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その6 リックの一大決心(2)

 リックは、歯切れ悪く頷きました。でも、少しして、思い直したようにきっぱりと言い

ました。

「うん。でも俺、もう一回母さんに自分で話す。それでダメだったら、ミィミおばさんに

応援頼みます」

 そう、とミィミは笑いました。

 ハナハナも「頑張って」と言いました。

「じゃ、俺早速言って来るっ!」

 リックは勢い良く枝から降りると、自分の家へ向かって走り出しました。

「上手く話せるといいね」

 勢い良く走って行くリックを見ながら言ったハナハナに、ミィミは「そうね」と微笑み

ました。


 

 自分の家の前まで全速力で走ったリックは、玄関の前で止まると大きく深呼吸しました。

「よしっ」気合いを入れて、扉を開けました。

「ただいまっ!」

 パッセルベルの住人の家は、たいがい玄関ドアを開けるとすぐ台所です。板張りの部屋

の真ん中に、これも近くの森の木を使って作った食卓が置かれています。

 リックの家は五人家族なので、食卓も大きめ。その前に、お母さんのマーマおばさんと、

弟二人が座っていました。

 マーマおばさんは入って来たリックを振り返って、きっ、と眉毛を逆立てました。

「ただいまじゃないでしょ。もうお昼ですよ。何処に行ってたのっ?」

「あ……」怒られて、リックは慌てて台所の柱に掛かっている時計を見ました。針は、十

二時少し前です。

「村長さんのところの勉強が終わって、まっすぐ帰って来ると思ったら。弟二人に道具を

持たせて、何処かへ一人で遊びに行ってしまうなんて。母さんは、そんな無責任な子にお

まえを育てた覚えはありませんっ」

「……ごめんなさい」

 走って来た勢いは何処へやら、リックはしょぼんとして謝りました。

 マーマおばさんは溜め息をつくと、「とにかく、お昼にします。お座りなさい」

 リックは、手を洗って自分の席に座りました。

 待たされていた弟達が、ちらっと兄の顔を見ます。

 マーマおばさんは、食卓にお昼のメニューを並べながらリックに聞きました。

「で、何処へ行っていたの?」

「……ハナハナのとこへ」

「何で?」

「ボッヘおじさんの弟子になりたいって話をしに」

「リック」おばさんは、オートミールをよそう手を止めました。

「その話なら、この間したわよね? 母さんは反対だって」

「……どうして?」リックは、俯いたまま聞き返しました。

「どうしてって……。この間も言ったでしょ、母さんは、リックにはなるべくなら父さん

の跡を継いで船乗りになってもらいたいって。それより、おまえはまだ十歳だし、将来の

事を決めるのは早いって」

「それは、分かってるけど……」

 リックはもごもご言いました。

「分かってるなら、この話はお終い。もうちょっと先になったら、父さんとも話して港で

船乗りの勉強をしなけりゃならないけど、おまえはまだ十歳だし、今はまだ考えなくても

いいでしょう」

 決めるのは早いと言いながら、マーマおばさんは、将来何としてもリックを船乗りにす

る積もりです。

「……どうしても、船乗りじゃなきゃいけないの?」

 リックは食い下がりました。今抵抗しなければ、どんどん母の言いなりになってしまい

ます。

「僕は、どうしても大工になりたいっ。船乗りはやだっ」

「リックっ!」マーマおばさんは、怒ってばんっ、と机を叩きました。

 ニックとマックがびっくりして、つまみ食いしていた手を引っ込めました。

「おまえはっ、父さんの仕事が嫌だって言うのっ? 父さんは、遠い港でおまえ達を大き

くするために一生懸命働いてらっしゃるのよっ。それを……」

「父さんを嫌だって言ってる訳じゃ無いよっ!」

 リックは立ち上がりました。

「父さんが船乗りで働いているのは、大好きだし尊敬してる。でも、僕がなりたいのは船

乗りじゃないっ。僕は、家やものを作ったりする仕事がしたいんだっ」

「おまえは長男でしょう? 長男は父親の仕事を継ぐものですっ」

「何でだよっ! 僕には船乗りなんて、きっと無理だよっ!」

「リックっ!」

「船乗りには僕がなるよ」

 不意に、ニックが二人の話に割って入りました。

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