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その7 ウェディング・ドレス(5)

「うん」

 ミィミは夕食の下拵えをしながら、にっこりハナハナに笑い掛けました。

「ほんと、ラーラさんが言った通り、モルガナさんはいい人ね」

「ちょっと、恐いけどね」

 肩を竦めるハナハナに、ミィミはあははと笑いました。

 その晩、ミィミはティーヴに訳を言って、次の日から二日間、ハナハナと一緒に村長の

家へ泊まり込みました。

 スカート部分を担当するのはミィミとマラーニャの二人なので、どちらかの家で一緒に

やらなければなりません。

 それに村長の家は部屋が大きいので、長いスカート生地を広げたりするのに場所がいい

のです。

 朝早くから、ミィミとハナハナは村長の家へ行きました。

 着くなり早速マーマおばさんが引いた図面を、裏地はマラーニャが、表はミィミが裁断

して縫い始めました。

 ニーニャとハナハナは、仮縫いのための針に糸を通したり、待ち針を抜いたり揃えたり

する役目です。

 こんなに大変な仕事のお手伝いは初めての上に、夜も友達と一緒に居られるというので、

ハナハナもニーニャもうきうきわくわくしていました。

 10時になった頃、仕事をしている奥さん達のために、村長のサウルがお茶やお菓子を持

って来てくれました。

 勉強を教わっている時は、ちょっと恐い先生の村長がにこにこしながらお茶を運んで来

てくれるのに、ハナハナはなんだか妙な気分になりました。

 お昼ご飯と夕食は、ミントさんとお友達のリリィさんが作りに来てくれました。

「すみません、私のために……」

 お昼ご飯を一緒に食べる時、ミントさんはとっても済まなさそうにミィミとマラーニャ

に言いました。

「いいのよ。パッセルベルでは先輩主婦が新婦のドレスを縫うのは昔からのことなのだか

ら」

 ミィミはそう言って笑いました。マラーニャも、

「そうそう。これは先輩からの激励と、これからのミントちゃんの幸せを祈るって意味が

あるんだからね」

 ミィミとマラーニャは頑張って、二日間で表裏のかなりのところを仕上げました。

「さて、じゃあ全部縫ってしまう前に、モルガナさんのレースを合わせてみないとね」

 翌日、ハナハナはニーニャと一緒にモルガナ婆さんの家へレースを受け取りに行きまし

た。

 家の前まで来ると、またつん、と薬草を煮るにおいがしました。

「こんにちは」ハナハナはドアをノックして、声を掛けました。中からモルガナ婆さんの

声で、「お入り」返って来ました。

 ハナハナとニーニャは、そっとドアを開けて家の中へ入りました。

 モルガナ婆さんは、二日前と同じようにかまどの前に立っていました。かまどには、大

きな鍋が掛けられていて、中身がぐつぐつ音を立てています。

 モルガナ婆さんは、鍋を掻き回していた木杓子をかまどの脇の調理台に置くと、二人を

振り返りました。

「レースを取りに来たんだろ。出来てるよ」

 婆さんは前掛けで手を拭きながら、長い胴体をくねくねくねらせて隣の部屋へ入って行

きました。

 ハナハナとニーニャは、どうしていいか分からず、じっと息を殺して薬臭い台所で待っ

ていました。

 モルガナ婆さんは、すぐに台所へ戻って来ました。

「ほら」渡されたのは、ハナハナが二日前大繭の糸玉を入れて持って来た籐篭でした。

 ピンクの小花模様の、大判のハンカチが掛けられた籐篭を、ハナハナは手に取りました。

「あの……、中見てもいいですか?」

 聞いたハナハナに、モルガナ婆さんは素っ気無く「ああ」と、頷きました。

 ニーニャとハナハナは、こわごわ、ハンカチを外しました。

 そこには、大繭のつやつやした糸で出来た、素晴らしく綺麗なレースが、きちんと畳ま

れて入っていました。

「うわあ……」思わず感動の声を上げたハナハナ達に、モルガナ婆さんは言いました。

「スカートとベストに付けて、少し余ると思うよ。余ったらブーケの飾りにでも使いなさ

いと、ミィミとマラーニャに言っとくれ」

「はい」

 二人は笑顔で挨拶し、婆さんの家を出ようとしました。すると、婆さんが二人を呼び止

めました。

「その柄は、昔ラーラの姉さんのウェディング・ドレスにも使った柄だ。豆の花とポピー。

どちらも幸福の象徴だよ」

 私には縁が無かったけどね、と呟いた婆さんの声を、ハナハナはそっと胸に仕舞って玄

関を出ました。

 モルガナ婆さんのレースは、それは見事にドレスを飾りました。

 偶然にも、ネービルさんが作ったベールも同じ花の柄で、仕上がったドレスを着たミン

トさんは、とっても嬉しそうでした。



 そして。

 長老の家が完成した二日後、トッドさんとミントさんの結婚式が、完成した長老の家で

行われました。

 村中の人が集まって、二人をお祝しました。もちろん、ハナハナとニーニャも出席しま

した。

「とっても綺麗なお嫁さんね」

 ニーニャは、飲み物を運ぶお手伝いをしながら、すれ違ったハナハナに言いました。

 ハナハナは、おつまみを乗せたトレーを持って頷きました。

「私達も、お嫁に行く時にはみんなにドレス作ってもらえるのかな」

「きっと作ってもらえるよ。そうだ、今からマーマおばさんに頼んでおこうよ」

 二人は話し合って、ふふ、と笑いました。

 夏は真っ盛り。トネリコの木の葉はますます緑を濃くしています。

 きいちご酒で真っ赤な顔になった村長が、同じく真っ赤な顔のボッヘさんにお祝を言っ

ています。ボッヘさんは、もう泣きそうな顔で頷いていました。

 大きな声で歌を歌う人、それに手拍子をする人。みんな嬉しそうです。

 そんな様子を、モルガナ婆さんが少し離れた所から、ぶどう酒を飲みながら見ているの

に、ハナハナは気が付きました。

 声を掛けようかと思いましたが、レースを取りに行った時の婆さんの呟きが、ふっと思

い出されました。

 きっと、モルガナ婆さんは今はまだ一人でいたいんだ。

 そっとしておいてあげようと、ハナハナは木陰でくつろぐ婆さんから静かに目を逸らし

ました。


 その7 ウェディング・ドレス 完

その7 ウェディング・ドレスはこれで終わりです。

いかがでしたでしょうか?


次は、その8 風車小屋 です。


どうしても風車作りを諦め切れないリックは、ボッへ親方に

直談判!


さて、どうなりますことか?


お楽しみに。

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