その8 風車小屋(3)
リックは「あ」と思いました。
確かに、水はたくさん溜めると重くなります。トネリコの木がいくら丈夫でも、水を溜
めておく程ではないでしょう。
また考え込んでしまったリックに、ボッヘさんは小さく溜め息を付きました。
「まあ、どうしても作りたいっていうなら、まずはちっちゃい模型を作ってごらん。それ
がよく出来たら、考えてみよう」
親方の提案に、「はいっ」 と、リックは顔を上げました。
結婚式から三日後。
リックは親方に言われた模型作りに夢中になっていました。
外遊びもせずに工作をしているお兄ちゃんを、応援している弟達は静かに見守っていま
した。
「すっごい真面目に作ってる」
良く晴れた午前中、ミィミの家の裏の物干し場へ来たニックとマックは、兄の近況をハ
ナハナに報告しました。
「設計図とかもちゃんと引いて、木切れをいっぱい親方のとこから貰って来て、いろんな
長さに切って貼って……。兄ちゃん夢中で作ってる」
「そう。そんなに頑張ってるんだ。楽しみだね」
モモのエプロンを枝に掛けながら、ハナハナはにっこり笑いました。
「うんっ」ニックとマックも、自慢げににっこり笑いました。
「頑張ってる兄ちゃんは、僕達の誇りだから」
「そうだね」
ニックが言った時、表の方からそのリックの声がしました。
「おおいっ、ハナハナっ!」
「あ、兄ちゃんだっ」
「うわさをすれば、ね」
ばたばたと、リックが走って物干し場へやって来ました。
「出来たっ」
「え、模型完成したの?」ハナハナは洗濯物を干す手を止めて、リックの側へ寄りました。
「うんっ。——ほらっ」
リックは、大事に持って来たものを、近くの平らな枝の切り口の上に乗せました。
それは、ハナハナが両手にもって丁度いいくらいの大きさの風車小屋でした。
小屋は普通の家の形で、ちゃんと窓も扉もあります。
「うわあ、よく出来てる」
「ほんとだ」
子供達が輪になっているのに気が付いて、ミィミも寄って来ました。
「あらリック、風車の模型、出来たのね」
「うんっ。でね、羽が回るようにしたんだ。……ほらね」
リックは指で風車の羽を軽く突きました。言った通り、羽はくるっと軽く回りました。
「すっごい」
「大したものねえ」
「やっぱり兄ちゃんだっ」
マックが嬉しそうに言いました。
「これを実物にしたら、すっごいかっこいいね」
ハナハナは、模型に顔を近付けて言いました。リックは「うーん」と頭を掻きました。
「でも、まだ親方に見せてないし……。何に使うか決まってないし」
「風車って、粉を挽くのに使うのよね?」ミィミが言いました。
「野菜とかの皮向きに使えないかな?」
「それは無理でしょ。でも、潰したりするのには使えるかも」
「そっかっ!」
リックはぴょんっ、と飛び跳ねました。
「粉にするんじゃなくっても、野菜潰したりするのに使えるんだっ」
親方に言って来る、とリックは駆け出して行きました。
「あ、風車小屋っ!」
ハナハナは、呼び止めて忘れ物を指差しました。
「僕が持ってくっ!」マックがさっと模型を抱え、兄の後を追って駆け出しました。
「じゃまた後でっ!」
その後を、ニックが追い掛けて行きました。
「……忙しいね」あっという間に三人居なくなって、ハナハナは呆然として言いました。
「許可が出ればいいわね」
ミィミはくすっと笑いました。