その8 風車小屋(4)
ハナハナの家を飛び出したリックと弟達は、全速力でボッヘ親方の仕事場へ向かいまし
た。
ボッヘ親方は、自宅のある枝と同じところに仕事場を作っています。
いつも開いている仕事場の玄関に、三兄弟は息を切らしながら入りました。
「親方っ!」
「お、どうしたリック」
親方は、丁度25丁目のムササビの妖精から頼まれた家の図面を引いているところでした。
「あのっ、風車小屋なんですけどっ」
「うん?」
「じゃがいもとか、パンの実を潰すのに使えるんじゃないかって」
「ほお?」ボッヘ親方は、仕事の手を止めリックを見ました。
リックの後ろにいたマックが、小さな声で「兄ちゃん」と呼び掛けました。
「模型っ」
「あ、そだっ」
リックは慌ててマックから模型を受け取り、親方に見せました。
「おお、よく出来たじゃないか」
ボッヘ親方は模型を手に取ると、側の丸木のテーブルに乗せました。
「こうして見ると、木の風車小屋も悪くないな。で、野菜を潰すのに使うんだって?」
「あ、はい。中に臼を取り付けて、杵を風車の力で動かせば簡単に野菜を潰せるかなって」
「ふうむ……。けどそれだけじゃあ、利用価値は低いかなぁ」
「……ダメ、ですか?」
またもやの親方のダメ出しに、リックはもう泣きそうな声で聞きました。
「……いや。まあ、おまえがこんなに熱心にやってるんだ、ひとつ長老と相談してみよう」
「やったあっ!」リックは元より、ニックとマックもその場でぴょんぴょん跳ねて喜びま
した。
親方が長老に相談すると、「面白いかもしれんの」という返事でした。
親方の許しも貰い、長老も隣に立てていいと許可を出してくれて、いよいよリックは風
車小屋作りに乗り出しました。
ただし、
「あんまり大きいのはダメだぞ。そうだな、おまえ達がしゃがんで入ってやっとくらいの
からだな」
というのも、大きな材木はまだまだリックの手には負えないからです。
親方にそう言い渡されてちょっと悔しいリックでしたがそれは仕方ありません。
図面はボッヘ親方が、仕事の合間を見て引いてくれました。
練習になるからと、監督にトッドさんが付きました。
リックは木の釘の打ち方や、木材の簡単な組み方をトッドさんに習いながら、作業を進
めました。毎日毎日、弟達と一緒に長老の家の隣の空き地に通い、一生懸命材木にかんな
を掛けたりのこで切ったりしました。
始めてから一週間。
ある程度小屋の方も出来上がり、親方が用意した小さな臼と杵、それに風車の力を杵に
伝える心棒が、取り付けられました。
「あとは本体の風車だねっ」
帰り道、毎日兄の作業を見ていた弟達は、嬉しそうに言いました。
「うーん……」
「どしたの? あと少しじゃない」
あんまり気が乗らない風のリックの返事に、ニックとマックは兄の顔を覗きました。
「ちょっとな、困ったことがあるんだ」
「なに?」
「風車の羽って、木の骨組みの上に布を被せて風を受けるようにしてあるんだ。その、布
がさ、無いんだ」
あ、そっか、と弟達は顔を見合わせました。
「結構、おっきな布が要るよね?」
「どうするの?」
「うーん……。一応親方に相談してみるけどさ……」
困った顔をしたまま、リックは家に戻りました。
「ただいま〜」
家に着くと、珍しいことにマーマおばさんは何処かに出掛けてまだ戻っていませんでし
た。
「おかあさん、何処行ったのかな?」
マックが、隣の部屋へ見に行きました。
「珍しいね、こんな時間に出かけるなんて」
そうだね、とニックが言った時。