その3 命の水(2)
ボッヘさんは仲間の大工さん達と、家の解体に掛かりました。トネリコの木の皮で葺い
た屋根を取り外し、壁も床も剥がします。
ばりばりべりべりという凄い音に、興味津々の子供達が現場を見にやって来ます。
「危ないから、寄っちゃダメだぞ」
大工さん達は、下の枝から面白そうに見ている子供達に注意しました。
「楽しそうだね」
ハナハナと一緒に見ていた木ねずみのリックが言いました。
「僕、大きくなったら大工さんになろうかな」
「えっ? 木ねずみさんって、大工になれるの?」
ニーニャが不審そうにリックを見ます。
「ボッヘさんも、他の大工さんも、みんなシマリスさんだよ?」
「そーだね……。ダメなのかなぁ?」
「ダメなんじゃない?」
リックの弟ニックが言います。
「ボッヘさんに聞いてみれば?」
ハナハナが言ったのに、みんなは「そうだよね」と頷きました。
何日かして解体は終わり、ボッヘさんは使える柱と使えない柱を見分けて、ルーラさん
と相談したようです。
朝。
ハナハナがいつものようにマーフの泉に水を汲みに行くと、近くの森から斧を使う音が
していました。
「大変だね、長老さまのお家の修理」
マーフは、いつも朝座っている岩に腰掛けて、ハナハナに言いました。
「うん」
「今日はルーラさん達が、柱の木を切ってるみたいだね」
「朝早くからやってるの?」
「そうみたいだよ」
マーフは微笑みました。
「みんながいい家を作ろうとしているね。楽しみだね」
「うんっ」
どんな家が出来るんだろう?
マーフと話して、何だかハナハナは自分の家の事のようにわくわくして来ました。
そして何日か経って。
一度壊された長老の家は、柱と屋根の梁が出来て、ちょっと家らしくなって来ました。
その日、屋根の板を張る仕事をしていたボッヘさんの所に、ミントさんのお婿さんがや
って来ました。
トッドさんというお婿さんは、ミントさんがその日向こうの親戚にご挨拶に行くのを迎
えに来たのです。
出かける前にボッヘさんに挨拶して行こうと、トッドさんはミントさんと連れ立って長
老の家へやって来ました。
「お父さん、これから行って来ます」
屋根の上のホッヘさんに、ミントさんが言いました。
飽きもせずに大工さんの働くのを見に来たハナハナは、ミントさんがいつもと違った綺
麗なピンクのドレスを着ているのを、驚いて眺めていました。
「そそうの無いようにな」
「はい」
ミントさんはぺこりと頭を下げると、トッドさんと一緒に下へと降りて行きます。
娘の姿が小さくなるのを、ボッヘさんは屋根から首を伸ばして見ていました。
ハナハナも、ボッヘさんが仕事の手を止めて首だけミントさんを追い掛けるのを見てい
ました。
と、その時。
ボッヘさんがバランスを崩しました。あっと言う間に、ころころと屋根を転がって、下
へ落ちます。
長老の家は三叉にあって、入り口の反対側はもう枝がありません。すぐ下の枝までは十
数メートル。
「ボッヘさんっ!」
仲間の大工さん達も、ハナハナ達も慌てて下の枝へと走りました。
ボッヘさんは、すぐ下の枝も通過して、更にその下の枝で止まっていました。
ハナハナ達子供が追い付くと、大人達は右往左往していました。
「いけねえっ、全身を強く打ってるっ」
「誰か長老を呼んで来てくれっ!」
どうなったのか、子供達が側へ行こうとすると、
「子供は来るんじゃねぇっ!」
若い大工さんに怒られました。
仕方なく、ハナハナ達は近くの枝に上がって様子を眺めました。
高い枝の上から見ると、大人達がボッヘさんを真ん中に、輪になって集まっています。