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その6 リックの一大決心(3)

「ねえ母さん、何で長男じゃなきゃ父さんの仕事を継げないの? 僕、船乗りになりたい。

僕じゃだめなの?」

 マーマおばさんもリックも、びっくりしてニックの顔を見ました。

「だって、ニック…」

「無理して言ってるなら、止めろよ?」

「無理じゃねえよっ」ニックはふて腐れたように言いました。

「だって、父さんも母さんも、兄ちゃんばっかりにそんな話して……。僕やマックには何

にも聞かないじゃないか。僕は船乗りになりたい。父さんと一緒に仕事したい。ずっと、

そう思ってた」

 マーマおばさんは、言葉がありません。

 リックはじっと、ひとつ違いの弟を見ました。

 と、一番下のマックが言いました。

「リック兄ちゃんは器用だもん。釣り竿とか竹とんぼとか、みんな作ってくれるし。作る

の好きなんだから大工さんに向いてるよ? ねえ、母さん」

 マーマおばさんは、詰めていた息をはあ、と吐き出しました。

「……分かったわ。今度父さんに手紙で話してみます。ただし、父さんの返事が来るまで

は、ボッヘさんへお弟子にして下さい、というのはお預けです」

「やったっ!」リックはぱっと顔を明るくしました。

 どうしてもやりたいと言えば、子供想いの父はダメとはいいません。

 これで、ボッヘさんがいいと言えば晴れて大工見習いです。

「ありがと、母さん」

 リックはうきうきと言って、椅子に座り直しました。

「お礼なら、ニックに言いなさい。ほんと、あんた達はお兄ちゃん想いね」

 マーマおばさんは、二人の小さな息子ににっこり笑いました。

 ニックとマックは顔を見合わせて笑い、そしてリックを見ました。

「ありがとな」

「頑張ってね、兄ちゃん」

「さあさあ、本当にお昼にしましょう。リック、みんなの分のスプーンを取って」

 リックは「はい」と立ち上がり、流し台の引き出しからスプーンを出しました。

「あ、僕も手伝う」

 ニックは椅子から飛び下りて、母の手からサラダボールを受け取り配ります。

「じゃ僕もっ」

 マックも椅子から降りハムの皿を取りました。

「まあまあ、今日はみんないい子だこと」

 マーマおばさんは、いつもはお手伝いなど何処吹く風の息子達の孝行振りに大仰に驚き、

三兄弟は盛大に吹き出しました。



 父さんの返事を待つように言われましたが、リックは結局我慢出来ませんでした。

 翌日には、ボッヘさんの仕事場にすっ飛んで行って、母の許可が採れたと言いました。

 ですが。

「でもなあ、君はまだ十歳だからなあ」

 渋い顔のボッヘさんに、リックは言いました。

「でも親方、この間、母さんの許可を貰ったら、お弟子にしてくれるって言いましたっ」

「ああ、確かに言ったけどな……」

 ボッヘさんにしてみれば、リックが粘ってこんなに早く親の許可を取り付けるとは、思

ってもみなかったのです。

「前にも言ったが、弟子はたいがい、十二歳からだ。あと二年、我慢出来ないか?」

 リックはむっ、と膨れました。

 だって、親方はこの間、確かに母さんの許可を取ればいいって、言ってたじゃないか。

 心の中で文句を言って、でもリックは辛抱強く聞き返しました。

「……じゃあ、二年経ったら、絶対お弟子にしてれますかっ?」

 きっ、と睨み上げた小さな木ねずみを、ボッヘさんはじっと見返しました。

 リックは、何故かここで目を反らしたらお終いな気がして、ボッヘさんの目を見据えま

した。

 睨み合って、数秒。ボッヘさんはふっと、微笑みました。

「分かったよ。けどな、おまえはまだ十歳だ。これから先もしかしたら、大工よりもっと

やりたい仕事が出て来るかもしれん。だから、今は本格的な弟子にはせん」

「え? じゃあ……?」

 やっぱりダメなのかと、リックは顔を歪ませました。今にも泣きそうな子ねずみに、ボ

ッヘさんは思わず吹き出しました。

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