その10 赤い帽子青い帽子(5)
「え……?」
「だて、大好きな帽子作り没頭していられるんですもの」
そう言って、アマンダさんは笑いました。でも、その顔は疲れて力がありません。
「けど、本当に忙しくて大変。……じゃあ、やっぱりハナハナに手伝ってもらおうかしら
?」
ハナハナは喜んで「はいっ」と返事しました。
初めてアマンダさんの仕事室に入ったハナハナは、びっくりしました。
まず目に入ったのが、壁に幾段にも並んだ長い棚でした。棚の上には色々な型の帽子が、
赤青黄と色分けされて所狭しと並んでいます。
窓際には大きな裁縫用の机、そして、部屋の真ん中に色とりどりのリボンや造花の乗っ
た作業机がありました。
「ハナハナは、そこへ座って」
アマンダさんに勧められたのは、作業机の前の椅子でした。ハナハナは赤いリボンが綺
麗に並べられた机の前に、ちょこんと腰掛けました。
「出来た帽子にリボンを巻くの。簡単だから、すぐに出来るわ」
アマンダさんは、赤い帽子を二つ手に取ると、ひとつをハナハナに渡しました。
残ったひとつを持って、「ゆっくりやるから見ててね」と言いました。
ハナハナは、アマンダさんが綺麗にリボンを帽子に回していくのを、真剣に見詰めてい
ました。
そして、今度は自分がリボンを持って、掛けてみました。帽子の生地が固く滑り易いの
で、最初は苦労しましたが、何度かやり直すうちに綺麗に掛けられるようになりました。
「そう、上手よ」
出来たものを見て、アマンダさんが微笑みました。
ハナハナは、次々に帽子にリボンを掛けて行きました。くるりと回して、ちょう結び。
その後、アマンダさんがリボンを糸で軽く止めます。
二、三時間で、ハナハナはすっかりリボン掛けに慣れました。
「じゃあ、次は造花を付けてみましょう」
アマンダさんのやり方を手本に、ハナハナもリボンの結び目に造花を飾りました。
今は秋の赤い実や、綺麗な紅葉が主役です。それを組み合わせて、形よく帽子に飾るの
は、とっても楽しい仕事でした。
時間が経つのも忘れてお手伝いをしていたハナハナは、作業場の棚の隅に置かれた小さ
な置き時計の音で、はっと時間を思い出しました。
「ああ、もう夕方ね。……今日はこれくらいにしましょう。ハナハナもお家へ帰らないと」
「あ、はい……」
微笑んで、アマンダさんはハナハナから帽子を受け取りました。
「あの、明日また来ていいですか?」
帰り際、ハナハナが聞くと、アマンダさんは笑って「いいわよ」と言ってくれました。
次の日も、ハナハナは朝のお手伝いが済むと、急いでアマンダさんの家へと行きました。
作業室へ入ると、昨日とは違って、作業台には男物の帽子が並んでいました。
男物にはリボン掛けはありません。
「あの……?」
「ああ、今日は、女物の帽子をパッセルトーンのお店に届けようと思うの。ハナハナも一
緒に来る?」
「はいっ」
パッセルトーンには、年に数回ミィミと買い物に行くくらいしか、ハナハナは行った事
がありません。
パッセルベルより全然お店の多いパッセルトーンへ行くのは、とっても楽しみです。
「あ、でも……」遠出をするなら、ミィミに言っておかなければなりません。それを話す
と、アマンダさんは、
「いいわよ。待ってるから言ってらっしゃい」
と、優しく言ってくれました。
ハナハナは急いでアマンダさんの家を出ました。リンドンさんの家の前を通り過ぎよう
とした時。
急に家から出て来たリンドンさんとぶつかってしまいました。
「きゃあっ!」
「あっ! ごめんっ!」
転んだハナハナを、リンドンさんはすぐに立ち上がらせてくれました。
「ごめんね。大丈夫? 怪我はないかい?」
「はい」どこも、痛いところはないので、ハナハナは素直に頷きました。
と。リンドんさんは、はっとしたように水色の目を見開きました。
「きみ、ミィミのところのハナハナ、だよね?」