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その7 ウェディング・ドレス(4)

 初めて聞いたモルガナ婆さんの昔の話に、大人達も、ハナハナとニーニャも驚きました。

 と同時に、ちょっとモルガナ婆さんが気の毒になりました。

 ラーラお婆さんは話を続けました。

「その後で、若い人は自殺だったと解りました。遺書が、見つかったんです。村長さんら

はモルガナさんに済まないとおっしゃってました。……まあ、言っても後の祭りだったん

ですけどねぇ」

 ラーラお婆さんはしみじみ言って、またハンカチを撫でました。

 ややあって、思い出したように顔を上げました。

「ああそうそう。みなさんはこんな昔話を聞きにいらしたんじゃあないわよね。レース用

の糸ね。はいはい、今お出ししますね」

 どっこいしょ、と椅子から立ち上がると、お婆さんは奥の引き出しを引っ張りました。

大きな引き出しで、中には玉に巻かれた細い糸が、何十個も入っていました。

 いかにも重そうな引き出しをこちらへ持って来ようとしているお婆さんに、ハナハナと

ニーニャは慌てて手を出しました。

「お婆さん、私達が持ちますっ」

「あらあ、ありがとう」

 二人は、お婆さんが出した引き出しをマーマおばさん達の前へ置きました。

「綺麗ね」

「あ、この色なら買った生地に合うわ」

 ネルさんが取り上げた玉を見て、ラーラお婆さんが言いました。

「それは、大繭の糸ですよ。大繭は糸が細いので、とっても綺麗なレースが出来ます」

「偶然だわ。さっき私達、他のお店で大繭の生地を買ったんです」

 マーマおばさんは、そこの店主と貸し出し用のドレスを作る約束をしたことを、ラーラ

お婆さんに話しました。

 ラーラお婆さんはそこの店主もよく知っており、それならと糸を大変安く譲ってくれま

した。

 とてもいい材料が安い値段で手に入り、ついでにとってもいいお話を聞く事が出来て、

みんなは優しい気持ちで帰り道を歩きました。



 パッセルベルへ戻ると、みんなは早速仕事に取りかかりました。

 ハナハナはモルガナ婆さんにレース糸を届けに行きました。

 西の下枝に着くと、婆さんの家からつん、と薬草を煎じるにおいがしました。

「こんにちは」ハナハナはドアをノックして開けました。婆さんは台所のかまどの前に立

って大鍋を掻き回しているところでした。

「あの、レース糸、買って来ました」

「そうかい。ありがとうよ」

 そこへ置いて、と、モルガナ婆さんは木杓子で食卓を指しました。ハナハナは籐の篭に

入ったレース糸を卓へ置きました。

「それじゃ、」帰ります、と言い掛けた時。

「……ラーラは、元気だったかい?」

「あ、はい」ハナハナは少しどきどきしました。

 実はマーマおばさんやミィミ達と話し合って、ラーラお婆さんから聞いた話はモルガナ

婆さんには内緒にしよう、という事になっていたのです。

 ——下手に話したら、昔の事を聞いたのがばれちゃうなあ。

 これ以上何か聞かれる前に帰ろうと、もう一度ハナハナが「帰ります」と言うと、モル

ガナ婆さんがくるりとこちらを向きました。

「ラーラから、パッセルトーンでの話を聞いたんだね?」

 ハナハナは、咄嗟に「いいえ」と言いました。

 モルガナ婆さんは金色の目を細めて、ハナハナを見ました。

「いいよ、嘘付かなくても。……まあ、色々あったけど、今は単に昔の話。もう魔王もい

ないし、私ゃなんにも気にしてないよ」

「……ごめんなさい」

 モルガナ婆さんは、謝ったハナハナに一瞬きょとんとしました。それから大声で笑い出

しました。

「あっはっは。おかしな子だねえ。どうしてあんたが謝るのさ。ま、いいか。 ——どれ、

糸を見てみようか」

 婆さんは食卓の篭から糸玉を一個、取り出しました。

「大繭だね。いい糸だ。ネービルさんもこれでベールを作るんだろ? なら私もうんとい

い飾りレースを作らなきゃね」

 二日後には出来上がるから、またおいで、と、モルガナ婆さんは言いました。

 ハナハナはもう一度ぺこりと頭を下げて、モルガナ婆さんの家を出ました。


 

 家へ帰って、ハナハナはその話をミィミにしました。

「そう……。モルガナさん、気にしてないって言ったの」

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