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その7 ウェディング・ドレス(2)

 ブラウスベストはネルさん。そしてチュニック風の上着はマーマおばさんに縫って貰う

ことになりました。

 ベールのレースはネービルさんが担当します。



 さて。

 翌日には早速、買い出し班が出動しました。

 布は、パッセルベルでは売っていません。隣村のパッセルトーンの布屋さんまで行きま

す。

 買い出し班はネルさんとマーマおばさん、それにミィミです。ハナハナとニーニャもつ

いて行きました。

「久し振りだね。隣村に行くの」

「ねっ」

 パッセルトーンまでは約5キロ。ピクニック気分の二人を、ミィミは諭します。

「お遊びに行くんじゃないのよ? ミントさんの大事なドレスの生地を買うために行くん

です」

 はあい、と返事する二人を見るミィミの目も、でもとっても楽しそうです。

 トネリコの木からマーフの泉の脇を抜け、谷底への道を歩きます。

 今は夏の花があちこちに咲いていて、特にユリは、そこここにいい匂いを振りまいてい

ます。

 ハナハナとニーニャはユリを一輪ずつ摘もうと、大人達の前へ走って出ました。

「何だねばたばたとみっともない。女の子ががさつに走るんじゃあないよ」

 谷底の、背の高い草の陰からいきなり声がして、二人はびっくりして足を止めました。

 ひょいと現れたのは、薬草採りに来ていた、モルガナ婆さんでした。

「あらモルガナさん、ご精が出ますね」

 マーマおばさんが話し掛けると、モルガナ婆さんはふん、と鼻を鳴らしました。

「薬草は商売道具だからね。ところであんた達、ミントのドレスの生地を買いに行くんだ

ろ?」

 ミィミが「ええ」と頷くと、モルガナ婆さんはスカートのポケットからハンカチを一枚、

出しました。

「これを持って、パッセルトーンのラーラっていう猫の妖精の生地屋のところへお行き。

『モルガナ婆さんが、フリルに使うレース糸を欲しがってます』って言うんだよ」

「え? それって…?」

 ネルさんが驚いて聞き返しました。モルガナ婆さんは、金色の縦虹彩の目でぎろり、と

あなぐまの妖精の気のいい女性を睨みました。

「あたしが、ドレスを飾るレースを編んでやるよ。なに、材料が揃えば二日もあれば出来

る。上がったら教えるから、糸を買って来ておくれ」

 受け取ったハンカチのレースの見事さに、マーマおばさんは感激しました。

「ありがとうございます、モルガナさん。これで素敵なドレスが出来るわっ」

 みんなはモルガナ婆さんにお礼をいい、谷底を後にパッセルトーンへと急ぎました。

 ユリを摘み損なったハナハナとニーニャはちょっぴり残念でしたが、代わりにドレスに

素敵なレースが使えるとなってわくわくして来ました。

「きっと素敵になるねっ」

「そうだね」



 お昼少し前に、みんなはパッセルトーン村に着きました。ここはパッセルベルとは違い、

幾つかの大きなトチの木が林立していて、上に住んでいる住民は木の間に橋を掛けて行き

来しています。

 みんなは一番西の木に上りました。

 そこは、露天のお店が大半の枝を占める、デパートのようなところでした。

 大勢の人が買い物に来ています。妖精達は人間と違い、自分の体重を変えられるので、

枝に大人数が乗っても折れる事はありません。

 でも、すれ違うのが大変なくらいの人混みで、さすがにトチの枝もしなっています。

「すっごい人手だね」

 ハナハナは目を丸くして言いました。

「前に来た時も一杯人が居たけど、何だかあの時より多いみたい」

 ニーニャも、声を上ずらせます。

 二人はきょろきょろと、通路を挟んで両脇に並ぶ露天を見回しました。

「こっちよ」先を歩いているマーマおばさんが、遅れがちな子供二人に声を掛けました。

 人混みを分けてみんながやって来たのは、色々な布の並んだ大きな露天のお店でした。

 露天と言っても、テント張りというだけで、中はちゃんとした商店です。奥行きもあり、

奥には高級そうな綺麗な布がたくさん並べられていました。

「こんにちは」マーマおばさんが声を掛けると、中から店主らしい女の人が出て来ました。

「あら、マーマさんいらっしゃい」

 でっぷり太った猫の妖精の女の人は、赤茶の毛並みに埋まった小さな緑の目を細めてに

っこり笑いました。

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