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その4 キッパとルウ(1)

 北の中枝に、キッパとルウという、猫の妖精の兄弟が住んでいます。

 お兄さんのキッパは今年で10歳。ハナハナと同い年です。

 弟のルウは8歳。

 二人はお母さんのニニィと一緒に暮らしていました。

 キッパとルウも、他の男の子達と一緒に遊びに行きたい年頃です。でも二人はそんなこ

とをしていられない事情がありました。

 お母さんのニニィは病気がちで、ずっと寝たり起きたりです。なので、二人は家の用事

をすべてやらなければなりません。

 それに、二人にはお父さんがいません。

 ニニィは、お父さんのキールについて子供達には、

「お父さんは遠い国へお仕事に出掛けているの」

 と教えています。

 でも、キッパは本当の事を知っています。

 キールは、魔王が倒れた後もあちこちで悪い事をしていた魔王の配下の妖魔に、殺され

たのです。

 それを教えてくれたのは、西の下枝に住んでいる、蛇の妖魔モルガナでした。

 魔王が力を振るっていた時代でも、妖魔が全てその配下になった訳ではありませんでし

た。モルガナ婆さんの種族は何故か魔王には従わず、各地の村や集落を他の妖精達と守り

ました。

 そういった意味ではいい人なんですが、やっぱり妖魔は妖魔、他の妖精達のように優し

くはありません。

 皮肉屋で偏屈なモルガナ婆さんは、あまり村の人達から好かれてはいません。

 でも大変腕のいい薬師なので、村にはなくてはならない人です。



 キッパがモルガナ婆さんからお父さんの話を聞いたのは、去年の春でした。

 お母さんが働けないので、兄弟はあちこちでお手伝いの仕事を貰い、家計の足しにして

います。

 モルガナ婆さんはニニィの主治医でもあり、お手伝いは薬代を割り引いてもらっている

分でもありました。

 婆さんは結構人使いが荒く、その時は弟のルウは薬を煮込む鍋を掻き回す仕事、キッパ

は婆さんに付いて谷底の荒れ地へ香草を取りに行く仕事を命じられました。

 谷底の荒れ地とは、パッセルベルと隣村のパッセルトーンの丁度中間にある場所です。

 パッセルベルからは約2キロ、ちょっと遠いので、子供達だけで来たりはしません。

 荒れ地は、名前の通り荒れた土地で、周囲は森の木が密生しているのに、何故かそこだ

けは生えていません。

 まるで円形脱毛症のような場所です。でもそれだけで、恐いところではありません。

 キッパは荒れ地へ来るのは、その時が初めてでした。

 荒れ地の草は皆背が低く、中には春半ばだというのに枯れているような、茶色の草もあ

ります。

 大きな石がごろごろしていて、その間から香草の黄色の花が顔を出していました。

 上半身は人間の姿、下半身は大蛇というモルガナ婆さんは、荒れ地に着くと、

「やれやれ」と、寸胴の腰に手を当てて溜め息をつきました。

「今時分は、ここにしか摘める香草は生えてないからね、仕方ないんだけど。……ここは

あんまり来たい場所じゃないね」

 いつもは、聞き返すと怒鳴られるので、キッパはモルガナ婆さんの独り言は無視してい

ます。

 でも、この時の独り言は、何故かとっても気になりました。

「……どうして?」

 怒鳴られるの覚悟で尋ねた子猫に、婆さんは予想に反して静かな声で言いました。

「ここは昔。パッセルベルの若者と、魔王の手下の残党だった、一つ目の巨人の妖魔が戦

った場所さ。あんたのお父さんのキールも勇敢に戦ったんだよ。……死んじまったがね」

「——え? 嘘だよっ。お母さんはお父さんは遠い国に働きに行ってるって…」

「それは、おまえ達を安心させるためさ。あたしは目の前でキールがここで巨人に殺られ

るのを見てるんだ。——信じないかえ?」

 モルガナ婆さんは、いい人ではありませんが嘘は付きません。

 キッパはとてもショックでした。

 お父さんは死んでいる。

 病気のお母さんにその事を訊く事もできず、キッパはその後ずっと一人でその重大な事

実を抱え込んでいました。



 そんな、大変な思いをしているキッパとルウですが、たまには普通の子供と同じく1日

遊べる日もあります。

 二人が好きな遊びは、ブランコ。

 パッセルベルの子供達の好きな遊びは色々あります。

 女の子は花摘みやままごと遊び、男の子は魚釣りや竹とんぼ、剣士ごっこ。

 でも、子供達みんなが一番好きなのは、ブランコです。

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