その8 風車小屋(5)
「兄ちゃんっ! ニック兄ちゃんっ! ちょっと来てっ!」
隣室からマックが大声で二人を呼びました。
何事かと、兄二人は隣室へ向かいました。
マックはマーマおばさんのベッドの下から、なにやら白い布を引っぱり出していました。
「この布、すっごくでっかいよっ!」
「こらマックっ、それはお母さんが何か頼まれて作る時のやつだろ? ダメだよ」
「でも、お母さん頼まれものの洋服の生地は、そっちのタンスにいつも終うよ? これは
余ったのじゃないの?」
マックの言葉に、リックとニックは顔を見合わせました。
「でも……、これ、ずいぶんおっきいし」
「これから何か作るんじゃないの?」
「違うよきっとっ。元々もっと大きくて、余ったんだよっ!」
「……そうかなぁ」何だかとっても綺麗な布を、リックはマックから受け取りました。
「すごく光ってる」
「これで風車の羽の布を作ったら、すっごく綺麗だと思うんだけど」
三人は、大きな布をじっと見詰めました。
リックが、言いました。
「これだけあるんだから……。ちょっとくらい貰っても大丈夫かな?」
「うん……、多分」とニック。
「絶対大丈夫だよっ!」マックは大きく頷きました。
そうだよね、と二人の言葉に納得して、リックは布を大きく広げました。
マーマおばさんの裁縫箱を探し、中から布鋏を取り出すと、
「ちょっと貰うね」と言って、四分の一程を鋏で切り取りました。
「足りる?」
心配そうに聞いたマックに、「多分ね」とリックはにっこり笑いました。
布も見付けて、風車小屋はいよいよ完成です。
リックはマーマおばさんのベッド下から失敬した布を、ボッヘ親方の工房の隅でちくち
くと縫いました。
縫い物は、お母さんのを見ているせいか、リックは結構得意です。
「ずいぶん綺麗な布を持って来たなあ」
作業を覗きに来たトッドさんは、布を見るなり言いました。
「何かこれ、どっかで見た事ある布だね?」
「そうですか?」
「うん。このとっても光沢のある感じって……。ああそうだ、ミントが結婚式に着たドレ
スっ!」
「え?」
それで初めて、リックはその生地がウェディング・ドレスのものであるのに気が着きま
した。
「立派な生地だものねえ。これって、もしかしたら、もう一着分なんじゃあないのかな?」
「だとしたら……」かなりまずい、とリックが青くなった時。
「リックっ!」
マーマおばさんが工房の前に現れました。
「おっ、お母さん……」
「あんたったらっ! ドレス用の布を切ってしまったんですってっ?」
マーマおばさんは工房へ入って来て、リックの持っている布を見るなり真っ赤な顔にな
りました。
「なんて事をしたのっ! これはっ、パッセルトーンの生地屋さんに頼まれて作るドレス
用のものなのよっ! それを、あんたって子はあっ!」
「ごっ、ごめんなさいっ!」
「ごめんなさいも何もありませんっ! ……ああああっ、こんな変な大きさに切ってしま
ってっ! これじゃあもう、ドレスに出来ないじゃないのっ!」
おばさんは厳しい顔で、大繭の大事な絹地をそっと持ち上げました。
「もう……。これがいくらするものだと思ってるのっ? これはねえ、あんたの作った粗
末な風車小屋なんかの部品にするような布じゃないのっ! とっても高価なものなのよっ
! それを……」
「ごめっ、ごめんなさいっ!」
何時に無くすごい剣幕のお母さんに、これは本当に大変なことをしてしまったと、リッ
クは改めて思いました。
「僕……、どうしたら……」
半分泣きべそになりながら、リックはおろおろとお母さんとトッドさんを見ました。
「マーマさん」
トッドさんが言いました。