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その9 わがままエマ(7)

 それから、人間。わしらのご先祖はある程度力を持っている人間にも協力を仰いだ。も

ちろん龍王にも。

 だから、予言から五百年後、本格的に魔王が攻めて来た時には、一致団結して早い時期

に魔王を撃退出来た、ということじゃ」

 長老は、そこで一度口を閉じました。

 リックが「はい」と手を挙げました。

「一度撃退したのに、どうして魔王はまたやって来たんですか?」

「ふむ、よい質問じゃ」長老は微笑みました。

「撃退は出来たのじゃが、魔王を殺してしまうことは出来んかった。なので、魔王は一度

自分の世界に戻り、再び力をつけてこの世界へやって来た。それが、この間の戦いじゃ。

この間の戦いの前、また『大いなる予言者』が予言をした。それは、今度こそ魔王を消滅

させる力を持った者が、この世界に生まれるというものだった。予言では、それは猫の妖

精の子供として生まれる、とされた。その事を知った魔王が猫の妖精達を殺そうとしたん

じゃが、またしてもハイエルフを主力とするこの世界の者達によって撃退された」

「じゃ、また追い払われただけなんですか?」

 小ねずみのチャーリーが聞きました。

「そう、追い払われただけじゃ。

 魔王は、従ってまたすぐこの世界にやって来よう。その時のために、わしら妖精族は自

分達の力を蓄えて強くしておかねばならん。それには、どんなことをすればよいと思うか

の?」

 ハナハナ、と長老に聞かれ、ハナハナは考え考え言いました。

「魔法が……、ちゃんと使えるようにしておく、とか?」

「それもある。では、魔法はどうやって使うのかの?」

 小さな子供でも、妖精の子ならちょっとした魔法は使えます。例えば、お菓子を宙に浮

かせたり、飛ばせたり。

 けれど、それは『どうやって』やっているのか、ハナハナ達はは知りません。

 長老は「ちょっと難しいかの」と、ずっと教室の隅で黙って長老の話を聞いていたアル

ベルト先生を振り返りました。

 先生はにっこり笑うと、

「『心』です。僕達妖精は、心でこうと思ったことを、現実にする力が生まれながらに備

わっています。でも、心が曇ってしまったり、歪んでしまったりすると、その力は弱って

しまい、魔法は使えなくなってしまいます」

「そうその通り。実際には魔法だけでは無くて、自分の命まで危うくなる。それくらい、

妖精族にとって『心』は大切なんじゃ。

 その心は、ではどんなことをしたら曇ったり歪んだりするのか?」

 リックが、弟の顔をちらっと見ました。ニックは兄の顔を見ながら、手を挙げました。

「ほい、ニック」

「あの、昨日の夜僕ら兄弟で話してたんですけど、もしかしたら、心が曇るのは、人のも

のを欲しがったり、恨んだり憎んだりすると、じゃないですか?」

「うむ。その通りじゃ」

 長老は、白い鬚を振って頷きました。

「それで最初の話じゃが……。昨日起きたちょっとした出来事は、まさにその心の曇りに

関係あるんじゃ。

 ある女の子が、友達のおもちゃをどうしても欲しくなり無理矢理取り上げよう とした。

友達は、お母さんが作ってくれた大切なおもちゃを取られたくなくて、 とうとうその子と

喧嘩てしもうたんじゃ。

 単純に考えれば、無理に友達からおもちゃを取ろうとした子の方が悪いと思えるの? 

じゃが、心は違う。

 実はどちらもよくないんじゃ。人の物を欲しがる心も、人に下さいと言われて上げない

心も、どっちもよくないんじゃ。おもちゃは、もし取られてしまっても事情を話してお母

さんに作って貰えればそれで済む。じゃが、喧嘩して壊れてしまった友情という心は、中

々直す事は難しい。

 妖精族にとって、友情や家族や恋人への愛情は、すぐに自分の命の力となる。 これが、

わしらが魔王に打ち勝つ唯一の武器じゃ。だから、無闇に喧嘩して一生心に傷を残すよう

な事をしてはいかん。少しでも自分に非があるなら、素直に謝って、大切な友達を大事に

するんじゃ」

 長老はよっこらしょ、と立ち上がりました。

「やれ、長くなってしもうて、悪い事をしたの。わしの話はこれで終いじゃ」

 みんな、しっかり勉強せいよ、と、長老は部屋を出て行きました。

 ドアを閉める寸前、長老はハナハナに向かって手招きしました。ハナハナは何だろう、

と思いながら廊下へ出ました。

「長老さま」静かにドアを閉めて、ハナハナは廊下の窓の下に立っている長老のところへ

行きました。

「さっき、ナニィとエマに会うて来たんじゃ」

「……はい」

「今みんなにした話を、エマにも聞かせて来た。ナニィには、欲張りはほどほどにせいと、

言っておいた。二人とも、至極反省しておった」

「そうですか」

 神妙な表情のハナハナに、長老はにっこり笑いました。

「これからは、モモも含めて、仲良う遊べるな?」

 問われて、ハナハナは満面の笑顔で答えました。

「はいっ」

 うんうん、と嬉しそうに長老は頷くと、「ではな」と片手を挙げて村長の家を出て行き

ました。



 帰ってから、ハナハナは長老から聞いた話をミィミにしました。

 フレイのチョッキの繕いをしながら聞いていたミィミは、ハナハナが話し終えると、

「そうね」と溜め息をつきました。

「確かに、長老のおっしゃる通りよ。でもね、いくら妖精でも人を憎まないのって難しい

わ。だから、そうね……、喧嘩してしまったらなるべく早く仲直りする方法を探す事が、

一番いいことかもしれないわね」

 ふうん、そっか、とハナハナは思いました。

 喧嘩はいけない。自分達妖精は、『心』で生きているから。

 そこでハナハナはふと、最初にエマが失礼なことを言った時、怒ったハナハナをミィミ

が止めた時の言葉を思い出しました。

「ねえお姉さん、エマが私にお母さんがいない子は大変って言った時、私がエマをひっぱ

たこうと思って怒り掛けたら、『笑って「そうね」って言っておきなさい』って言ったよ

ね? あれも、喧嘩しない工夫?」

「そうよ」ミィミは、小さな妹に、まるで女神様のように微笑みました。

「エマが言った事は、つまらない人が言うつまらない言葉。そんなことをいちいち気に掛

けて喧嘩していたんじゃあ、自分の命が縮んでしまうもの。だから、ああいう言葉は聞き

流してしまうのが一番なのよ」

「……そっか」

 隣室でお昼寝していたモモとフレイが、起きて来ました。

 ミィミはお水を欲しがる下の子を膝に乗せて、カップを支えて水を飲ませてやります。

 ハナハナは、モモにお水を汲んでやりながら、やっぱり自分のお姉さんは凄い、とまた

また改めて尊敬の気持ちを強くしました。


 その9 わがままエマ 完

その9 わがままエマは、これで終わりです。

いかがでしたでしょうか?


次のお話は、「赤い帽子青い帽子」です。

ミィミの幼馴染みのレニアには、リンドンという弟がいます。

猫の妖精には珍しい、画家のリンドンは、しかし姉が嫁いでからは絵に夢中で家事がろくにできていません。

心配したレニアは、なんとかリンドンにお嫁さんを、とミィミに相談しますが……


どうなりますことやら。


お楽しみに。

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