その4 キッパとルウ(3)
「嘘つきっ、嘘つきっ!」
「おっ、俺はっ、嘘なんか、ついて、ないっ!」
キッパは泣きそうになりながら、怒鳴りました。
拳を振り回し、子ねずみ達を追い回しました。
小さなマックが、逃げ回りながらぴょん、とブランコの片方の綱に飛び乗りました。
その途端。
降りずに様子を見ていたルウがバランスを崩し、あっという間にブランコから落ちまし
た。
「きゃあっ!」
「ルウっ!」
普通、子猫の妖精は身軽なので、落っこちても怪我をしたりはしないものです。
でもルウは、不意の事だったので安全な体制が取れなかったのでしょう。
小さな灰色の身体は、一度下の若い枝にぶつかり、それから泉に落ちました。
キッパは慌てて下へと駆け降りました。
その後を、真っ青になった木ねずみ兄弟が追います。
泉に降りて行くと、下から見ていたマーフが、丁度ルウを抱いて岸へ上げたところでし
た。
「ルウっ!」
抱き着こうとしたキッパを、マーフが止めます。
「ダメです。どうやら首の骨を折っています。動かしたら危ない」
「どうすれば…」
泣きそうな顔でキッパが言った時。
「おや、こんなところで大勢で、何をしているんだえ?」
薬草を摘んで森から戻って来たモルガナ婆さんが、子供達に声を掛けました。
キッパは振り向くと、大声で言いました。
「ルウがっ! ブランコから落ちて……っ!」
「おやおや」
婆さんは持っていた籐の篭をその場に下ろすと、くねくねと泉に近付いて来ました。
マーフにルウの身体を下へ降ろすように言うと、ゆっくりと様子をみました。
「ああこりゃ……。私の仕事じゃないね」
「どうしてっ! だってお婆さんは薬師でしょうっ?」
モルガナ婆さんの冷たい言い方に、リックが思わず噛み付きました。
「治し方、知らないのっ?」
「バカお言いでないよ、子ねずみが」
婆さんはじろり、とリックを睨みました。金色の、縦虹彩の目に睨まれて、リックは背
中がぞっとして黙りました。
「私は病を治すのが専門だ。こういった怪我は『命の水』が一番早い。長老がお持ちだろ
うから、さっさと呼んで来た方がいいね」
「ぽ、僕が行くっ」
マックが、ルウを落っことした責任を感じて言いました。
けれどモルガナ婆さんは、
「あんたが走ったって、遅いよ」
小馬鹿にしたように言うと、婆さんはすっと尻尾を上げました。
モルガナ婆さんの蛇の尻尾の先には、がらがらと音がする殻がついています。
それを、大きく振りました。
途端。耳をつんざくような音がして、子供達は思わず自分の耳を両手で被いました。
「これで、すぐに誰かが来るだろう。マーフ」
「はい」
「その子を自宅まで運んでやっとくれ。その方が長老の家から近い。それから子ねずみ共」
リック、ニック、マックはモルガナ婆さんを見ました。
「誰かが来たら、怪我人はニニィの家の子だと言いなさい。いいね?」
三人はこくこくと頷きました。
マーフは泉からふわりと浮き上がると、ルウを抱いたまま木の上まで飛んで行きました。
「ルウっ!」
キッパはマーフを追い掛けて、木を駆け上がって行きます。
「やれやれ、厄介な事に巻き込まれちまったね」
モルガナ婆さんは文句を言いつつ、置いた篭を手に取ると、キッパを追うようにくねく
ねと木を昇って行きました。
マーフはキッパ達の家に着くと、ニニィの世話をしに来ていたミィミに事情を話し急い
でベッドへルウを寝かせました。
「ニニィに言った方がいいわね」
ミィミがそう言って子供部屋を出て行こうとした時。
ニニィが部屋の扉を開けました。
「何かあったの?」
体調がすぐれず寝ていたニニィでしたが、ただ事ではない気配を察して起きて来たので
す。