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その7 ウェディング・ドレス(3)

「今日はどんなご用?」

「ウェディング・ドレスの生地が見たいのだけれど」

「ああ、それなら丁度いいのがあるわ。つい昨日、緑龍平野のリーリスからいい絹が入っ

たの」

 マーマおばさんは、早速その絹を見せて貰いました。

 それは、大繭という特殊なかいこで、緑龍平野の桑だけしか食べないという不思議な虫

から採れる糸です。

 大繭の糸は初めから少し金色をしていて、織物にすると表面がきらきらと金色に輝きま

す。

「いいわねえ」

 マーマおばさんとネルさんは、手に取ってうっとりと言いました。

「これなら、いいドレスが出来るけど……。高いでしょ?」

「そうねえ、普通のドレス生地の三倍、かな」

 店主の言葉に、みんなはがっかりしました。

「それじゃ、無理ねぇ」

「あ、でも、マーマさんなら特別にうんと割り引きしますよ。ただし……」

 もう一着、この生地でドレスを作って欲しいと、店主は言いました。

「近頃ではドレスを上手に縫える人が減って来ててね、だから生地も中々売れないの。な

ので、いいドレスをマーマさんに作って貰って、うちで貸し出ししようかと思ってね」

「まあ、それはいいわね。是非作らせて頂くわ。でも、頼まれてるドレスが急ぎなので…

…」

 店主は、ミントさんの結婚式が終わってからでいいと言ってくれました。

 みんなは大繭の絹地を買うと、次にレースの糸を買いにモルガナ婆さんが言っていたラ

ーラの店へ行きました。

 ラーラの店は、大繭の生地の店から更に枝先へ行ったところにありました。

 そこは小さなお店でした。中へ入ると、キルト用の小さく切られた布が、幾つもの小引

き出しにびっしりと入れられていました。

 マーマおばさんは、所狭しと並んだ引き出しの間に置かれた椅子にちょこんと腰掛けた、

年老いた猫の妖精の女性に話し掛けました。

「あの、ラーラさん?」

 お婆さん妖精は、顔を上げました。

「はいな。私はラーラですが?」

「パッセルベルのモルガナさんのご紹介でこちらに参りました」

「まあまあ」

 ラーラお婆さんは、白髪の混じった灰色の長い毛並みの顔を上げて、みんなを見ました。

「モルガナさんは、お元気ですか?」

「はい。……お知り合いなのですか?」

 ミィミが聞くと、ラーラお婆さんは「はいな」と頷きました。

「私がまだ若い頃に、母が大変お世話になりましてね。もう亡くなりましたが、モルガナ

さんのお薬でずいぶん楽に逝ってくれました」

「そう、だったんですか」

「あの方は、蛇の妖魔ということもあって、周囲からはあまりいい様には見られませんが、

根はとっても優しい方です。母のことも、それはそれは親身に診て下さいました」

 ハナハナとニーニャは、さっきモルガナ婆さんがマーマおばさんに手渡したレースのハ

ンカチを思い出しました。

「おばさん」ハナハナは、小声でマーマおばさんにハンカチの事を伝えました。

「ああそうだったわ」

 マーマおばさんは、モルガナ婆さんから預かったハンカチを、ラーラお婆さんに見せま

した。

「まあまあ、このハンカチは……」

 ラーラお婆さんは、本当に驚いたという声を上げました。

「これを、モルガナさんが?」

「はい。ラーラさんに見せて、ドレスのレースにする糸を売って貰って来るようにと」

 ラーラお婆さんは、手にしたハンカチを大事そうに撫でました。

「そうですか……。そう、モルガナさんが……。実はね、このレースは、私の姉の結婚式

にモルガナさんが作って下さったドレス用のレースの余りでこさえたものなんです。私が、

モルガナさんにお礼にと渡しました。

 ところが、そのお式があった一週間後に、村で一人の若い妖精が亡くなったんです。毒

草を食べての自殺でした。……でも、当時の村の人々は、妖精が自殺なんて考えられない、

きっと誰かが毒を食べさせたのだと騒ぎました。毒を扱うのに慣れていた薬師のモルガナ

さんが、まっ先に疑われました。蛇の妖魔ですし、当時はまだ魔王が生きていた時代でし

たから、モルガナさんがいくら無実だと言っても、誰も信用しなかったんです。

 それでとうとう、モルガナさんはパッセルトーンを出て行くことになりました。もちろ

ん、私と姉は最後までモルガナさんがそんなことをする人だとは思っていませんでしたか

ら、見送りに行きました。その時、このハンカチを渡したのです」

「そうだったのですか……」

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