その2 銀の水時計(4)
「………あの…」
どうしていいか分からずに、ハナハナが口を開きました。
「あの、私達…」
「ごめんなさいっ!」
我慢出来なくなった子ねずみ兄弟が、ハナハナが何か言う前に大きな声で謝りました。
「壊すつもりじゃなかったんです。ただその…、すっごくきれいだったから、よく見たく
て…」
「僕も」
「ぼ、僕も」
漸く、トーベルさんが立ち上がりました。
その顔を見て、ハナハナはちょっとびっくりしました。
お姉さんのミイミから、トーベルさんはハイエルフという、人間によく似た妖精だとい
う事は教えて貰っていました。でもピエロのお化粧をしていないトーベルさんは、それは
とても美しい青年でした。
トーベルさんは、綺麗な青い目でハナハナ達四人を一人ずつじっと見ました。 ハナハ
ナは、何だか恥ずかしいようなこそばゆいような気分になって、思わず俯きました。
みんなをじっくり見てから、トーベルさんはやっと口を利きました。
「……さて、どうしたものかな」
そう言うと、机の上にあったガラスのベルを取り、ちりりん、と鳴らしました。
すぐに、部屋の外から声がしました。
それは、さっきハナハナ達にトーベルさんのテントを教えてくれた熊のおじさんでした。
「済まないけど、急いでパッセルベルの長老殿を呼んで来てくれないか」
「はい」
おじさんは、ちらっとだけハナハナ達を見て、すぐに部屋から出て行きました。
長老さまにお話しする、という事は、これは本当に大変な事をしてしまったのだ。ハナ
ハナは改めて青くなりました。
——どうしよう。どうしょう…
おろおろしている子供達に、トーベルさんは静かに言いました。
「これは、水時計というものだ。知っているかい?」
ハナハナも、三人の子ねずみも首を横に振ります。
リックがおずおずと言いました。
「砂じゃないっていうのは、分かったけど……」
「うん。銀色のものは、特殊な水なんだ。何から採った水か、分かるかい?」
子供達は、再び首を振ります。
トーベルさんは、ちょっと厳しい表情をして言いました。
「これは、妖精の血から水分だけ取り出して作った水なんだ。作るのは大変難しいんだよ。
何せ、一人の妖精の身体中の血を全部抜き取って、百日以上大鍋でぐつぐつ煮込んで、そ
れを漉さなきゃならないんだから」
「え……」
ハナハナも子ねずみ達も、恐怖に顔が引き攣りました。
特に時計を壊してしまったリックは、がたがたと震えています。
「どうしようかなあ。この時計が無いと、季節を計る事が出来ない。次の村や街に行くの
に、季節が分からないと動けないし。
——そうだ、誰か時計の材料に、なってくれないか?」
トーベルさんは、リック、ニック、マックの三人を次々に見ました。
小さなマックが、恐くてしゃっくりを始めます。
「と…、と…、時計の、材料って…、血を抜かれるってこと?」
お兄ちゃんのリックが、意を決して質問しました。
トーベルさはこっくり頷きました。
「君達は小さいから、小さな時計しか作れないけど、それでも無いよりはいいからね」
「死んじゃうの…?」
二番目のニックが聞きました。
「ああ、そうだよ。でも悲しむ事は無い。血を抜かれた妖精は、壊れるまでは時計になっ
てずっと生きていられる。まあ、話したり動いたりは出来ないけどね。それに、大好きな
お菓子も食べられないし、二度とお母さんの顔も見られない。でも…」
そこで、マックがついに泣き出しました。リックが慌てて弟を抱きかかえます。
「マック、マック」
わあわあと声を上げて泣く子ねずみに、トーベルさんは少し困った顔をしました。
「おっ、おっ、お母さんに会えないっ! お母さんっ!」
泣きながら、お母さんを繰り返すマックを見ていて、ハナハナは決心しました。




