その9 わがままエマ(4)
「自分のおもちゃだけじゃ足りなくて、人のものまで無理に取ろうとするのの、何処がわ
がままじゃないって言うのっ?」
「あなたのとこの悪ガキじゃあないのよっ! エマはそんなことしませんっ!」
放っておくと何処までも言い募りそうな勢いの二人を、ミィミが止めました。
「二人ともっ、こんなところで言い合いしても仕方ないでしょう?」
「だって悔しいじゃないっ!」
マーマおばさんは涙声で言いました。
「うちの子達、そりゃ確かに少し腕白だけどっ、そんな、人に嫌われるような事はしてな
いわっ、それを……」
「それが分かってないって言うの。うちのエマはそれこそ虫も殺さないおっとりなのに、
それをわがままで迷惑な娘のように言うなんてっ! それより、そもそもはミィミ、あな
たの妹がうちのエマを殴ったのが原因じゃあないのっ!」
「それは、だから申し訳ないと……」
「いいえっ、そんな誤り方じゃあ納得出来ませんっ!」
ナニィは、今にも火を吹きそうな形相でミィミを見詰めました。
「私、ここでこんな侮蔑的な言葉を浴びせられるなんて思ってもみませんでしたわっ!
それも含めて、もう絶対にあなた達を許せませんっ! こうなったら、長老に全て申し上
げて、妖精の長からあなた達をきつく、きつーくお叱り頂きますっ!」
怪気炎を上げるだけあげて捲し立てると、ナニィは入って来た時同様、挨拶もしないで
ミィミの家を出て行きました。
乱暴にドアが閉められるのを、ミィミとマーマおばさん、それにハナハナは呆気に取ら
れて見送りました。
「で、これからどうしたらいいの?」
こじれてしまったエマとハナハナとの問題を、なんとかするのが先です。
ハナハナに聞かれて、ミィミは「そうね」と、ちょっと考える仕種をしました。
「まずは、ナニィがああ言ってるし、こちらも長老に一応事の次第を話しておきましょう
か?」
「そうね、それがいいわ」
ワッフルどころではなくなったマーマおばさんは、お昼が済んだら長老を訪ねることを
ミィミと約束して、家へ帰りました。
「さて、それまで時間もあるし。とにかくお昼ご飯を作って食べてしまいましょう」
ミィミはいつもと変わらない様子で、よいしょと椅子から立ち上がると、台所へ立ちま
した。
玄関扉の近くの篭からじゃがいもと玉ねぎを取り、いつもと同じに皮を剥き始めます。
こんな大変な事態でも、ご飯の支度を変わらず出来るなんて。
普段通りのミィミの後姿に、ハナハナは自分のお姉さんは大した人だと、改めて尊敬の
眼差しを送りました。
お昼が済んで、マーマおばさんが再びミィミとハナハナの家へやって来ました。
その少し前まで、お母さんが自分の事でエマのお母さんと喧嘩してしまったと知ったモ
モが、大泣きに泣いていました。
それをハナハナが宥めて、漸くモモはお昼寝に入りました。
モモとフレイが眠ったのを見計らって、ミィミはハナハナを連れマーマおばさんと一緒
に、長老の家へ行きました。
新しくなった玄関を叩くと、中からニーニャが出て来ました。
三人が中へ入ると、ニーニャは小声でハナハナに言いました。
「来てるよ、エマとお母さん」
「えっ? もう?」
ニーニャは真顔でこっくり頷きました。それからにっと笑いました。
「なんか、いいことしちゃったんだって?」
ハナハナはこそっと答えました。
「エマの事、叩いちゃった」
ニーニャはうふっ、と笑いました。
「いい気味。あの子しょっちゅうみんなにわがまま言ってて、そのくせ大人とかお母さん
の前ではいい子ぶってて、可愛くないもん」
今二階に居るから、と言うと、ニーニャは一階の集会所の椅子を三つ揃え、三人に勧め
ました。
「……何話してんのかな」
呟いたハナハナに、マーマおばさんが、
「どうせ嘘八百よ」
「マーマ」ミィミが苦笑しながら嗜めました。
程なくして、二階の長老の部屋の扉が開く音がしました。
女の人の甲高い声が二階の廊下をこっちへ近付いて来ます。まだ興奮したようにしゃべ
り続けているのは、きっとエマのお母さんナニィでしょう。
果たして、ナニィとエマ、それに長老が、しゃべりながら階段を降りて来ました。