9.消えない跡
それからの日々は、
ただ何もなく過ぎていった。
俺も仕事をしてないから、
相変わらず家にいた。
美樹は、あれからずっと部屋に泊めていた。
俺は1人暮らしで自炊もできてたし、
親の金も残ってたから、
生活は難なく過ごせていた。
そんなある日の夕方、美樹は俺に尋ねた。
「あの灯りは何?」
俺は、美樹の指差す方向を見つめた。
___あぁ、そういえば祭りやってるのか。
この町では昔から、秋に地車が町を回る。
そして神社には、屋台が沢山並んでいた。
「祭りだよ、行ってみる?」
「うん…」
こうして俺は、数年ぶりに祭りに向かった。
1人では、絶対に向かわなかっただろう。
ただ、何かが変わればなと、そう思った。
久しぶりに行った祭りは、変わり果てていた。
数年前の活気は、何分の一も小さくなっていた。
地車は、動いていなかった。
それもそうだ。
数年前、あんな事故があったから。
_____あれは、一瞬だった。
俺は毎年のように家族4人で祭りに来ていた。
活気のある地車を、迫力のある近くで見ていた。
父母と妹、幸せだった。
父が妹を持ち上げて、見やすいようにしていた。
笑いが耐えなかった。
ほんと、幸せだった。
そんな時、地車が方向切り替えを誤り、
家族に突っ込んできた。
俺は、助かった。
_____俺だけが、助かってしまった。
俺はその日、家族3人を一瞬にして失った。
それ以来、俺は来ることがなかった。
あの出来事を、思い出してしまうから。
あの光景が、目の前に広がってしまうから。
ただ、何年経っても変わることはなく、
その場所には、血がまだ染み込んでいた。
あの時と同時刻。
忘れることのない、18時53分。
俺は、空を見上げた。
「どうしたの…?」
「…ううん、なんでもないよ
せっかく祭り来たし何か食べるか?」
「ドーナツ」
「…おう…あるかな...何個?」
「10kg」
「それドーナツの単位じゃないから…」
星が3つ、赤い、
果てしなく広い空に輝いていた。