その2 銀の水時計(6)
マーフがこっちへ来なかったので、何でだろうと首を捻ったリックに、トーベルさんが
聞きました。
「うん」
「あれは、黒い妖精だね」
「でもっ、もう悪い妖精じゃないんですっ。ね、長老さま?」
せっかく泉に落ち着いたのに、またマーフが追い出されるような事になっては大変と、
ハナハナは慌てて長老に助けを求めます。
でも長老は、ただにっこりと笑っただけでした。
トーベルさんが言いました。
「でも、彼はもう魔王の影響は全く受けていないようだね。……やはりここには『光の子』
が居るからかな。
泉はよくなったね。やっと命が入ったようだ」
「え……?」
何の事か分からずに、ハナハナはもう一度長老を見ました。
「マーフが来て、この泉の水は更に良くなった、という事じゃ。トーベル伯爵の折り紙が
ついたのだから、マーフにとっても良いことじゃな」
「そーなんだ?」
子ねずみ三兄弟も、何だか意味が分からなくてみんなで顔を見合わせます。
ハナハナは、分かったような分からないような。でも悪い事では無さそうなので、取り
あえず「うん」と頷きました。
トーベルさんは出来たばかりの水時計を子供達に見せてくれました。
リック、ニック、マックは、今度は絶対落とさないようにと、そうっと持ちながら三人
仲良く眺めていました。
帰り着いた時には、もう西の空が茜色になっていました。
お土産話をすると約束していたモモに、ハナハナは今日の出来事を話して聞かせました。
すると。
「ずっるーいっ! モモもトーベルさんに会いたかったーっ! 銀の水時計見たかったー
っ! トーベルさんのお部屋に入りたかったーっ!」
次には絶対一緒に行く、と言い張るモモに、ハナハナはちょっと困ってしまいました。
「でも本当は入っちゃいけないお部屋だったのよ。だからもう二度とは行かれないよ」
「いやーっ、モモも今度行くーっ!」
あんまり駄々をこねるので、モモは最後にはミイミに怒られてしまいました。
べそを掻いたモモを慰めながら、ハナハナは気になる言葉を思い出していました。
——『光の子』って、何だろう?
前にも長老にそう言われました。
『光の子』。
言葉から好い事を言われているのだろうと、ハナハナは勝手に思っていましたが、本当
にそうなんでしょうか?
お姉さんは、その事知っているのかな?
今度ちゃんと聞いてみようと、ハナハナは泣き疲れて自分に寄り掛かり、半分寝こけて
いるモモの頭を撫でながら、決心しました。
その2 銀の水時計 完
「その2 銀の水時計」は、これで終わりです。
いかがでしたでしょうか?
今回初登場したトーベルさんは、また別のお話でも登場します。
次は「その3 命の水」です。
大工の頭領、シマリスの妖精ボッへさんは、隣村へ嫁ぐ娘さん
のことと、跡継ぎのことで、現在頭を悩ませています。
そんなボッへさんに、一大事が……!
どうぞ、ご期待下さい。