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その8 風車小屋(1)

 長老の家が完成したのは、夏もそろそろ終わりに近付いた頃です。

 パッセルベルの村では珍しい二階建ての家は、長老の希望で1階は村の集会所になりま

した。

 もちろん、最初に使ったのはボッヘさんの娘ミントさんと大工見習いのトッドさんの結

婚式でした。

 その前日に、ボッヘさん達大工さんと長老と村長の家族だけで、簡単な完成式をやりま

した。

 結婚式のために用意したワインと果実のジュースをちょっとだけ貰い、マラーニャが作

ったオードブルで乾杯しました。木ねずみ三兄弟の長男リックも、ボッヘ親方の許しが出

て出席しました。

「いやー、やっと完成したのお」

 長老は嬉しそうに、ワイングラスを片手に部屋中を見回します。ボッヘ親方は得意げに

長老に話しました。

「特に、壁の収納棚に工夫を凝らしたんですよ。あれなら人の邪魔にならずに色んなもの

を片付けておけます」

「そうそう。集会所ってんで親方、どうやってみんなが便利で広く使えるか、一生懸命考

えていなすったものな」

 大工仲間も、みんな出来上がりに上機嫌です。長老はますます満足な顔で、

「うむ、うむ」と頷きました。

 大人達がやっと出来た家を誉めている中、リックは一人で不満でした。

 とっても綺麗に出来た家ですが、彼にはどうしてももうひとつ、付けたかったものがあ

ったのです。

 それは、風車でした。

 お父さんの手紙で風車を見て以来、リックはどうしてもそれを自分で作ってみたくて仕

方無かったのです。

 難しいのは百も承知しています。だから、ボッヘ親方にも相談しました。

 でも。

「風車ぁ? そんなもの取り付けて、何になるんだ?」

 検討さえされずに却下されました。

 それもそうです。風車は元々、海辺や水辺の水面より低い場所で水を掻き出したり、ま

たは水の少ない農地で小麦の精製をしたりするのに使われます。

 森に囲まれたパッセルベルは、農地にする土地がありません。水汲みなどにも風車は使

いますが、マーフの泉があるのにわざわざ地下水を汲む人はいません。

 まして、長老の家はトネリコの最頂上。そんなところに風車を作っても、何にもなりま

せん。

「でも、あった方がかっこいいと思うんだよな」

 葡萄のジュースをなめながら、リックはひとり呟きました。

「どうしたんだい? 難しい顔をして」

 お酒を飲んで歌い騒ぐ大人達から少し離れて立っていたリックに、トッドさんが寄って

来ました。

 親方のお弟子の中で一番若いトッドさんは、リックの面倒もよく見てくれます。

 明日はミントさんとの結婚式で忙しいので来なくていいとボッヘ親方に言われていまし

たが、兄弟子や仲間の大工さんがお祝に行くのに、一番下っ端の自分が私事で行かないと

いうのは失礼だと、完成式に出ました。

 それでも明日のことを考えてワインは遠慮したトッドさんは、リックと同じ、葡萄ジュ

ースの入ったカップを持っています。

 リックは言いました。

「トッドさん、パッセルベルの家に風車があったら、やっぱりおかしいですか?」

「ははあ、やっぱりまだその事を考えてたんだ」

 ボッヘ親方に風車の話をした時、側にいたトッドさんも聞いていました。

「おかしいっていうよりか……。必要ないからなぁ。第一、トネリコの枝が伸びたら風車

の羽が邪魔になるよ?」

 言われて、リックはなるほど、と思いました。

 確かに、木の上で暮らすパッセルベルでは大きな風車の羽は邪魔です。

「風車ってさ、山とか遮るものがあんまりない場所に建ってるのがかっこいいんじゃない

のかな」

「……そうかも」トッドさんの言う事には一理ありました。リックは真面目な顔で頷きます。

 その様子に、トッドさんはくすっと笑いました。

「それでも、風車を作ってみたいんだ?」

「だって……」図星を言われて、リックはちょっと恥ずかしくなって下を向きました。

「まあ、気持ちは分かるけどね。僕も、早く仕事を覚えて、親方みたいにこんな素敵な家

を作ってみたいもの。でも、風車は難しいよ、きっと。僕も実物は見たこと無いけど、確

か建物はレンガで円形に作るんだったよね。だとしたら、やっぱりパッセルベルでは無理

だよ」

 レンガはしっくいなどで止めねばならず、トネリコの枝の上では土台を組む事が難しい

のです。

「それに、この辺りの森の木に比べたら、レンガは積むと重くなるし。大きな風車小屋は

絶対作れないよ」   

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