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最果ての地で。  作者: 織瀬春樹
5章 二人
22/24

21. 静かに




「美樹!」



俺は精一杯叫んだ。


そして全速力で駆け寄る。



「……なんできたの?」



美樹の口から、細い声が聞こえる。


そして、俺の着ていた上着をかける。



「その格好じゃ寒いだろ、

もう12月なんだから」


「…あ、うん」



「…あの手紙、本当なのか?」


「うん…そうだよ」


「なんで…なんでいきなり……」



美樹は、こう続けた。



「妹が、見つかったの」


「え?」




【9分】





「前に言った、家から逃げた時に一緒にいた妹。

昨日ニュースでやってた。

捜索されてた子が見つかったって。

その子は、どう見ても妹だった。

やっぱり、名前も出てなかった」


「でも、それで戻る意味は」


「もう一つ、約束してたの。妹と」


「え?」


「もし、どちらかが見つかったのが分かったら、

助け出して、また逃げるって。

もうあんな風に生きるのは嫌だから」


「……そうだったのか」



彼女達は、辛い生活をしてきたんだ。


見捨てるなんてことは出来ないんだろう。





【8分】




「ってことは、また戻ってくるんだよな?」



一番聞きたい事だった。

でも、



「多分、戻ってはこれないと思う」


「…っ!なんで!」


「広樹…さん?の時の病院からの帰りに、

見ちゃったんだ」


「なにを…」


「屋敷で見た事のある人だった。

多分、探しに来たんだと思う」


「そんな……」




【7分】





「いつかは来ると思ってた。

でもほんとにその時がくると、こんなにも不安になるんだね…」



美樹の唇が揺れていた。


それだけじゃない。手も、足も。


俺は、その手を強く握った。


その震えを、少しでも和らげれるように。


そして、



「戻ってこれるよう、準備しておくよ。

部屋もそのままにしておくからさ、

落ち着いたら帰ってきてくれ」



そんな言葉をかけた。

本心だった。





【6分】





「急がなくてもいいから、ゆっくりでいいからさ。

だからまたふらっと帰ってきてくれ、な?」



「………うん、……うん…」



俺の手の甲に涙が落ちた。


彼女の涙は、静かに次々と伝っていく。


そして彼女は、笑って、



「考えとくよ……」



涙を流し続けながらも、静かに答えた。



「なんじゃそりゃ」



そう、俺も答える。





【5分】




その時、背後から電車が近寄ってくる。


もう、時間は少ししかない。



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