、幹や枝にはうっすらと雪が積もっています。

 冷たい雪なのに、ハナハナには何故かあたたかな綿のように見えました。

 家へ帰ってミィミにその話をすると、

「そうね。寒い冬にひとりは辛いけど、リンドンもアマンダも、今年の冬はあったかいわ

ね」と笑いました。

 お昼寝から起きたモモが二人の話を端で聞いていて、

「なにはなしてるのー?」と興味津々で寄って来ました。

 ハナハナはわざと意味ありげに笑って言いました。

「いいの、大人の話」

「あーっ、ずるーいっ! お姉ちゃんだってまだ十歳じゃないっ!」

 モモが、いつものようにまたぐずぐすと文句を言い始めました。

 ミィミが「あとでね」とごまかします。

 その様子を見ながら、家族が居るっていいことだな、とハナハナは思いました。

 ——私も、いつかお姉さんやアマンダさんみたいに、素敵な人や家族と暮らせるかな。

 窓の外は、また雪が降り出しました。

 きっと、大丈夫だよね、と呟いて、ハナハナはふわり、と微笑みました。


 その10 赤い帽子青い帽子 完

その10 赤い帽子青い帽子は、これで終わりです。

いかがでしたでしょうか?


次は、ちょっと息抜きの2回目。

『エトセトラ2』です。


今回は、妖精や妖魔の、持って生まれた能力のお話です。

特別な能力は『星』と呼ばれています。


さて、ハナハナの星は?


お楽しみに!

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