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その8 風車小屋(6)

「それは、ミントのウェディング・ドレスと同じ生地ですよね? それを、もう一着作る

予定だったんですか?」

「ええ。実は、この大繭の生地を安くしてもらう代わりに、その生地屋さんが貸し出し用

のドレスを作って欲しいと言うのを引き受けたんです。……ああでもっ、これじゃもうち

ゃんとした形に縫う事も出来ないわ……」

「弁償したら、いくらくらい?」

 マーマおばさんは、トッドさんを見上げました。

「ああ、いえ……。トッドさん達にはお話し出来ませんよ。これは、頼まれた私の失敗だ

もの」

「でも、ミントのドレスを縫うために、工面して頂いた訳ですから……」

 トッドさんは済まなさそうに言いました。マーマおばさんは、律儀な若者ににっこり笑

いました。

「いいえ。これはパッセルベルの昔からの伝統ですから。ウェディング・ドレスは頼まれ

た先輩主婦だけが負担するのじゃなて、村の主婦みんなが新婦にお祝として送るのよ。だ

から、ご亭主のあなたは気にしなくていいの」

 言って、マーマおばさんはリックを見ました。泣きじゃくっている息子にひとつ溜め息

をついて、微笑みました。

「……しちゃったことは、仕方ないわね。しょうがない、生地屋さんに謝って、なんとか

方法を考えてみましょう」

「ご……、ごめ、んなざい……」涙と鼻水ぐしょぐしょになりながら、リックはまた謝り

ました。



 翌日、リックはマーマおばさんと共にパッセルトーンの生地屋を尋ねました。

 訳を話して謝ると、生地屋の赤猫の妖精の店主は分かってくれ、快く新しい布を出して

くれました。

 切ってしまった布の方は、改めて売り物の服を一着作ることで話が決まりました。

「それから、これは私からリックくんへのお祝」

 そう言って、店主は少し古ぼけた厚地の麻布を一反、奥から出しました。

「実はこれ、だいぶ以前に炭屋の旦那さんから注文されたんですけど、生地が良すぎて高

いって、納品を断られてしまったものなの。ずっとあっても売れないし、風車の羽になら

ぴったりだと思うから」

「いいんですか? こんなに?」

 驚くマーマおばさんとリックに、店主はにっこり笑いました。

「いいのよ。その代わり、と言っては何だけど、これから少し出来た服を置こうと思うの。

前にも言ったけど、最近の若い娘さんは仕立物が下手だから、生地が売れないし。その出

来合いの服の仕立てを定期的にマーマさんに頼みたいのよ」

「まあ、ありがとうございますっ。是非やらせて頂きます」

「仕立て代なんかは、後で話し合いましょう」

 マーマおばさんとリックは改めて店主に礼を言い、お店を出ました。


 

 パッセルトーンの生地屋から貰った麻布は、とても丈夫で風車の羽にぴったりでした。

 完成した風車小屋は、大人が一人やっと入れる大きさでしたが、杵は風車の力で ちゃん

と動きました。

「すっごい、じゃがいもがみるみる潰れてくっ」

 窓から臼の中身を覗いたニックとマックは、お兄ちゃんの初仕事の出来栄えにニコニコ

です。

「いいねこれ。お豆とか、たくさん潰さないといけない時に便利」

 じゃがいもをふかして持ってきたハナハナも、とん、とん、とゆっくり動きながら中身

を潰して行く杵の動きに、にっこりしました。

「やったねリック。上出来だね」

「まあね」リックはトネリコの梢を吹き抜ける風にゆったり回る風車を見ながら、えっへ

ん、と胸を張りました。

「でも、ほんとは親方の図面がいいからなんだ。羽がよく回るように工夫してあって、さ

すがだよ」

「お、よく回ってるな」

 リックが誉めた所へ、ボッヘ親方と長老がやって来ました。

「中々いい出来じゃないか。初めてにしちゃ立派なもんだ」

「いえっ、親方の図面のお陰と、トッドさんの助言のお陰です」

 真面目に答えたリックに、ボッヘ親方はあっはっは、と大声で笑いました。

「なあに、リックが強情に言い続けなけりゃ出来無かった代物だ。うん、中々いい腕して

いる」

「ほんとにの。こりゃ面白いもんだわい」

 風車の羽を見上げ、長老も、目を細めて微笑みました。

 照れくさそうに鼻を頭を掻くと、リックは

「ありがとうございます」と二人 にお礼を言いました。

「これからももっと勉強して、いい大工になるんじゃよ」

「はいっ」

 ややあって、朝の仕事がひと段落したお母さん達がやって来ました。

 風車小屋の窓から杵の動きを覗いて、みんな感心していました。

「これならパンの粉も挽けるかもねえ」

「それなら、村でパンが焼けるかもねえ」

「あら、それいいわね」

 口々に風車を誉めるお母さん達に、リックも弟二人も得意気でした。

「そう言えば、マーマおばさんのドレスも出来上がったんだって?」

 ハナハナが聞くと、リックは「うん」と頷きました。

「夕べ縫い上がって、今日パッセルトーンに持ってった。すっごくいい出来だって」

「そう、よかったね」

 少し強い風が吹いて来て、風車が少しだけ早く回りました。

 ハナハナは、ごとんごとんという杵の音を聞きながら、リックはきっといい大工さんに

なるね、と微笑みました。


 その8 風車小屋 完

その8 風車小屋は、これで終わりです。

いかがでしたでしょうか?


次は『わがままエマ』。

パッセルベルの子猫の妖精の中でも、お嬢様気質で

わがままなエマ。

ハナハナは、エマが苦手です。

さて、どんなことが起きますか……?


お楽しみに!


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