その10 赤い帽子青い帽子(3)
次の日早速、ミィミはネービルさんの家の集まりで、奥さん達にその話をしました。マ
ーマおばさんを始め、マラーニャやネービルさんまで大賛成でした。
「ああ、ダンスパーティなんて、若い頃を思い出すわ。よく、パッセルトーンの春祭りに、
主人と踊りに行ったのよ」
と、ネービルさん。
それを聞いて、マーマおばさんが言いました。
「そういえば、パッセルベルでは、何時の間にか春祭りをやらなくなってましたねぇ?」
「魔王との戦いがあったから。あの頃、みんな戦場へ行った人達の事を考えて、お祭りな
んかは自粛していたでしょ。それがそのままになったのよ」
ワトソンさんの奥さんのリーリアさんが、声を落としました。
奥さん達は、みんな表情を曇らせました。
「……でも、もうあれから十年も経っているのだから、そろそろお祭りもいいでしょう。
ね?」
マーマおばさんが、苦笑という感じで笑いました。
「そうよね……」
「楽しい事を、子供達にも教えてあげないと」
奥さん達は、また元気を取り戻して頷き合いました。
「でも、春祭りじゃあ随分先よね?」
「秋祭りって事で、どお?」
「お月見ダンスパーティは?」
ミィミが、ここぞとばかり言いました。
「それ、いいわねっ」奥さん達がみんな賛成しました。
「じゃあ、それで長老にお話しましょう」
掛け合う役をミィミがかって出ました。
ミィミは、ネービルさんの家の集まりから帰ってすぐに、長老の家へ行きました。
事情を話すと、長老は、
「ふむ、それはよい案じゃ。春の旅芸一座が居なくなってから、村のもんには楽しみが無
い。サウルにはわしから言っておくから、ミィミ達かみさん会で、話をどんどん進めなさ
い」
その話を、ミィミが帰って聞いたハナハナは、嬉しくて、台所で小さく跳ねてしまいま
した。
「ダンスパーティっ!」
「さぁ大変、どんどん準備しなくっちゃ」
「何を着て行けばいいの?」
「そうねぇ」
二人が楽しそうに話していると、子供部屋からモモがやって来ました。
「ずるーいっ、お母さんとお姉ちゃん、二人だけで楽しそうなお話してる」
「あのねぇ、村でダンスパーティをやるの」
「ダンス、パーティ?」よく意味がわからなくてきょとんとするモモに、二人はあははと
笑いました。
さて。
長老の承諾も得たので、ミィミ達奥さん会は、村中にパーティの話を伝えました。
もちろん、リンドンさんとアマンダさんにもその話は伝わりました。
「やっぱり、パーティには踊る人と一緒に行かなきゃならないのよね……」
この間の風の強い日、ハナハナが大事な売り物の帽子拾ってくれたお礼を言いに、アマ
ンダさんがミィミの家へやって来ました。
ちょうどその時、トッドさんの奥さん、新婚のミントさんが遊びに来ていました。
ちょっと話していけば、というミントさんとミィミの誘いに、アマンダさんは 、
「じゃあ、お茶だけ」と台所へ入りました。
話は自然とパーティのことになり、ミントさんは旦那さんと踊るのを楽しみにしている
ことを、嬉しそうに言いました。
「アマンダは、誰か好きな人はいないの?」
「えっ?」
ミィミの質問に、アマンダさんは急いで首を振りました。けれど、顔は真っ赤です。
「そんな人、いないわ」
「そう……。だったら、お隣の画家さんと行けば?」
突然ミントさんにリンドンさんのことを言われて、アマンダさんはますます真っ赤にな
りました。
「だって……、リンドンさんには、別に好きな人がいるかもしれないし……。私みたいな、
目立たない女じゃ……」
台所の端っこで、自分の椅子を引き寄せて座っていたハナハナは、なるほどと思いまし
た。
アマンダさんは知らないのです。