その10 赤い帽子青い帽子(4)
自分がどんなに綺麗な心の持ち主なのかを。
リンドンさんがそれを知っていれば、絶対アマンダさんを好きになるはず。
そう、ハナハナが言おうかどうしようかと思ってると、ミィミが口を開きました。
「そんな事ないわ。あなたはとっても素敵よ。妖精なら、心が綺麗な人は姿も綺麗だって、
絶対知ってるもの、リンドンは必ずあなたを誘うわ」
「そう……、かな?」半信半疑なアマンダさんに、ミントさんが力強く頷きました。
「絶対よっ」
二人が帰ってから、ミィミがハナハナに言いました。
「ハナハナは、アマンダさんの応援をしたいような顔、してたものね」
「え? じゃあお姉さん、私の心を読んだの?」
ミィミが魔法を使ったのかとびっくりしたハナハナに、ミィミはくすっと笑いました。
「顔に描いてあったのよ。……それにしても、アマンダ、やっぱりリンドンが気になって
たのね。さて、これからどうやったら、二人をくっつけられるかしら?」
「あーっ、お姉さんだって、くっつけるなんて言ってるぅ」
自分を注意しといて、とハナハナはわざと頬を膨らませました。ミィミは肩を竦めてぺ
ろっと舌を出しました。
「けどほんと、どうやったらあの二人の仲を取り持てるかしらね?」
「お姉さん、帽子は?」
「帽子?」
「うん。男の人に、自分が一番いいと思う帽子を被ってパーティに来てもらうの」
だめかな、と、ハナハナはミィミの顔を見ました。
ミィミにちょっと考えてから、「うん、そうね」と頷きました。
「そう言えば、パッセルベルの男衆は、みんなお気に入りの帽子を、ここぞって時には被
って来るわ。アマンダがリンドンに帽子を送れば……」
「ね? いいアイデアでしょ」
「じゃあ、みんなにそれを話してみましょう」
奥さん会で帽子の話をしたところ、では男だけでなく女の人達も自慢の帽子を被って踊
ろう、という事になりました。
そうなると、さあ大変です。女の人達は帽子を新調しようと、こぞってパッセルトーン
の洋品店に出掛けました。
パッセルトーンのお店でも、パッセルベルの奥さん達が大挙して帽子やらドレス生地や
らを買うので、おおわらわになってしまいました。
特に帽子は、男性用も売れて、お店は急いで職人さん達に発注を掛けました。
当然アマンダさんのところにも、大量の発注が来ました。
パーティまであと一月とちょっと。アマンダさんは自分のドレスを新調するどころでは
なくなってしまいました。
「困ったわね。これじゃ逆効果だわ」
心配して様子を見に行ったマーマおばさんが、食事もそこそこに針仕事を続けるアマン
ダさんの様子を奥さん達に伝えました。
「みんなで、何とか手伝えないかしら?」
「アマンダに聞いてみるしかないわね」
発案者のミィミも、責任を感じて言いました。
そもそもの言い出しっぺのハナハナも、これは大変な事になったと、ミィミと一緒に手
伝うつもりでアマンダさんの家へ行きました。
しかし。
「大丈夫ですよ。みなさんにご心配お掛けして、すみません」
アマンダさんは、明らかに寝不足だと分かる疲れた顔で、笑って申し出を断りました。
「無理しないで。私達に出来る事なら、何でも手伝うんだから」
「そうよ。そもそもパーティの計画をしたのは、私達なんだし」
口々に言う奥さん達に、アマンダは微笑んで首を振ります。
「ほんとに、お気持ちだけで。これは私の仕事ですし、他所様のお手を煩わせる訳にはい
きません」
きっぱりと断られて、ミィミもマーマおばさんも、他の奥さん達も、手が貸せないもど
かしさを抱えたまま、家へ戻りました。
でも、ハナハナは一度戻ってから、またアマンダさんの家へ行きました。
「すいません」
戸を叩いたハナハナに、アマンダさんは「どうぞ」と中から声だけ答えました。
「あの……、ハナハナです。やっぱり何かお手伝いさせて下さい」
戸を開けて、奥の作業室のアマンダさんに、ハナハナは言いました。
「そのっ、帽子をパーティで、みんなに被って来てもらおうって言い出したの、私なんで
す。みんな、大事にしているご自慢の帽子を持ってるからって……。それが、こんな事に
なって、ごめんなさい」
アマンダさんが、ゆっくり作業室から出て来ました。
ハナハナは、怒られるかと思い、身を縮めて待ちました。
けれど、アマンダさんは優しい声で「そう」と言いました。
「いきなり忙しくなったから、どうしてかしらと思っていたけど。でも、こういう忙しさ
は、私、嬉しいの」